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いつか、きっと好きになりたい

「顔というものは、自分が作っていくものだ」と、よく言われる。そりゃあそうなのだろうと思うけれど、まだ20代の私にはイマイチ実感がない。

 予告を見たとき、シュッとしたシルエットのアーティストJRと、ちんまりとしたキュートなアニエス・ヴェルダのちぐはぐ感が面白いと思った。
 大きな壁に、その土地で出会った人たちの「顔」を貼り付けていく。一見、シンプルにも奇抜にも見える2人の様子に魅了されて、絶対観ようと決めた。大きなスクリーンで、2人の作品を目に焼き付けたいと思ったからだ。

 顔というのは、自分から切り離して見てほしいともがいても、絶対に叶わないものだ。

 『顔たち、ところどころ』には、たくさんの“普通”の人が登場する。本当に普通なのだ。ファッションもそうだし、もちろん美しい人もチャーミングたっぷりな人も、愛嬌に溢れている人もいるけれど、それはレッドカーペットを歩くような輝かしい感じとはちょっと違う。きらびやかな眩しさはないけれど、キラキラしていてじっと見つめたくなるような温かさがある。

 初めて、ブスだと言われたのは4歳のころだった。当時、意味が分からなかった私は母に聞いてみた。母がなんて返事をしたのかは覚えてないけれど、ちょっと困った顔をしていた気がする。

 つまり、私は20年間「ブス」という称号を背負ってきた、エリートブスというわけだ。大人になれば言われないだろうと思っても、直接的表現が控えられるだけで、今でも年に1回くらいは似たようなことを言われる。

 それから、1年に1回は言われるようになり、年を重ねていくとその頻度はグッと増した。ニコニコと笑っている写真が残っているのは、10歳くらい。それ以降に撮ったどの写真を見ても、私の表情筋は動いてないし、とにかく暗い。この頃、顔のことを言われるのは人生でピークだったと思う。

 だから、私は自分の顔が嫌いだ。大嫌いだ。

 石原さとみの顔になれるならトカゲの干物までなら食べられるし、アン・ハサウェイになれるならタランチュラまでなら頑張れるかも……。そう唱えたところで、私は石原さとみにもアン・ハサウェイにもなれない。

 里帰りをするたびに、「私はブスだから」という私に、父も母も「人間は顔じゃない」とは言わず、「人間の顔は日頃の積み重ねで出来ていくんよ。」と粛々と語る。分かるけれど、分からない。実感として、まだ掴める場所に立っていない。

 映画には、たくさんの人たちが出てくる。大人も子どもも、お兄さんもお姉さんも。立場とか関係なく、みんな明るい顔で写真に写る。
 ちょっと映りが悪いな、と照れくさそうにつぶやくおじさんもいる。カフェの店員さんは照れくさそうに、自分の姿が貼られた壁を見上げていた。集合住宅に住むおばあさんは、自分の顔が貼られた家の壁を見て、ただ涙ぐんでいた。彼女の人生がつまった家は、彼女そのものなのだと思った。

 もしも、JRとアニエスが私のいる場所に訪れたとして、私はぜひ写ってと声をかけられるだろうか。きっと無理だろう。コンプレックスを拗らせまくって、自信がペラペラの私に声をかけることはあり得ないと思った。

 たくさん笑う人の顔はどんな表情でも華やいで見えるし、不機嫌そうな顔をしているといつの間にか癖になってしまう。

 顔って、私が思うよりも、ずっとずっと正直なのかもしれない。そして、愛すべきパーツなのかも。

 映画を観ながら、そんなことを考えていた。

 アニエスは88歳(当時)とは思えないほどに、チャーミングでキュート。日本のおばあちゃんだったら、あんなセリフ言えないわ!と、何度か吹き出す場面があった。皮肉というか、ジョークが上手いのは、西欧のなせる技なのだろうか(もちろん、字幕のすばらしさもあるけれど)。

 57歳差の二人はぶつかることもあるけれど、互いのことをきちんと思いやっていた。軽口を交わして、慰めて、年齢なんて関係のない場所にいて、互いのことを信頼している。

 2人は、特にJRは自信に満ち溢れているように見える。いつも堂々としていて、足取りは軽やかで、間違ったことなどないと思っている。そして、愛情にも溢れていた。一見、ちょっといけ好かない男なのに、この映画でのJRの姿は、とても人間味に溢れていて魅力的だ。

 2人が出会うことは奇跡であり、運命でもある。一言で片づけると、なんと安っぽいと思うかもしれないけれど、2人のつくり上げた作品を見ると、きっと納得してもらえるだろう。

 2人の旅は、ユニークで、シンプルで、近いようで手が届かない。たくさんの人間の“過去と現在”がつまった作品たちに、どうしても胸がつまってしまう。なんてことないシーン、言葉に、思わず頬が濡れる。

 いつか、私も自分の顔が好きになったら……二人の作品に取り入れてほしい。なんて、ちょっと図々しいかしら。

 今の私の顔は、24年の間、私がコツコツと積み重ねて作り上げたものだ。
 そう思うと、「なんだか、悪くないかも」なんて、鏡に映る質素な自分の顔を見つめた。

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