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偏愛音楽。 夢のような。
あけましておめでとうございます。偏愛音楽の19回目は、初夢の日に相応しい「夢のような(Dreamyな)音楽」をセレクトしました。
何かアルバムを紹介するときに、「Dreamyな音楽」という言い方をちょくちょく使っているような気がします。つまりこの「Dreamy」であることも僕が偏愛する音楽の一つの方向性ということだと思います。では「Dreamy」とはなにか。ChatGPTに聞いてみたところ、
1. 夢のような、幻想的な:何かが美しく、柔らかく、ロマンチックで、まるで夢の中にいるような雰囲気を表す。
2. 魅力的な、素敵な:特に人に対して使う場合、その人が非常に魅力的で素晴らしいという意。
3. ぼんやりした、夢見がちな: 頭の中で考え事をしているような、注意散漫な状態。
4. 理想的な、素晴らしい:状況や物事が完璧で理想的であることを表現。
「dreamy」という言葉は、詩的で感情豊かなニュアンスを持つため、ロマンチックな文脈や感動を表す場面でよく使われます。
というわけで、それなりに広い概念といってよいのではないでしょうか。基本的には夢の「ような」であり、夢そのものではありません。個人的に「Dreamyな音楽」と僕が感じる音楽の方向性は、アトモスフェリックで、残響を残したサウンド・クリエーション(シューゲイズもあり。)、囁くような優しい歌声とメロウで心地よい旋律。逆にエッジの効いたサウンドや、朗々とした感情過多な歌声はドリーミーとは言えません。まあ基準というにはかなりいい加減な感覚で選んでいます。
今回も10作品に絞りました。フルアルバムのみとして、EPは除きました。各々に簡単なコメントと音源を付しています。
では良い初夢を!
*現在までの「偏愛音楽。」はこちらのマガジンでご覧いただけます。
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BENOÎT PIOULAR / Eidetic
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Benoît Pioulardは、米国のシンガー・ソングライター、多楽器奏者、作家、写真家。エレクトロニカ〜アンビエントを聴く機会はめっきり減っているのだが、本作は歌もフューチャーされていてシンガー・ソングライターとしての側面も強く、それ故容易に入りやすい。その部分と彼の作り出す幻想的な音像は、とてもフィットしているように思う。歌のある曲は清潔なアコースティック・ギターのサウンドを中心にして、ヴォーカルなしの曲はアトモスフェリックに。どちらも繊細かつドリーミーな音像で、落ち着いた暖かい歌声が、ざわついた日常をトランキライズしてくれる。
Crumb - Jinx
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ブルックリンを拠点に活動する、4ピースのインディー・ロック・バンド”Crumb”。ミステリアスで記憶の海の中にいるような曲想、幽玄で時にサイケデリックなサウンド・クリエーション。そして紅一点のLila Ramani にフェミニンで気怠くて、ドリーミーな歌声。とても趣味がよいなぁ。個人的にはこの年のベスト級に気に入ってます。
Gia Margaret - There's Always Glimmer
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Gia Margeretはシカゴ在住のシンガー・ソングライター。本作は彼女のデビューアルバム。基本的にフォーキーな音楽なのですが、彼女自身が”sleep rock”と表現しているように、実にドリーミーな心地よさ。単にフォーキーなだけではなくて、アンビエントで、エレクトリカルで、シューゲイズ、多様な彩を一つの世界観に集約し、柔らかい旋律と彼女の押し付けがましくない端正で柔らかい歌声で綴った美しい作品です。
Laetitia Sadier Source Ensemble - Find Me Finding You
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STEREOLABのLaetitia Sadierのユニットです。古いジャズやポップ・ミュージック、そして映画音楽を思わせる、小粋なノスタルジアを、エレクトロニカも用いた斬新な、キラキラ輝くドリーミーなサウンドで構築した素晴らしい作品です。懐かしく新しく、そして心地よい。Laetitia Sadierのくっそ落ち着いた歌声がとてもクール。
Moonchild - Starfruit
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心地よい音楽という部分では、彼らの右に出る者はいないのではないかな。MOONCHILDの強みはメンバー全員が他楽器奏者で、決して分厚い音を目指しているようには思わないけど、息のあったカラフルなアンサンブルから生まれる心地よく揺れるドリーミーなサウンドを創り上げています。そしてなんといっても美しい旋律と、Amberのスィートで儚げな歌声。この声と曲の魅力には誰も抗えませんよね。
Moons - Thinking Out Loud
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一作目”Songs of Wood & Fire”も素晴らしかったBelo Horizonteのユニット。André Travassosを中心としていることは前作と同じだが、他のメンバーは随分代わった様だ。全編英語で歌われているし、音楽はFolk / Rockだし、ほとんどブラジル色は薄いのだけれど、記憶の迷宮に彷徨う様な、ドリーミーで陰影を孕んだ音楽性はユニバーサルな魅力に溢れている。ブラジルということを抜きにしても素敵な音楽だな。よりメランコリックになったね。
The National Jazz Trio of Scotland - Standards Vol. VI
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Bill WellsnoプロジェクトThe National Jazz Trio of Scotlandnの最近作。ジャズの伝統的な「トリオ」とは異なり、ミニマルで繊細なサウンドと、Aby Vulliamyの淡くジェントルなボーカルで、シンプルながらも情感豊かでドリーミーな音を創り上げています。ポップスやジャズの要素を融合しつつ、インティメイトで独特の感性を感じさせます。
omm.. / Vacant Room
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omm..は、韓国の1人ユニット。この人の歌声も韓国人らしい声質で実に柔らかい。適当に緩くてでも透明感もあり、メロウな心地よさもある。空中泥棒やkhc/moribet、Kimbanourkeなどに比べればトンガってはいないし、そのサウンドのエンテロピーは低いけど、韓国インディーズらしい斬新な感覚は、彼らに比肩するものだ。耳に残る穏やかなメロディー・ライン。控えめなコーラス。清冽なエレキギターを中心にしたセンシティブで洗練された暖かいサウンド。の〜〜んびりチルするには最高のアルバムです。
Peel Dream Magazine - Rose Main Reading Room
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Peel Dream Magazineは、Joseph Stevens をフロントとする、男女トリオによるLAのインディー・ロックバンド。メンバーはJosephのほか、ヴォーカルのOlivia Bubaka Blackと多楽器奏者の Ian Gibbs。本作は極めてドリーミーな傑作だと思う。キャッチャーな旋律と囁くような男女の歌声と、瑞々しくキラキラと輝くようで浮遊感のあるサウンドは、微睡の中にあるような快感をもたらしてくれる。
Wilsen - Ruiner
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Wilsen は、Tamsin Wilson率いる3人組オルタナロック・バンド。Matthew E. White のツアーサポートにも抜擢されたという注目の存在です。本作はそんな彼らのセカンド・アルバム。吐息のような、Tamsin Wilsonの可憐で儚い歌声、そしてまさにドリーミーと言うべき清潔なサウンド・クリエーションとメランコリックな旋律が素敵だ。