見出し画像

偏愛音楽。 日本のQuiet Music。

「偏愛音楽。」の14回目は日本のQuiet Musicです。

心を穏やかにしてくれる静謐な音楽は、僕の偏愛する音楽の一つの方向性です。そんなQuietな音楽を今回は日本人アーティストのみからセレクトしました。

さていざそういう視点でディスクを選んでみると、今まで山形で公演をしていただいた日本のアーティストの音楽は、Quiet Musicと呼んでも外れてはいない人たちが、実は多かったのだと改めて気付きます。Quietとカテゴライズされること自体を嫌がる人もいるかもしれませんが。そしてコロナ禍でharuka nakamuraさんとの山形公演が中止になったLUCAさん、そして山形への招聘の話もあったけれど実現しなかったMasayoshi Fujitaさんには山形に来ていただいていませんが、それ以外は皆さん山形で公演をしていただいているアーティストです。

ちなみに幻の公演となってしまったharuka nakamiraの「海辺のリオン」のフライヤー。

考えてみればショーロクラブなんて、ず〜〜っとQuietですし、haruka
君も、ゴローさんも、一馬くんも、林さんも、中島さんも静謐な音楽(大人しいという意味とはちょっと異なります)を奏でていて、日本には実に質の高いQuietなアーティストがいるのだと気付きます。しかし今回も10作品のみに絞りました。またフルアルバムのみとして、EPは除きました。各々に簡単なコメントを付しています。日本人以外のQuiet Musicについても近日アップするつもりです。

*現在までの「偏愛音楽。」はこちらのマガジンでご覧いただけます。




AOKI, hayato & haruka nakamura - FOLKLORE

青木隼人とharuka nakamura。当時ともに旅をして、音楽を希求した二人による、一つのマイルストーン。旅は記憶となり、記憶は感覚や情緒と混ざり合う。そこから産まれた音楽は単なる記憶の反芻ではなく、記憶から産まれた創造である。二人の見つけた風景や郷愁は、この国に見いだした「Folkrole」。それは音楽の形態ではなく、日本人的な心象風景を求めて行き着いた、内的フォルクロアである。


Choro Club - música bonita

「ジャンルを超越した音楽」が溢れる現在ですが、そんなことは彼らはずっと前からやってきたことで、ショーロを演奏しないショーロ・クラブの音楽の原点は本作のタイトル"Música Bonita”そのものだと思うのです。でもその音楽の中に彼等ららしい日本的で慎ましい情感や、間が感じられるのです。普段は目も合わせない、倦怠期の夫婦以上に会話もない3人だけど、音楽のでの対話はなんと粋で饒舌なことか。


Goro Ito - GLASHAUS

本作は伊藤ゴローさんの音楽的記憶の賜物であり、紛れも無くその美意識から生じた結晶だと思うのだ。音楽を徒にカテゴライズすることが如何に無粋で無用であるかは、本作を聴くことで自明ではないでしょうか。Jaques Morelenbaumと、Andre Mehmariと、Jorge Herderと、というこれ以上を求め様もないアーティストと共有した、これは清潔で楚々として、かつ成熟した果実であります。


haruka nakamura - 音楽のある風景

haruka nakamuraのピアノと、サックス/フルートの荒木真、サックスの内田輝、ヴァイオリンの根本理恵、打楽器の斉藤功の計5人のピアノ・アンサンブル。インプロヴィゼーションを中心とした自由な交歓でありつつ、全員が同じ到達点に向けて収束していく。暗闇に始まり、敬虔にして無垢な肌触りの音楽は、光に到達し輝きを放つ。「祈り」を思わせるその作業によって、「光」を見いだしている。静謐で洗練を極めたチャンバー・ミュージックであり、また懐かしい情景を想起させる音楽でもある。


Kazuma Fujimoto - FLOW

日本の新しい室内楽の旗手として注目を集める彼の作品は、大地や川の流れに溶け込むような滔々として静謐な印象があるが、その底には常に嫋やかで、豊かな音の流れが息づいている。ブラジルからジョアンナ・ケイロス、アルゼンチンからシルヴィア・イリオンド、そして林正樹、西嶋徹が参加した本作は、淡く映像的で、清冽である。印象的なジャケットの写真は、ハンガリー出身の写真家、故アンドレ・ケルテスによるもの。


LUCA & There is a fox - Shapes

バークレー出身のシンガー・ソングライターであるLUCAと、アメリカとカナダで育ちで京都在住のThere is a foxとのコラボレーション。二人とも海外での生活の経験があり、音楽的感覚にも通じるものもがあるようですLUCAさんの歌には、刹那の感覚があります。確かに存在したのに形が消えていく、儚い一瞬の美しさとでも言いますか。記憶の断片をくすぐられる、朧げな映像のような、そんな感覚を覚えます。


Masaki Hayashi - LULL

本作は林正樹さんの、全曲オリジナルのピアノ・ソロ。1曲1曲の静謐で穏やかな佇まい、思索的で詩的な曲想、そして繊細なタッチ。今までのアルバムの中でも、本作は儚く透明で、より内省的で抑制的に感じられる。タイトルのLullとは、「なだめる、あやす、すかす、(…を)なだめてする、寝つかせる、もみ消す、やわらげる、静める」などの意。成る程この音楽は聴く者を、穏やかに揺らしつつも、やがて平穏な在り様へと導いてくれる。


Masayoshi Fujita - Book of Life

ヴィブラフォンのクールな響と、透明な残響のヴァイブレートが、一瞬にしてその場の空気を変えてくれる。記憶の中に静かに侵食し、穏やかな刺激がさまざまなイメージを形作る。いろいろな光景が、頭の中に思い浮かぶ。ストリングス、フルート、そしてコーラスを加えて、その静謐なる世界観はより立体的で、質感にも奥行きを増している。一曲一曲が、美しいストーリーとして成立しつつ、全体を通して一つの大きな物語を構築している。


Nobuyuki Nakajima - Melancolia

中島さんの音楽はジャンルや国境という呪縛から自由である。しかしその自由はもちろん無秩序を意味するものではなく、中島さんの美意識によって見事な統一感と調和を示している。この作品に感じることは、時間的、空間的浮遊感。これは例えば記憶という内的時間を遡る感覚にも似ているし、様々な映像的なイメージも惹起される。消え去ったものを思い起こさせる、優美で切ない傑作。


Tatsuro Yokoyama - If You Were Closer

本作はコロナ禍で移動や人と会うことを制限された横山さんが故郷宮崎で災厄の中、2年の月日を費やし、会えない人たちに会いたいという思いを表現した「大切な人を想う黄昏の時間」をテーマとした作品集なのだという。感情がストレートにしかしアブストラクトに表現されていて、審美的で抑制的であっても、暖かくも胸が締め付けられるような情感が伝わってくる。一つ一つの曲が短編小説のようなピアノ作品集です。


いいなと思ったら応援しよう!