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2010年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)
2010年度ブラジルディスク大賞、関係者投票に選んだアルバムです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてアーカイブしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付します。2010年も今見ても名盤だらけです。Moskaはこの頃素晴らしかったですが、最近はどうしてるのかな?今考えるとこの年はTatianaが1位だったかなと思います。
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総評:
1)はモスカの新境地。小品ながら琴線に触れた。壮大で透明な2)、独自の立ち位置の3)、アルゼンチンとサンパウロを繋ぐ4)、期待以上に素晴らしいデビュー作5)、期待通りの高品質だった6)、瑞々しい感性の7)、久々ながらやはりカッコいい8)、洗練されたガフィエイラを提示した9)、サンパウロらしい捻くれた10)などが今年の好物。「イン・マントラ」は音楽の性格上敢えて外したが、これも素晴らしい作品だった。
1) MOSKA / Pouco
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Moskaの久々のスタジオ録音。この長いインターバル(もちろんこの間Zoombidoのような興味深い活動はあったが)に、自己の音楽を徹底的に見つめ直したのではないだろうか。"Pouco"と"Muito"の2作がリリースされたが、今のところこの"Pouco"だけを聴く事が出来た。これが今までのMoskaとは全く違うのだ。もともとcosmopolitanなpop/rockを指向するMoskaなのだが、本作では彼の声とギターを中心に、Marcos Suzano, Pedro Aznar, Chico Cezar, Maria Gaduなどのminimalなsupportのもとに、SSWとしてナイーブ極まりない音楽を創り上げた。Zelia Duncanとの共作をはじめ、切なく穏やかで、メランコリーな楽曲は、新境地と言えるだろう。Brasilidadeは決して濃くはないけれど、このデリケートなMoskaの新しい音楽に喝采を。
2) SÉRGIO SANTOS / Litoral e Interior
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Sergio Santosは、現代のBrasil音楽界において、最も質の高い音楽を提供し続けているartistである。少なくとも私はにとっては。Minas出身であるが故か、彼独特の透明な、澄んだ色彩感と、柔らかな陽射しのような暖かさがあるのだ。そして本作はAndré Mehmaríを招いて、大胆にorchestrationを導入したアルバムである。聴く側としては、少々戸惑いも有ったのだが、やがてその美しさに引き込まれてしまった。classicやjazzも飲み込んだ、スケールの大きい、品格の漂うアルバムだ。
3) DELIA FISCHER / Presente
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前作"Antonio"から10年振りの新作。煌めくDelia FischerのpianoとRhodes、simpleで趣味の良いSebastian Notiniのpercussionをベースに、Hemeto Pascoal, Egberto Gismonti, Ricaldo Silveira, Ana Carolinaなどがゲストとして花を添えている。哀愁を秘めたDeliaの儚いvocal、melancholicで、奥行きを感じさせる曲想、そしてJazzyで室内学的なsound、全てが素晴らしい。これ傑作です。
4) TATIANA PARRA / Inteira
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本作は様々な意味で注目されるべき、意味深いアルバムだ。まずは注目のSao PauloのNovos Compositores系の最新かつ進化した一つの完成型として。そしてAndres Beewsaertのアルバムに参加していた彼女のアルバムに、Aca Seca Trioが参加したことにより、contenporary folkrole sceneとNovos Compositoresとのcross overが、音楽的にも人脈的にも構築されたこと。さらにはTatiana Parraという素晴らしく個性的な歌手のデビュー・アルバムであること。注目されるべき、などと言うことよりも、音楽的に新しくなんと将来性を感じさせることか。Sao Pauloの音楽であればこそこういう進化はあり得るのだと思う。さらにproduceはMarcelo MarianoそしてCaser Camargomoも参加という、多くの要素が共鳴し合って創り上げられた驚くべきアルバムだ。
5) NINA BECKER / Azul
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Orquestra Imperialの華、Nina Beckerの満を持してのソロ・デビュー作は、なんと一度に2枚なのであった。これが頗る良いのだが、まずは静の”Azul”から紹介。しっとりとシンプルに、そして清新と洗練を感じさせるsoundそして、抑えた感情を柔らかくふっくらと紡ぎだすNina Beckerの歌が秀逸。素敵すぎます。
6) ROBERTA SÁ & TRIO MADEIRA BRASIL / Quand
o O Canto É Reza
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Roberta Saと、Trio Madeira Brasil (Ze Paulo Becker, Marcello Goncalbes, Ronaldo do Bandolim)との共演盤と言うだけで、大いに期待をするわけなのだが、さらにRoque Ferreira曲集という、素晴らしい企画なのであります。私正直に言いますと、Roberta Saの前作、あまり好みではありませんでした。「もっと出来る子」だと思っておりました。そこに本作の登場。Trio Madeira Brasilの美しくも複雑なアンサンブルに、どこまでの伸びやかなRoberta Saの歌。そしてこの組み合わせで、Roque FerreiraのBahiaのsambaを歌うというのは、出来過ぎです。でも出来ちゃったんです。こういうの待ってたんです。
7) SPINETTI, DADI, CECCARELLI, PETRENI / Inventa Rio
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Dadiと3人のItalia人jazzmenとの共演作。この音楽にこのjacketを組み合わせた稲葉さんのセンスには脱帽だ。もちろんDadiはベテランなのだけれど、このディスクに収められた音楽はそんなことを忘れさせるもの。封じ込められた、瑞々しく純粋で、そして粋なsentimentalismには、世代などという言葉は全く無意味だ。Marisa Monte, Ivan Lins, Wilson Das Neves, Mauro Dinizなど、錚々たるguestもDadiの音楽に溶け込んだ。今のところ絶対今年のbest。(アルバムをフルに試聴できるサイトを発見できず。)
8) CHICO PINHEIRO / There’s A Storm Inside
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Chico Pinheiroの待望のNew Album。GuestにDianne ReevesとBob MintzerというJazz界の大御所を招いて、Sao Pauloと米国で録音された。もちろんJazz色は従来よりさらに濃いのだが、基本的なChico Pinheiroの核は全く変化していない。いかにもChicoらしい都会的で洗練された楽曲と、ますます技巧的に進化を見せる流麗なギター・プレイ、そして格段に進歩した本人の歌(色っぽいカルロス・トシキと言っては怒られますか?)による、ChicoならではのSao Paulo的で洒脱な世界。Paulo Pauleli (b.), Marcelo Mariano (b.), Edu Ribeiro (dr.), Fabio Torres (p.)のサポートもtightで実にカッコ良く、そしていつもながらのLuciana Alvesの歌が、極上の透明感をもたらしている。これも今年のベストの一つ。
9) GAFIEIRA SÃO PAULO / Gafieira São Paulo
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これはいいなぁ〜。なんでこれ聴いていなかったのだろう。Gafieiraがテーマだから勿論dancableな音楽なのだけれど、それ以上に洗練が光る。選曲もMoacir Santos, Chico Buarque, Joao Donato, Giana Viscardi, Laercio Freitusなど新旧取り混ぜて。Verônica Ferrianiの歌のカッコよさったらもう。大推薦盤です。
10) JULIO DAIN / Apenas Humano
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久々にbig name以外のartistで、素晴らしい作品にであった。France在住期間も長かったというSSW、Julio Dainのalbum。複雑でcoolで、少しexperimentalで、cosmopolitanな音楽性はその経験故か。核となるのは、落ち着き払った彼の歌声と、Pedro Sa, Marcos Suzano, Marcelo Costa, Lui Coimbraなどを迎えたsensitiveなsound creation。これ、忘れなければ、2010年のディスク大賞候補の1枚。
DVD: DANI GURGEL / Viadutos
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