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偏愛音楽。 piano melancholia。

偏愛音楽の17回目は、僕の偏愛するメランコリックなピアノ・ソロを中心にしたアルバムをセレクトしました。

ところで「メランコリー」って表現をよく使ってますが、正しくはどういう意味なのでしょう。これ、最も主たる意味としては鬱病のことです。しかしこの言葉、必ずしも医学的な「鬱病」や病的な状態に限定されるわけではありません。

「メランコリア」は、単に憂鬱な気分や物思いにふける感情を指すこともあります。この場合、必ずしもネガティブな感情ではなく、人生や美しさ、時間の移ろいに対する感傷的な思いを含むことがあります。

さらに、

詩や文学では、「メランコリア」はしばしば象徴的な表現として用いられます。ここでは「深い静けさ」や「感情の深み」を指し、必ずしもネガティブな意味を持たない場合もあります。

ということです。音楽で言えば感傷的で内省的な美しさをもった音楽といって良いでしょう。

そういうメランコリックな音楽は僕が偏愛する方向性の一つなのですが、今回はその中から主としてピアノ・ソロによって演奏されたアルバムを選びました。実は必ずしもピアノ・ソロだけではないアルバムもこの中には含まれています(Goldmund - The Malady Of Elegance、Nils Frahm - Feltなど)。また「Duval Thimothy - Sen Am」もピアノ・ソロだけのアルバムではないのですが、ピアノ・ソロを中心にした数曲が好きなのでセレクトしています。

今回も思いついた10作品のみに絞りました。各々に簡単なコメントを付しています。これからのシーズン暖かい家の中で聴いていただきたい。

*現在までの「偏愛音楽。」はこちらのマガジンでご覧いただけます。



Alejandro Franov - Melodia

「音の妖精」という表現もこのFranovには、不自然さを感じない。そのimaginationは枯渇すること無く、常に豊穣な音像を紡ぎだし続けている。本作は2005年のピアノ・ソロ。ピアノを弾く Franovもまた、「音の妖精」なのであった。Jazz的なアプローチとはまた異なる、彼なりのピアノ・ソロは、個性的でどこか可愛らしくまたこの上なく美しい。


Bill Laurance - Affinity

Snarky PuppyのBill Lauranceによるピアノ・ソロ。想像以上に審美的でロマンチック。流麗で煌めくようなタッチと、クラシカルで映像的イマジネーションを惹起する優美な旋律が素晴らしい。クラシックを学んだことがあるというBill Lauranceが、ストレートに自身の音楽を表現したアルバム。典雅にして洒脱、端正でリリシズムに満たされた、耽溺すべきアルバムです。


Carlos Aguirre - Caminos

Carlos Aguirreの2006年のアルバム。全編が彼のピアノ・ソロによる作品。勿論ピアノ・ソロとして、これだけ美しい作品自体希有なのではあるが、ソロであるが故にここにはCarlos Aguirreの様々な音楽的記憶も見え隠れする。もちろん根幹はArgentinaの大地に根ざした彼らしい音楽なのだが、幅広い音楽性が見え隠れする、Carlos Aguirre音楽観で統一された作品。


Duval Thimothy - Sen Am

ロンドンとシエラレオネを拠点とする芸術家、Duval Timothy。なんで「音楽家」ではなくて「芸術家」なのかと言えば、音楽以外にも絵や写真やデザインなどの創作も行っているから。自身のピアノを中心に、spoken word、スライドギターなんかも効果的に使って、極めてシンプルかつミニマルで、朴訥で内省的で静謐で、しかし洗練された世界観を構築している。メランコリックなのだけれど、Hip/Hopを経由した音楽的な背景も感じられて、極めて中毒性の高い作品です。


Goldmund - The Malady Of Elegance

シンプルで美しいピアノの旋律と、ノスタルジックで静謐な音楽性。「The Malady Of Elegance(優雅の病)」というタイトルが示すように、アルバム全体に漂う感情は、優雅さと儚さ、そして郷愁が入り混じったものです。非常に繊細で、どこか孤独感や静けさを感じさせます。鍵盤を叩く音や周囲の微かな環境音が意図的に含まれ、まるで部屋の中で直接演奏を聴いているかのような感覚を覚えます。


Nils Frahm - Felt

2011年にリリースされた作品で、彼の独特なアプローチと音楽性を象徴するアルバムです。ピアノの内部にフェルトを挟むことで、音がより柔らかく、親密で温かみのあるトーンになるよう工夫ています。これは、深夜に録音作業時に、音漏れを抑えるために生まれたそうです。鍵盤を押す音やペダルの動作音、部屋の自然な響きなどを取り込むことで、「空間を含めた音作り」を聴き手に与えます。


Peter Broderick - Piano Works Vol. 1

本作はPeter Broderickのピアノ・ソロ。元々は楽譜集『Piano Works Vol.1』に付属した、購入者がダウンロードのみで入手できるアルバム。最もミニマルな表現形態の作品で、むしろそれが彼のコアに近づくような感覚で、琴線に響くようです。ピアノの表現としては質素で時には朴訥ですらある、間を持たせた演奏ですが、哀切の旋律と内省的な音像が、記憶の残像を弄るような深遠な響きをもたらします。


Rolo Rossi - Fogo

あまりに美しいピアノ・ソロアルバム。クラシカルでリリカルな演奏は穏やかに心に突き刺さる。繊細で時にダイナミックな旋律と、ナイーヴで端正な演奏は静かに、しかし確かな個性を主張している。コンテンポラリー・フォルクローレの肌触りとはまた一味違うが、透徹した美意識は共通のものだ。


Slawek Jaskulke - Sea

この作品は圧倒的です。ポーランド人ピアニスト、Slawek Jasklukeのソロ・アルバム”Sea”。信じがたいことに本作の幻想的で映像的なサウンドは、彼の普段使いのピアノと、2本のマイク、そしてポータブル・レコーダーのみで作り上げられたのだというのです。ミニマルでいて、海のように深遠で、想像力に溢れた傑作です。


Thomas Bartlett - Shelter

もうほんと笑わないでください。Thomas Bartllettって、Dovemanと同一人物なんですか?いや〜〜、知らんかった。CAOIMHIN O RAGHALLAIGHとのデュオも問答無用に素晴らしかったけど、これもほんとやばい。本作はThomas Bartllettのピアノ・ソロです。メランコリアと、慈しみに満たされた旋律とナイーブでジェントルタッチは、究極に素晴らしい。泣く。


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