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42 música argentina - 私を構成する42枚のアルゼンチン音楽

「まだやってるの」っていう声が聞こえてきそうですが、何度もこれで最後と言いつつも、またもや「私を構成する42枚」をアップします。今回はアルゼンチンの音楽を選びました。

僕がアルゼンチン音楽を聴き始めたのはいわゆる「アルゼンチン音響派」と言われるアーティストからなのですが、本当に熱中して聴き始めたのはCarlos AguirreやAca Seca Trioなどのいわゆるネオ・フォルクローレのアーティストの音源からです。彼らの審美的で真摯な音楽はそれまでブラジル音楽ばかり聴いていた僕には新たな衝撃でした。したがって選択の中心はネオ・フォルクローレの作品が多くなっています。ブラジルとアルゼンチン、基本的に隣の国であっても、音楽の持つアイデンティティーにはもちろん大きな違いがあるとともに、逆に共通の感覚も見出すこともできます。

各々のアルバムに試聴リンクと初めて聴いた当時にグログに書いたコメントを付してあります。紹介してからだいぶ時間が経っていることもあり、今見るとえらく時の流れを感じさせるコメントもあります。それはそれで当時の空気を伝えるものとして、そのままにして付しました。

また残念ながら、アルゼンチンの音楽はtopeter2で検索できないものが多く、例えばQuique Sinesiのアルバムがあまり検索で出てこなかったり、JUAN FERMIN FERRARISのアルバムが検索できなかったり、大好きな"JAVIER ALBIN / Las Mananas El Sol Nuestra Casa"がなかったり、本当に選びたいアルバムが選択できていないものもいくつかあります。最近の作品がやや少ないのは、このところ僕の興味が少し別のところにある所為だと思います。基本j的に最大でも1アーティスト3枚としました。順番は思いついた順番であり、順位ではありません。




1. Carlos Aguirre Grupo - Carlos Aguirre Grupo

Carlos Aguirre Grupoの2000年のalbum。やっと入手できたのである。"Rojo", “Violeta"に先立つ本作は、この2作に比し、よりfolkroleの香りが強い。したがって、より人間界に近い世界観とも言える。"Violeta"のような世俗を超越した世界観ではないし、歌ものが多いので、好みは分かれるかもしれないけれど、私はどとらも同等に素晴らしいと思うし、本作にも年甲斐もないほどに感激しているのだ。Carlos Aguirre Grupoのこれら3作の持つ瑞々しく透明で、純粋なメランコリーと、素朴な心情を持ちつつ洗練されたsound、希望と優しさに満ちたスケールの大きい音楽性に、私は音楽観すら変わる程の感動を覚えている。全ての音楽ファンに聴いて欲しいと、これまた大袈裟にも、本気で思っているのだ。


2. Carlos Aguirre Grupo - Violeta

これは傑作です。アルゼンチンのguitar/piano/composerのCarlos Aguirreとそのgroupのalbum。この透明感、大地の吹き抜ける風のごときscale、詩的叙情、全てが彼ら独自の色彩の中で表現されていて、唯一無二の存在感。まじめな音楽だけど実に面白くもある。ぜ〜ひ聴いてもらいたい大推薦盤。最近のアルゼンチンものの充実度は凄まじく、この端正な音楽には、いい加減な私こそ逆に強く惹かれるのです。


3. Carlos Aguirre - Caminos

Carlos Aguirreの2006年のsolo album。全編が彼のsolo pianoによる作品で、"Violeta"や"Rojo"とはまた違ったCarlos Aguirreの魅力を感じる事が出来る。勿論solo pianoとして、これだけ美しい作品自体希有なのではあるが、soloであるが故にここにはCarlos Aguirreの様々な音楽的記憶も見え隠れする。もちろん根幹はArgentinaの大地に根ざした彼らしい音楽なのだが、さらにBluesやJazz等の要素もむしろ濃厚なのである。Carlos Aguirreらしい音楽観で統一された素晴らしいsolo作品。


4. Aca Seca Trío - Avenido

これは10年に1枚の大傑作。褒め過ぎではない。それぐらいこれは素晴らしい。Juan Quintero(guitar/vocal)、Andres Beeuwsaert(keyboard/vocal)、Mariano Cantero(percussion/vocal)によるAca Seca trio、Argentinのgroupです。originalはもとより、新旧のfolkrole、さらには隣国UruguaiのHugo Fattorusoの曲などを、実に新鮮なchorusとsoundで聴かせてくれます。guestにPedro Aznar。


5. Aca Seca Trio - Trino

もう言葉もない、って言ってしまったら終わってしまうのですが。Aca Secaの音楽に、大袈裟と言われるかもしれないが、常に音楽への希望を託してきた者にとっては、全く期待を裏切らない、と言うより期待を十二分に超えた本作の素晴らしさを、一体どう伝えたら良いのだろうと、悩ましくすらある。最初に聴いた”Avenido”以来、彼らの音楽ほど高揚感をもたらしてくれるものは私には他にないのであり、そして本作では、悪く言えばその聴き慣れたはずの彼らの音楽に、また新たな希望を見出すのです。普段、またあいつがしょうもないことをを書いている、と思っているあなたも、とにかく本作だけは聴いて、体感してください。そして恐らく、あいつもたまには良いもの紹介するじゃん、と思っていただけるのではないかと。音楽の喜びが濃密に封じ込まれた大傑作。


6. Andrés Beeuwsaert - Dos ríos

Aca Seca Trioを主導しているのはJuan Quinteroであると、思い込んでいた私は、如何にもあさはかなのであった。ANDRES BEEUWSAERTはそのAca Seca Trioのkeyboards奏者。ここで私が圧倒されるのは、彼の音楽の遠近感(奥行き)であり、立体感であり、透明感であり、音楽的資質の無垢な美しさである。それを形作る源は、音楽的にはfolkroleと、様々な南米の音楽やjazzなどの記憶であり、あるいはArgentinaの風土とによるものであろう。これ、なかなか巡り会えない傑作です。


7. Andrés Beeuwsaert - Cruces

まさに待望のAndres Beeuwsaertのニュー・アルバム。名盤“Dos Rios”の次のアルバムだけに果たしていかなる音楽を呈示してくれるのか、期待は膨らむばかりであったが、本作はそんな期待を軽く超えてしまう素晴らしいアルバムだ。目の前に情景が自然にイメージされる様な美しい楽曲に陶然としないものは居ないだろう。AndresとJuan Pablo Di Leone, Fernando Silvaを中心に繰り広げられる美意識に溢れた清々しく丹念な演奏は、前作よりさらなる高みに到達している。オリジナルを中心に、Lyle Mays, Carlos Aguirre, Mario Laginha, Lea Freire, Dino Saluzziなど、国境や時代を超えた選曲とその音楽には、最早一定のジャンルとして語られるべきではない普遍性が感じられる。美の結晶。傑作です。


8. Sebastian Macchi-Claudio Bolzani-Fernando Silva - Luz De Agua

これも参りました。Carlos Aguirreの監修するレーベル、SHAGRADA MEDRAから2005年にreleaseされたalbumです。Juan L. Ortizと言う詩人の作品に、本作の主役の1人、Sabastián Macchi (p.)が曲をつけた全10曲。Memberは他に、Claudio Bolzani (vo., g.)、Fernando Silva (b.)。そしてCarlos Aguirreも1曲のみ参加しています。"Luz de Agua"のタイトル通り(水の輝きとでも訳すのでしょうか)に、煌めく様な映像的なimageを喚起させ、美しく素朴な情感を提示しつつも、contemporaryに処理されたな楽曲が素晴らしいのです。Carlos Aguirreの音楽がお好きな方は必ずや好きになる作品でしょう。


9. Luz de Agua - Otras Canciones

Carlos Aguirre, Aca Seca Trioなどの諸作と共に、アルゼンチンの新しい音楽を聴き始めた頃、忘れ難い印象を残した名盤”Luz De Agua”。もう10年前の作品だが、その美しい響きは未だに新鮮な衝撃だ。本作は、その後も様々な場面で活躍を続けて来た彼等3人名義による待望のニュー・アルバム。水の輝きの様に透明な光を湛えた彼等の豊かで有機的な世界観と、静謐な中にドラマを秘めた審美的楽曲に、心奪われぬ者はいないだろう。期待に違わぬ傑作です。


10. Sebastian Macchi - Aguasílabas

このアルバム、全くタイムリーではありませんが、思い入れが強過ぎて紹介できないでおりました。でも昨年を代表する作品なので、やはりちゃんと挙げておきますね。瑞々しい楽曲、Sebastianのやさしい歌声と、煌めくようなピアノ、Carlosの音数は多くないけれど雄弁なフレットレス・ベース、ゴンサロの多彩なリズム、もはやネオ・フォルクローレとかカテゴライズする必要のない、ユニバーサルで質の高い、でも繊細なグッド・ミュージック。この3人の公演を山形でできたことを誇りに思います。


11. Puente Celeste - Canciones

Edgardo Cardozo (g. vo.)、Santiago Vazquez (perc.)、Luciano Dyzenchauz (b.)、Maecelo Moguilevsky (flute, harm., accord.)の4人から成るPuente Celesteの、これは大傑作。Folkroleをbaseとした、土着的で複合的なリズム、躍動感を感じさせるmelody、気難しさを感じさせない実験精神、そして美しいharmonyと幾許かのhumor。そしてタイトル通り、歌ものにこだわった作品。現代アルゼンチンの音楽の魅力がギュ〜ッと凝縮されている。


12. Edgardo Cardozo Trío - Anos despues

話題のPuente Celesteでvocal, guitarを担当しているEdgardo Cardozoの、Trioによるalbum。Memberは他にNorberto Córdoba (b.), René Rossano (g., eg.)という、ちょっと変わった編成です。Folklore, Tango, Jazz, Bluesなど幅広い音楽的要素を散りばめつつ、全体的にはscaleの大きな、空間的な広がりを感じさせる音楽として完結しています。なんと言ってEdgardo Cardozoの伸びやかなhigh toneが素晴らしい。単刀直入に、聴いていて気持ちよいのだ。


13. Puente Celeste - Santiago Vazquez & Puente Celeste

Puente Celesteの1999年の1st。まだ"Santiago Vazquez and"という表記。しかしこのアルバム異常に面白い。現在のPuente Celesteは基本にfolkroleを置きつつ、と言う感じだけど、このころはさらに実験的でジャンル超越的なのだ。もちろんfolkroleやtangoの香りを内包しつつも、中近東〜中央アジアの風味やプログレ色も強い。良い意味で無国籍で破天荒な音楽性に意欲と才気を感じる。ちなみにAlejandro Flanovも参加。


14. Agustin Pereyra Lucena - La Rana

Argentin人でありながら、Brazil音楽に大きな影響を受けたguitarist、Agustin Pereyra Lucenaの1980年作。この人Candeiasのguitaristでもあります。Inst.中心ですが、vocalも入れながら、Bossa tuneを中心に美しく軽快な音作りをしています。flute, electric pianoを含むquartetとしての音も極上です。最高に心地よい好盤。LPで再発(当時)。


15. Agustin Pereyra Lucena - Ese Dia Va A Llegar

私の怠慢で全くtimelyではなくなってしまいましたが、Agustin Pereyra LucenaがCeleste(http://clst.jp/)からまとめてCD化されています(半年前の話ですが…(注:2004年の話です))。以前紹介した作品も丁寧な作りで発売されていますので、この機会をお見逃しなく。で、その中でも特にはずせないのがこの盤でしょう。Agustinの1975年作品。Argentinaによる最高に心地よいBrasil音楽の一つ。


16. Luis Alberto Spinetta - A 18' del Sol

Spinettaの1977年のアルバムです。つまりは33年前のアルバムなのです。けれど、音的な古さは若干感じられても、感覚的な古さを全く感じさせないのです。Format的には所謂Jazz Rock(今も存在するのかな?)という感覚なのだと思うのですが、Spinettaらしいcoolで耽美的な世界は今の耳にも十二分にカッコいいのです。曲の美しさといい、彼の儚げなhigh toneといい、見事にSpinettaだけの審美的音楽なのです。


17. Luis Alberto Spinetta - Silver Sorgo

健康の問題が報じられていたアルゼンチンロック界のスーパースター、Spinettaが亡くなったそうだ。アルゼンチンの音楽ファンであれば、恐らくは誰もが少なからずショックを受けているだろう。それほど喪失感は大きい。本作は2001年の名盤で、私的には彼の最高作の一つだと思う。究極にメローで切なくて、少し毒気や狂気が潜んでいて、実験的な部分も忘れず。心地よいだけでは無いのだが、繰り返し聴かずにはいられない中毒性も。生きているうちに紹介しておくべきだった。こんな才能は滅多に出て来るものではない。ご冥福をお祈り致します。


18. Mono Fontana - Ciruelo

所謂「アルゼンチン音響派」が市民権を得た、そんなご時世のため、1998年の本作もまた注目を集めている。アルゼンチン人Keyboard奏者、Mono Fontanaの作品。Mono Fontana (Keyboards)、Santiago Vazquez (Perc.)、Martin Iannaccone (cello)の3人による本作は、聴くものの音楽観すら変えかねない傑作だと(私は)思う。風景が浮かんでくるような、実にimagenationに溢れた曲、演奏が続く。それは決して厳しいものでも、難解なものでもなく、どこまでも優美かつ甘美である。見つけたら絶対買っちゃいなさい。


19. Mono Fontana - Cribas

前作"Ciruelo"以来およそ10年振りにリリースされたMono Fontanaの2007年のアルバム。前作よりさらにsimpleで淡々とした、静寂を感じさせる音楽作品である。field recordingであったり、身の回りに存在する様々な音であったり、それらを自己のpiano soloとでもって再構築して出来上がる音楽は、彼のimaginationの塊であり、極めて独自のideaで裏打ちされている。このimaginationの出どころが、私には想像が難しい。それ故に新鮮であり、また感動的なのである。


20. Cribas - La Ofrenda

Cribasの来日前にリリースされた3rd。今までの作品の中でも私的には一番好きな作品だと思っています。フォルクローレの魂をしっかりと維持しつつ、透徹した美意識を貫いた、彼ららしい響のアンサンブル。そして本作に収録された楽曲が、いつにも増してメランコリックでインティメイト、これは愛さずにはいられない。本年の来日では山形への招聘を断念したけれど、次回は背伸びしてでも呼びたいな。


21. Quique Sinesi - Cuchichiandos

我らが(と言ってしまおう)Quiqueの新作はCuchi Leguizamon曲集の第2弾です。我らが(と言ってしまおう)岩川光、Carlos Aguirre,Silvia Iriondoなど素晴らしいゲストを迎えて、Quiqueのギターはなんと詩情豊かなことでしょう。そして、な、なんと、Mono Fontanaを4曲に迎えて、幽玄で思索的な世界観をも構築しています。最高だね、Quiqueさん。


22. Candelaria Zamar - Un Vaso de Agua

Candelaria Zamarは、コルドバ出身の女性SSW。自身の鍵盤(Rhodes, Wurlitzer, piano, synthesizer)と、飾り気の無い率直な歌声。プログラミングや、エフェクト、ウクレレ等を重ねた可憐でシンプルで、透明かつ洗練された音。これ出色のアルバムだと思います。是非是非一聴を。


23. Delfina Mancardo - OCTANTE

もう一聴してとりこになりました。思わず「凄い!」と叫んでしまったくらい、それほど魅力的な「歌の力」を持った人です。Delfina Mancardoはブエノス・アイレスのシンガー・ソングライター。多くの方にぜひ聴いていただきたい素晴らしい才能だと思います。
ちょっと舌足らずでフェミニンな儚さ、最初そう思って聴いていた歌声ですが、Tr.3などでは驚くほど力強い表現もあって、強弱、硬軟、緩急を自在に操った、幅色い表現力を持った歌い手です。
ドラマチックな独特の曲想は、全曲彼女の(共作もあり)手によるもので、彼女自身の感情や彼女の描く物語を過不足なく表現した、とてもフレッシュな感覚をもたらしててくれるものです。夢の中から聴こえてくるような淡い色彩を帯びたサウンドも素晴らしい。
Delfina Mancardo。全く知らない名前だったけど、今や絶対忘れてはいけない名前になりました。強く推薦します。これ個人的には今年のベストの1枚かなと。


24. Rodrigo Carazo - Octógono

コルドバ出身のSSW。前作もとても素晴らしかったけれど、本作はさらによいですな。どこまでも美しく、繊細で、そして親しみやすい。旋律の面ではフォルクローレ色は薄いけれど、リズム面ではしっかりそれを残しているね。で、この人の場合はやはり歌声でしょう。この優しい、柔らかいハイ・トーンは、とても魅力的だ。


25. Loli Molina - Rubi

このアルバムは、彼女のキャリア最高のアルバムです。もちろん個人的意見なのですけれど。コケティッシュな猫撫で声に、とても柔らかな、包み込むような情感が込められています。彼女自身の声とギターを中心に、Hernan JacintoCandelaria Zamarなども参加した、ポップ/ロックは、幻想的で洗練を極めています。


26. Juana Molina - Son

Juana Molinaの3作目。正直なところ前作"Segundo"は、全くピンと来なかった。でも本作は来ましたね。じゃあ何が前作と違うのかと言えば、よりrhythmがあることでしょう。Sound的には、いわゆる浮遊感のある音で、Minas的な浮遊感ではない、Spacyな感覚が気持いいし、Juanaのwhisper系の歌もBrasil音楽ファンには受け入れやすいものだと思う。で、よく見ると曲もほとんどJuanaのoriginalであることに感心し、ただ者ではない、と納得させられるわけです。


27. La Cangola Trunca - Calisaya

La Cangalo Truncaは、Hugo Maldonado、Mariano Agustoni、Santiago Ariasのよるユニットで、本作は彼らのデビュー作。1曲目” Africa en Once”の躍動感には、初めてAca Secaや、Puente Celesteを聴いたときのような、あの胸騒ぎのような感覚を覚えた。一人一人の卓抜したテクニック、強靭なリズムと、フォルクローレの素朴さを残した詩的叙情は、圧倒的だ。音楽はどんどん国境を超えて、確かに音楽の世界をグローバルなものとするかのようだ。しかし彼らの音楽のようにやはりその国らしい音楽が息衝いていなければ、それは個性の欠如にも繋がるのではないだろうか。


28. Ezequiel Borra - Lo Peor

Ezequiel Borraは、Buenos Aires出身のSSW/ギタリスト。どちらかといえば、実験的で内向的な作品のイメージがありましたが、本作はより外向きなアルバムです。Santiago Vazquez、Martin Buscaglia、Liliana Hererroなどを迎え、彼らしい恍けた持ち味と実験性はそのままに、おもちゃ箱的なポップ/ロックに仕上げています。


29. Federico Arreseygor - Detràs De La Medianera

Federico ArresetgorはLa Plata出身のピアニストで、本作は彼のの2ndアルバム。1stアルバムも素晴らしかったけれど、本作ではさらに著しい進化を遂げている。純粋な情緒と慈しみに溢れた美しい楽曲と多彩なリズム、トラディッショナルな要素を残しながらも、洗練を極めたサウンド。すべてが素晴らしい。これも傑作です。


30. Silvia Iriondo - Tierra Sin Mal

Silvia Iriondoはこの作品に、グアラニー族が古くから信仰している「悪なき大地」という理念を託したという。実質的な社会では存在し得ない楽園を、彼女は音楽という芸術の中に求めた。その作業の中で、自らの文化的根源となり得る伝承的な楽曲や、未発表の楽曲を選択したのだという。と、ここまで書くと、この作品が素朴で、純潔で、古めかしい音楽を収録しているのでは無いかという先入観をもたらしかねない。が、全く違うのだ。もちろん楽曲自体には大地の香りが脈打っている。しかし1曲1曲の演奏、ハーモニー、リズム、間合いなどが極限までに突き詰められていて、その結果音楽自体は、現代的で洗練された響きなのだ。この作品のベースとなっているのは、Horacio Hurtado (b.)、Cato Fandrich (p.)、Fernando Bruno (per.)の3人。語りかけるようなHoracio Hurtadoのベース、現代的ハーモニーを作り出すCato Fandrichピアノ、Fernando Brunoの作り出す「間」が、この音楽の現代的な基調を作り出している。さらにCarlos Aguirreを中心とした繊細なギターによるアンサンブル(Tr.5)、Rafael Martiniによる香り立つような弦楽のアレンジ(Tr,9)、そしてJuan Faluの鮮やかなギター(Tr.6, 9)。これらがSilviaの慈しみ深い、でも神秘をも感じさせる歌唱とともに、過去と現代とを結びつけているのだ。


31. Lisandro Aristimuño - 39°

私、本当にピンと来ない、ピンと来るのが凄く人より遅い、と言う場合がありまして、本作などもその典型的なものの一つな訳です。現代のArgentineを代表するSSW、Lisandro Aristimuñoの2007年のalbumです。2年経ってから、やっとピンと来た私です。Electricalで斬新なsoundと、TangoやFolkroleなどtraditionalな部分とを華麗にまとめ上げた彼のpopな音楽は、独特の透明感を纏っています。Smokyなhigh toneがたまらなく良いのです。


32. Alejandro Franov - Khali

音の妖精(ちょっと耳にタコ)Alejandro Franovの2007年のアルバム。アルパにムビラにシタールがこのアルバムにおける、楽器としての主役である。この3つの楽器とkeyboardsやpercussionなどを用いて、無垢で独特の遠近感のある音像が創り上げられている。orientalな響きやafroな感覚を中心に据えつつも、Franovらしい無邪気な世界が構築されている。


33. Pedro Aznar - Parte de Volar

Argentinを代表するSSW/bassist、Pedro Aznarの2001年作。Atahualpa Yupanqui, Victor Jaraら、自国のfolkloreを代表するartistの曲を取り上げ、dynamicで美しい曲が続く傑作だ。Vitor RamilらBrasil人脈とも関係の深い人だが、本作は汎latin/folklore的な音楽を、Pedro Aznar的pop musicに昇華した、聴きごたえのある(でも決して堅苦しくない)作品。composer/bassistとしてのみならず、歌い手としてもnaiveな魅力に溢れている。


34. Liliana Herrero - Confesion del Viento

哲学の教授だからというわけでもあるまいが、Liliana Herreroの歌の説得力には脱帽である。Folkloreを、彼女ならではの威厳のある(なんとも魅力的な威厳です)歌唱で歌う本作は、Diego Rolonのmodernで浮遊感を醸し出すguitarを中心としたsound creationによって、さらに魅力的な作品となっています。LilianaとDiego Rolonらの手による創造的で革新的なfolkroleの見事な結晶。しかし根底には伝統的な音楽への尊敬が確かに感じられるのです。


35. Coiffeur - El tonel de las danaides

Buenos Airesから、また驚くべき才能が現れた。CoiffeurというSSWの、これが2nd albumなのだが、すでに彼独特の空間を築き上げている。Jacket Workから象徴されるように、波間に揺らぐような、時には水中にある様な、独自の半覚醒に似た浮遊感がある。Soundの中心となるのはギター。これが音の印象を決定づけていて、Juan Stewartのpianoや、管や弦によるacousticなensembleが奥行きを創り上げている。Coiffeurのhigh toneが実に儚い。僅かにだがFolkroleの香りを残す、CoiffeurならではのFolkyでexperimentalなPop Music。大注目。


36. Mariana Baraj - Margarita Y Azucena

なんとも強い意志を感じさせる、凛々しいお顔ではありませんか。このMariana Baraj、Folkroleをbaseとしているものの、その実験的で躍動感溢れる音楽性は、他のMPAやexperimentalな音楽同様に、新しい試みと、伝統とを見事にmatchingして成立しているのだ。だから軽さが感じられないのです。強固な方向性が感じられるのだ。彼女の動画をみると、percussionを叩きながら歌っている彼女からは、知性と躍動感とが同時に表現されているのです。


37. Diego Schissi - tren

Diego Schissiの1枚目のリーダー作。Diego Schissi (p.)とMario Gusso (perc)を中心としたJazz formatのカルテットと、弦楽四重奏との二つのカルテットによって演奏されている。弦の4人の演奏はクラシックや現代音楽的であり、Diego Schissiを中心としたカルテットは、Jazz的であるが、どちらもTangoを基調としている。動と静と、知性と激情との対比、全編を通して息もつかせぬ緊迫感に貫かれた演奏が素晴らしい。


38. Federico Durand - El éxtasis de las flores pequeñas

Federico Durandの2nd album。ギターやピアノの音に、エレクトロニカ、そしてfield recordingによって創り上げられたサウンド。様々な記憶を音によって構築し、あたかもその場所に在るかの様な錯覚に落ち入ってしまう。記憶を遡る、心地よく気怠い感覚はあまりに儚く美しい。これは甘美な傑作です。


39. Rumble Fish - Los Viajes Del Día

Sebastian Macchi、Fernando Silvaとともに、あの名盤“Luz de Agua”を 世に出したClaudio Bolzani (g., vo.)を中心に、Tuti Branchesi (perc.)、Manuel Cerrudo (keyboards)、Gaston Bozzano (b.)の四人による”Rumble Fish”。よりJazz的で、Folkrole色は薄いけれど、やはりCarlos Aguirreと同じ世界観を共有する音楽。Gaston Bozzanoの曲を中心に、Carlos AguirreやQuique Sinesi、そしてToninho Hortaを取り上げていて、もちろんCarlos Aguirreもゲストで参加。これがまた無類に美しいアルバムなのである。


40. Florencia Ruiz - Mayor

このFlorencia Luiz、Buenos Airesのexperimental music界では有名な方、らしいのだが何分私の知識がない。実にcuteなwhisper voiceながら、時にshoutに近かったり、experimentalな部分も濃厚にありですが、これは実に上質のpop musicと言えましょう。透明感、浮遊感の高い、時に幻想的で室内学的なsoundと共に、強烈にオススメできる作品です。これは旧作も是非聴きたくなるっちゅ〜もんです。


41. Beto Caletti - Bye Bye Brasil

これはもう激しく推薦いたします。Argentina、Beto Caletti (g, vo, compose)率いるTrioによるlive盤。良いmelody、素晴らしいtechnique、抜群のgrooveと全てを備え、かつ全くstraightで奇をてらわず、何で今まで知らなかったのかと言う感じ。Argentinaでありながらどこまでも見事なMPB。original曲が秀逸。


42. Cande y Paulo - Cande y Paulo

ヴォーカルとベースのCandeとキーボードのPauloとのデュオ。アルゼンチンのサン・フアンを拠点としているそうです。この二人、かなり話題になっていますね。その上プロデュースがLarry Cleinというのも注目。全てカバー曲の本作、アルゼンチン的民族性はありません。とてもデリケートで審美的な演奏と、女性らしい艶のあるCandeの歌声。一聴すると甘美なのだけれど、どこか危うさというか、危険な香りを感じるのです。僕はこのアルバム、そして彼らの音楽の肝はそこなのだと思っています。


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