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偏愛音楽。 最近の女性歌手のアルバムから。

「偏愛音楽。」、11回目は最近の女性歌手のアルバムからセレクトしました。

僕は女性歌手の麗しい歌が好きなので、ディスク紹介などをする場合どうしても、いつの間にか女性歌手のアルバムが多い傾向があります。そんな中から、最近(あるいは比較的最近)魅了された女性歌手の作品を選びました。

他の記事(「La Divina」、「かっこいい音楽5」、「偏愛音楽。 その4:韓国音楽。」など)とできるだけ被らないようにセレクトしたつもりです。そして、すでにビッグネームと言うべき人は除いて、ジャンルや国籍を問わずフレッシュなアーティストを中心にしました。こうして改めて選んだアルバムを聴き返すと。僕は儚げな声の女性の歌に弱いっていうことを再認識しました。Ellen Dotyや、Ghostly Kissesも素晴らしかったのですが、こちらは「偏愛音楽。 その7:夜の音楽。」で紹介しています。

今回も10作品に絞りました。フルアルバムのみとして、EPは除きました。各々に簡単なコメントを付しています。

*現在までの「偏愛音楽。」はこちらのマガジンでご覧いただけます。




Clairo - Charm

Clairoはジョージア州アトランタ出身のシンガー・ソングライター。本作は彼女の最新アルバムです。これがもう期待通りというか、期待以上というべきか、とても素晴らしいアルバムです。基本的に、インディーポップとオルタナティブの要素が強く感じられる、ポップでかつキャッチーで愛すべき楽曲がたくさん収録されています。彼女の可憐で儚げなボーカルと、それをサポートした繊細なサウンドスケープが印象的です。本作では、シンセサイザーやアコースティックギターを多用した、淡い色彩感のサウンドプロダクションが特徴的で、多彩な音楽的要素を取り入れつつも、Clairoらしい個性を引き出しています。また、バックグラウンド・ボーカルやハーモニーが、楽曲に柔らかな厚みを与えています。音楽的な成長、あるいは成熟ともいうべき進化が全体的に感じられます。化けたかもしれません、この子。化けても可愛いけど。


Grace Inspace - Sunshine Kid

Grace InspaceはBerkeleyとLondonを拠点とするシンガー・ソングライターで、本作は彼女のデビューEPです。アメリカ全土を漂流し大西洋渡りロンドンに辿り着いた(ほんまかいな)とのこと。さらにApocalyptic Kitchenというトリオで歌ってドラムを叩いているそうです。本作は米国のジェデディア・スミス・レッドウッズ州立公園の奥地で録音されたとのこと。カラフルでポップなサウンドに、時にはラップも交えながら童女を思わせるようなフェミニンな歌声が印象的です。女の子っぽい感性に、ちょっとパンキッシュな部分も。Tr.4の「25 (feat. Hope Tala)」の軽やかさがとても良いです。基本的にインディー・ポップ/ロックの文体ですが、動画や写真などを見ても実に個性的でアーティスティックな感覚をもった人です。なんつってもこのアルバム・ジャケットは一等賞でしょう。ぜひフルアルバムが聴いてみたいですね。


Liana Flores - Flower of the soul

Liana Floresはイギリス人の父とブラジル人の母を持つ、イギリス在住のシンガー・ソングライター。2019年にEPを自主リリースしいますが、本作が初のフルアルバムらしい。彼女のことをSNSで取り上げている方も多いようですが、僕はこのアルバムで初めて知りました。2019年のEPに収録されていた「Rises the Moon」はなんと5億回再生されたらしい。率直な感想を言っちゃうと、この子は天使です(キッパリ)。なんですかこのまっすぐでクセのない、伸びやかで透明な歌声は童女系でイノセント。多分この子はう○ことか滅多にしません。音楽的にはBossa Novaを中心に、JazzやFolkやPopを吸収した、淡い色彩でじんわりと染み渡るサウンドと、徹底的に清純路線をキープする音楽性が、今どきむしろフレッシュで稀有ではありませんか。なんと、Jaques MorelenbaumやTim Bernardesなどが参加しているとのことで、彼女への期待の大きさも伺えます。これ現在のところ間違いなく今年のベストの一つです。


Lucy Rose / This Ain't The Way You Go Out

Lucy Roseは、UKのシンガーソングライター。Neil YoungやJoni Mitchellなどから影響を受けたといいます。本作は彼女の4枚目のアルバムとのことです。「とのことです」っていうくらいだから、僕は彼女のことは全く知らず、ちょっとノスタルジックなこのジャケットに惹かれて聴いてみたわけなのです。なんと彼女、結婚と出産、そして妊娠誘発性骨粗鬆症を経て本作でカムバックしたのだそうです。これがしかし内容もジャケットに負けず素晴らしいのです。愁を含んだ曲の美しさ、柔らかな包み込むように女性らしい余韻を持って、過度には個性的になりすぎず、サウンドはヴィヴィッドでドラマティック。結果として産み出される世界観は、実に個性的で感情に訴えるものです。70年代のシンガー・ソングライター達のような普遍的なグッド・ミュージックを引き継ぎ、さらにジャズやソウルの息吹も感じさせる素晴らしいアルバムです。


Luna Li / When a Thought Grows Wings

とてもインパクトのあるジャケットではないか。本作は韓国系カナダ人のシンガー・ソングライターでマルチ・インストゥルメンタリスト、Luna Liのセカンドとなるアルバムである。まるでホラーかスプラッター映画のポスターかというジャケットではあるのだが、もちろん音楽的には全く違うわけで、でなければもちろん紹介する気も起きるわけがないのだが、本作はそのギャップが一つのインパクトではあり、彼女の中にあるアヴァンギャルドな一面を示すようにも思える。ドリームポップやインディーロック、そしてR&B、アンビエント、サイケデリアなどの要素を複合的に吸収した幅広い音楽性に、彼女の舌足らず〜ウィスパー系の歌声。ギター、ベース、ハープ、バイオリンなどの楽器を自ら演奏した、多彩なサウンドがアルバム全体を彼女の世界で染め上げている。


Magali Datzira / La salut i la bellesa

Magali Datziraはスペインの女性シンガー・ソングライターでベーシスト。Joan Chamorroが主催するバルセロナの青少年ジャズバンド、Sant Andreu Jazz Bandに在籍しているそうです。もちろん前作「Des de la cuina」も素晴らしいアルバムだったのですが、僕個人としては、本作はそれを遥かに凌ぐ素晴らしい作品だと思います。ちょっと聴いていて興奮するぐらい素敵な作品です。非常に耳馴染みの良いインティメートな楽曲から、美しくもアヴァンギャルドな曲想まで、とても幅広い世界が構築されています。室内楽的な前作に比べるとサウンド面でも、よりジャズ的で先進的な音をつくています。そのアイデアがとても豊かで、独創的です。はっきり言葉にできないけれど他の誰にもない「何か」があります。そして、なんと言っても彼女の歌声。すこしスペイン訛り的節回しと、フェミニンでスモーキーな声質、儚さを感じさせる余韻があります。


MERITXELL NEDDERMANN / Suelta

Meritxell Neddermannはカタルーニャのシンガー・ソングライターでピアニスト。同じくカタルーニャのアーティストとして注目集めるJudit Neddermannは彼女の妹です。サウンド面でもスケールアップ。実に多様性に溢れた幅広い音楽性。エレクトロニカにも振れてみたり、実験的で斬新な部分も、ピアノでしっとりと歌う曲も、そしてポップでメロウな曲も、独創的で奥行きや色彩を感じさせるサウンドを作り上げています。角のないまろやかな歌声もよいですね。そして前作同様曲のレベルが非常に高いんです。カタルーニャを特に意識させるものではありませんが、ユニバーサルでドラマティックで普遍的な魅力を備えています。


Rosie Frater-Taylor - Bloom

Rosie Frater-Taylorは、ロンドン出身のシンガー・ソングライター/ギタリストです。「ジョニ・ミッチェルとパット・メセニーが出会ったようだ」と賞賛されているそうですが、受けるイメージは各人いろいろなので、まあこういう例えは無視して(笑)。実にさまざまな音楽の幅広い要素を記憶していて、それを自身のものとして統合した形で昇華させています。アルバム全体に通底する清冽な感性は、彼女の曲の醸し出す淡い色彩感によるところが大きいですね。僅かにニュー・ソウル的な感覚も感じる、フォーキーで清潔感を感じさせるしなやかな歌声が、彼女独特の儚い魅力を生み出しています。ギタリストとしても、透明で流麗な演奏が出色で、自身のスキャットとのユニゾンはゾクゾクするくらい魅力的です。ジャズを基本としていますが、その心地よい透明感は一定のカテゴリーのみではないユニバーサルな音楽性に基いています。


Sasha Alex Sloan - Me Again

僕はこういう声質で、こういう歌い方をする人が好きなのです。Sasha Sloanはボストン出身でLAで活動していたシンガー・ソングライター。本作は現在の拠点としているナッシュビルでレコーディングされたサード・アルバムで、彼女のポートレート的アルバムとのこと。サウンドは極めてシンプルで清潔で、フォーキー。とてもナイーヴな歌声は、20代の女性として(アラサーですが)の彼女の心情の表出そのものなのかもしれない。彼女は「サッド・ガール」自認しているそうだ。だからと言って、サッドネスをそのまま垂れ流すのではなく、またそういうネガティブな感情を絞り出すとような大仰な表現方法ではなく、やんわりと表現しているところが素晴らしいではないか。でも基本は音楽としての魅力である。


Sandrayati - Safe Ground

Sandrayatiはフィリピン人の母とアメリカ人の父の間に生まれ、インドネシアのジャワ島とバリ島で育ったシンガー・ソングライターで、本作がデビュー・アルバムとのことです。本作はアイスランドのÓlafur Arnaldsによって制作されたそうですが、彼は公私に渡る彼女のパートナーなのだそうです。気候的には対照的なアイスランドとインドネシアのアーティストの組み合わせは、こんな素晴らしい化学反応をもたらしました。彼女の声はある意味衝撃的です。まるで吹き抜ける風のようではありませんか。もちろん強風や暴風ではなく、頬を優しく撫でるような爽やかな風。フォーキーなアコースティック・ギターの清潔なアルペジオを、アンビエントな音やエレクトリカルな音で飾りながらも、その音像は極めてナチュラルで神秘的に響きます。内省的で美意識に富み、静謐でインテリジェンスを感じさせる素晴らしいアルバムです。


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