偏愛音楽。 クワイエット・ミュージック。
「偏愛音楽。」の21回目はQuiet Musicです。以前アップした「日本のQuiet Music」に続いて今回は日本以外の「Quiet Music」を選びました。
苛立つ精神状態を穏やかに整えてくれる静かな音楽は、僕の音楽の嗜好として常に重要なものです。まあ歳の所為かもしれませんが、ますますこういう音楽に惹かれていくようです。
しかしもちろん静かな音楽だからと言って、大人しくて面白く無い音楽っていうわけでは決してありません。こういう静謐な音楽の中にも、ドラマチックな情感は込められています。
ということで、僕が偏愛しているクワイエット・ミュージックを選びました。今回選んだものは比較的近年のアルバムです。もちろんこれ以外にもこういうカテゴライズに相応しい多くのアルバムがあります。しかしここではまはサッと思いついたものを10作品だけ選びました。俯瞰してみると何となく弦の響きが美しい作品が多いし、こうして並べてみるとジャケットも素晴らしいアルバムがばかりです。
各々のアルバムにコメントと配信音源を付しています。ぜひ読んでみて、聴いてみてください。冬の日に相応しいインドア向きな(笑)音源だと思います。
*現在までの「偏愛音楽。」はこちらのマガジンでご覧いただけます。今回の見出し画像は「静かな夜の風景」をGrokで作成したものです。
Ballaké Sissoko - Musique de nuit
マリのKora奏者、Ballake SIssoko(バラケ・シソコ)と、フランス人チェリスト、Vincent Segal(ヴァンサン・セガール)の、“Chamber Music”に続く2作目です。Tr.1~4はBallake SIssokoの家の屋上で録音されたということ。夜の帳に響く二人の音は、天空に染み渡り、悠久の時の流れに溶け込んでいく。名盤です。
Caoimhín O Raghallaigh - Caoimhín O Raghallaigh & Thomas Bartlett
The Gloaming(ザ・グローミング)のCaoimhin O Raghallaigh(クイヴィーン・オラハレイク)のトラディショナルなフィドルと、Thomas Bartlett(トーマス・バートレット)の深遠なるピアノの邂逅。知的で内省的で、でもどこか懐かしい響の美しさは、記憶の底を弄ってストレートに琴線に響きます。Quietな名盤をセレクトするときに最も最初に頭に浮かぶのはこのアルバムです。
Charlie Grey and Joseph Peach - Spiorachas - A High Place
記憶を優しく揺さぶる揺籠のようです。しかしたとえ静謐な音楽ではあっても、心を動かす力はとても大きいのです。スコットランドの音楽家、Charlie Grey (チャーリー・グレイ:Hardanger D’Amore) とJoseph Peach (ジョゼフ・ピーチ:Piano, Harmonium) のデュオによる作品。幽玄でありながら、どこか切なさや懐かしさを感じさせます。その音楽はスコティッシュ・トラッドの響きと、現代的なメソドロジーとの美しい邂逅といえます。
Derek Gripper & Mike Block - Saturday Morning in Boston
南アフリカのギタリスト、Derek Gripper(デレク・グリッパー)と、米国のチェリスト、Mile Block(マイル・ブロック)とのデュオによるアルバム。Derek Gripperはクラシックのギタリストとのことで、celloとの組み合わせは自ずとクラシックなものと考えてしまうのですが、なんかアフリカが薫るのです。サリフ・ケイタの曲を取り上げていたり、アタックの強い彼のギターは時にKORAを彷彿とさせます。とても新鮮な感覚ですね。
EAST FOREST & PETER BRODERICK / Burren
Peter Broderick(ピーター・ブロデリック)は本当に才能豊かなアーティスト。そして共演はEast Forest(イースト・フォレスト)。こちらも幅広い音楽性を持つアメリカ人。本作で初めて共演した二人は、アイルランドのクレア州にある古代の岩だらけの丘「バレン(Burren)」の景観にインスピレーションの源を置くことのみを条件として、本作をアイルランド西部の小さな家で1週間で録音したそうです。深い森林の奥から響いてくるような欧的な自然観や、神秘性を感じさせる、静謐でいて深淵な世界観を創造しています。
The Gloaming - The Gloaming 2
The Gloamingは、Martin Hayes(マーティン・ヘイズ:fiddle)、Caoimhin Ó Roghallaigh (クイヴィーン・オラハレイク:harbinger d’Amor)、そしてDennis Cahill (デニス・カーヒル:g.)とThomas Bartlett (トーマス・バートレット:p.)とBarta Ó Leonard (バルタ・オ・レオナルド:vo.)の5人組。基本をアイリッシュ・トラッドに置きつつも、彼らの音楽もまた独自の進化を遂げています。素朴さに洗練を溶け込ませたその祈りにも似た音楽は、懐かしく純粋にして劇的です。
Me and my friends - Before I Saw the Sea
ME & MY FRIENDSは、イギリスはブリストルのグループ。本作に収録された曲の多くは、コロナ禍によるロックダウン中に創作されたもの。日々の生活が停止したことで、アイデアが無駄に邪魔されることなく練り上げることができたのだそうだ。サウンドは様々な音楽の要素が上品にミクスチャーされていて、良い意味での無国籍感がある。女性ヴォーカルの声がとても落ち着いていて、でも艶があってとても魅力的。1曲1曲が一編の短編小説のようにエレガントで内省的で、そして映像的なアルバム。
PALLMER - Quiet Clapping
Pallmer(ポールマー)は、Emily Kennedy(エミリー・ケネディ:cello, vocals, double bass)とMark Kleyn(マーク・クレイン:viola)の二人によるカナダのデュオ。二人とも幼少時からクラシックを学んだようだが、現代音楽やジャズやフォークなど、経験してきた音楽を広く内包した、インテリジェンスと相克する原初的な畏れとが共存する特異なチェンバー・ミュージック。深い森の中から聞こえてくるような、幽玄でミニマルで時に実験的な弦の響きと、極めて明瞭で率直な歌声が、静謐にして芳醇です。
Sam Wilkes - Sam Wilkes, Craig Weinrib, and Dylan Day
Sam Gendelとの共作でも知られる、LAのジャズ・ベーシストSam Wilkes(サム・ウィルクス)が、ドラムのCraig Weirib(クレイグ・ウェインリブ)、そしてギタリストのDylan Day(ディラン・デイ)とのトリオで、主として南カリフォルニアの屋外で、夕暮れの下でのセッションを収録したもの。夕暮れの空気感がそうさせるのか、根本的に彼らの穏やかな情感を反映したゆったりとした演奏です。間のある演奏が美しい残響を残します。ジャズなのだけれど、心情的にはフォーク的と言っても良いかもしれない。
The Zenmenn & John Moods - Hidden Gem
ベルリンを拠点とするバンドThe Zenmennと作詞家兼ヴォーカリストのJohn Moods(ジョン・ムーズ)との共同制作。「ハンブルクの南のどこかの神秘的な牧草地にあるスタジオ」で、長期にわたるジャムセッションの結果としてもたらされたもの。ドラムセットと古いDX7、ウクライナのベース(バンドゥーラ)、そして空を駆るようなペダルスチールギターを、John Moodsの独特のfragileな声と組み合わせることで極めて洗練された音像を作り上げている。柔らかく審美的。心地よくトランキライズしてくれます。