僕の好きなアジア映画97: 花椒の味
『花椒の味』
2019/香港・中国/原題:花椒之味/120分
監督:ヘイワード・マック(麥曦茵)
出演:サミー・チェン(鄭秀文)、メーガン・ライ(頼雅妍)、ケニー・ビー(鍾鎮濤)、ヴィッキー・チェン(文淇)、リッチー・レン(任賢齊)など
このところ山形では、残念ながらアジアの映画の上映本数がめっきり減ってしまって、たとえばこの映画なども日本での公開は2021年だったのですが、最近やっとレンタルや配信が始まって、僕も観ることが出来ました。
今回はほとんどネタバレなので、まだ観ていない人はご注意です。
銀行に勤めていると思しき女性に、迷惑電話に混じって「父が亡くなった」という連絡が入る。娘は長い間、浮気者の父との確執があり、自分と母を捨てた過去がある父に怒りを抱えていて、同じ香港にいながら滅多に会うことがなかった。父のことをよく知らない娘は仏教徒である父の葬儀を道教で行ってしまう。それほどに彼女は父のことを知らないのだ。そしてその葬儀の場で自分には台湾と重慶に腹違いの妹がいることを知る。
次女は台湾で再婚した母の家庭とは別に一人暮らしをしており、ビリヤードで生計を立てている。愛していない現在の夫との結婚をよく思っていない。三女は母が結婚してカナダに行くことになったが、母が自分を「叔母」と呼ばせようとしたことが許せず、重慶で祖母と暮らしている。どちらも現在の生活は心情的に充足したものとは言えない。
葬式で初めて対面するという、微妙な出会いとなった三姉妹だが、その血の繋がりに基づく自然なシンパシー故にすぐに打ち解ける。しかし二人の妹はさまざまな場面で父が自分を愛していたという証を見つけようとしている。
父の営む火鍋屋を、長女を中心に営業を続けるが、もちろん父の味とは違うとお客に言われてしまう。父の火鍋の味を探究する中で、主人公達は父の愛情を知ることとなり、それによって初めて自身の気持ちを清算することができる。過去への惑いから脱することで、娘達はそれぞれの居場所で、気付いていなかった現在の家族への愛情を確認することとなり、各々の場所で生きていく決断がなされる。ラスト近く、祭りの中で父の面影を感じ、長女は父を赦し、叫ぶ。彼女もまた自分の人生に区切りを付ける。これは美しいヒューマンドラマです。ラストは泣けました。
しかしなんでしょう、感動して泣いたくせに言っちゃいますが(もちろん不粋といえば不粋なので申し訳ないのですが)、これ結局父親の下半身がとてもお行儀が悪い結果なのであって、たとえ娘達を愛していたとしても、それゆえに生じた様々な感情の齟齬の原因は全てこの父のすけべ心に起因するのではありませんか?穏やかな顔で笑ってますが。
第39回香港電影金像奨最優秀美術監督賞