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2012年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)
2012年度ブラジルディスク大賞、関係者投票に選んだアルバムです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてアーカイブしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付します。この年選んだアーティストも錚々たる方々です。この年も様々な方向性の素晴らしいアルバムがありました。「Pierre Aderne / Bem Me Quer Mar Me Quer」は僕がライナーを書いた数少ないアルバムです。そして感動的だったのがDVD、「Eduardo Gudin & Noticias Dum Brasil / 3 Tempos」。
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総評:
1はこの三人なら当然だが圧倒的な美意識。2は至芸と言うべき二人によるサンバ。変わらぬ内省的で知的な世界観の3。声の力、歌の力に感涙の4。5はピエールの新境地。ポルトガルのアーティストとの美しいコラボ。6はヴニシウスらしくクールで淫微。フォーキーかつグルーヴィーな7。8はメロウでシンプルなダニロの佳作。9は若さと切ない楽曲に注目。10は地味だが透明感に溢れた良作。映像はなんと言ってもグヂンです。
1) Andre mehmari, Chico Pinheiro, Sergio Santos / Triz
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現在のブラジル音楽をその高い音楽性でリードする、Andre Mehamari, Chico Pinheiro, Sergio Santosの3人のコラボレートということで、期待に膨れ上がった状態でこのアルバムを聴いたのだが、そんな期待を呆気なく超えてしまう、素晴らしいアルバムだと思う。どの曲も3人独自の音楽的な色彩を保ちながら、3人の色彩が一つに混じり合い、一つの色合いにもなっている。音の立体感、抑揚、透明な美意識、カラフルな色彩感。これ以上の高い音楽性の作品はちょっと他には望むべくも無い。ほんとうに、やばいよ。
2) Ze Paulo Becker e Marcos Sacramento / Todo Mund Quer Amar
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これはもう問答無用なのである。今のブラジルを代表する6弦ギタリストZé Paulo Beckerと、最高の歌い手Marcos Sacramentoとのデュオ名義のアルバム。曲はすべてZé Paulo Becker/ Paulo Cesar Pinheiroによるもの。Rogério Caetano、Silvério Pontes、Leandro Braga、Luciana Rabelloなどの参加を得て、見事な直球勝負。朗々として伸びやかなMarcos Sacramentoの歌と、複雑でいて歌心溢れるZé Paulo Beckerのviolão。サンバ、ショーロをベースとしたブラジル音楽として、これは一つの到達点ではないだろうか。今年のベストはもはや決定。
3) Ze Migual Wisnik / Indivisivel
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まさに待望のZe Miguel Wisnikの新作。2枚組であるが故、通常は気合いが必要なのだが、これは気合いを必要ともせずに聴き終えることが出来た。1枚目は、Arthur NestrovskyとSwami Jr.のviolãoとseteを中心に、そして2枚目は自身のピアノとMarcelo Jeneciのキーボードを中心に、ごくごくシンプルなサウンドにのせて歌を紡いでいる。彼だけの、洗練と美意識に貫かれたセンチメンタルな旋律と、全編を覆い包む知性の煌めき、優しくまた滋味深い歌声。確固たる世界観を持った唯一無二の存在感は、密やかでいて宝石の様だ。ちょっと気が早いけれど2012年度のベスト!
4) Renato Braz / Casa de Morar
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雄大でそして圧倒的なのだ。Renato Brazのニュー・アルバム。その歌声は大地に根をはる古木のように重厚であり、また風に大きく揺れるその枝の様に優美でもある。Dori CaymmiやPaulo Cezar Pinheiroをメイン・ゲストに迎え、選び抜かれた楽曲も統一感がある。北東部的な素朴なリズムを多用しつつ、ストリングスを絡めたアコースティックな演奏も実に瑞々しい。繊細な表現力と素朴な力強さ、これこそRenato Brazだけの世界観。胸を鷲掴みにされる。
5) Pierre Aderne / Bem Me Quer Mar Me Quer
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Pierre Aderneのニュー・アルバムです。私、ライナーを担当させて頂きました。だからというわけでは勿論無く、これはとても素晴らしい、愛すべきアルバムです。本作はPierreが、ポルトガルを中心に、ブラジル、カーボ・ヴェルでなどポルトガル語圏の著名なアーティストとコラボした作品で、リスボンとポルトで録音されています。Pierreの音楽性をしっかり保ちながら、ポルトガル語圏の音楽家との親密で美しい交流が収録されています。Pierreの直感的で刹那を切り取ったな美しい詩は、本作でさらに磨き抜かれています。詳しくはご購入の上、聴いて頂くのが一番よろしいかと(笑)。
6) Vinicius Cantuaria / Indio de Apartmento
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Vinicius Cantuariaのニュー・アルバム。坂本龍一、Mario Laginha、Norah Jones、Bill Friesel、Jesse Harrisなどが参加して、ますますシンプルな間を感じさせる音作り。削ぎ落とされた音で、彼らしい世界観を表現している。クールにして淫微、幽玄にして都会的な退廃を感じさせる。このいやらしい感じ(褒め言葉です)はViniciusならでは。
7) Mauricio Maestro featuring Nana Vasconcelos / Upside Down
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Brasilan Folky musicの傑作、1976年のVisions of Dawnから45年の歳月を経て、元Boca LibreのMauricio Maestroと、巨匠Nana VaconcelosのふたりがFarOutからリリースした素晴らしいアルバム。Mauricio Maestroの歌やviolaoと、Nanaのpercussionを中心とした本作は、Brasilidade強く感じさせながらも、folkyでpsychedelicなサウンドと、独特の色彩感を帯びた旋律に溢れている。唯一無二のマジカルな感触がある。これは必聴。
8) Danilo Caymmi / Alvear
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Danilo Caymmiの新譜。こういうDaniloが聴きたいっていう、私の個人的好みを満たしてくれる素敵なアルバム。シンプルなバンド編成に、フルートのアンサンブル、そしてItamar Assiereのrhodesが絡むメロウなサウンド。Daniloと共作者達の手によるメランコリックな楽曲と、Daniloの包み込む様な野太い声。ミナス的な感覚も強く感じさせる美しくナチュラルな手触りの作品。これは良い!
9) Qinho / O Tempo Soa
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São Pauloを中心に活動しているSSW、Qinhoのアルバム。全く事前の情報無しで聴いたのだが、これはまた素晴らしい才能。シタールのエキゾチズムから始まるTr.1、浮遊感のあるエレピが素敵なTr.2、FunkyなTr. 3等々曲想は幅広いが、ほとんど全曲本人の手による楽曲の、絶妙なセンチメンタリズムは、心地良くまたオリジナリティーに富む。カッチリしたタイトなサウンドと、エレピを多用したメロウネス、儚く切ない歌声は新鮮な魅力に溢れている。Brasilidadeには乏しいが、新世代らしい洗練の極み。
10) Bruno Conde / Prisma - Celso Lago e Larissa Finocchiaro interpretem Bruno Conde
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もちろん全くノーマークであったのだが、このアルバムの成熟した品格のある音楽には率直に驚かされた。Santosを拠点に活動しているSSW、Bruno Conde。オフィシャル・ページによれば過去にNando Moraesというartistとのアルバムはあるが、ソロ名義は本作が初と思われる。さて驚くべきはその音楽性。Minas的空気感に彩られた、透明でロマンティックで審美的な音楽性は、実に志が高く純粋である。Renato Brazが1曲参加しているが、彼の空気感に極めて近い。しかしRenatoの世界よりは洗練の度合いが高い。これは是非とも聴いて頂きたい逸品。注目していただきたい。
DVD Eduardo Gudin & Noticias Dum Brasil / 3 Tempos
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これはファンは感涙のDVD。Gudinと3世代のNoticias dum Brasilが総出演。Monica Salmaso, Luciana Alves, Marcia Lopes, Fabiana Cozza, Renato Braz, Ilana Volcovなど、今を代表する歌い手達が、Gudinの名曲を歌います。Gudinのviolãoと4人のpercussionに、Teco Cardosoのwindsと、Milton Moriのcavaco.とbandolim。シンプルな編成による、知的で胸を打つ美しいサンバの数々。そりゃもう絶対に泣けますから。保証します。