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【因習村コンテスト】夜叉を鎮める祠【創作】

そこは夜な夜な包丁片手に獲物を求めた夜叉が徘徊したという伝説が囁かれる、知る人ぞ知る因習村だった。

恐れられていた夜叉は村人たちの手により鎮められ、祠によって封印されたと、以来夜叉を鎮め続けるべく、この村では選ばれた女が一人、日々祠を建造し続けていると、まことしやかに語り継がれていた。

嘘か本当か、しかし村の一角、無数に建てられた祠の数々が、その伝説の信憑性を物語っていた。

そこは因習村だった。


女は言った。
「おぬし、その祠を壊したのか?」

それは迷い込んだ観光客の男だった。
「え?何言ってんの?僕はやってないよ?」

女は声を荒げた。
「正直に言えっ!?正直に言うなら許してやる!」

男は言った。
「いやだから壊してないって……」

女は最早我慢できなかった。
「この祠はのう!日々周囲の獣を調理しては肉を食べ、肉がなくなれば夜な夜な包丁片手に狩りに出かけ、鳥の羽を毟り、動物の皮を剥いでなめし、肉はそれぞれ調理法を研究して、それはそれは食のために意欲的に狩りを続けた女が、最近は村のまわりに獲物が少なくなったからと、村でやったのと同じように包丁を片手に遠方迄狩りに出かけようとしたから、このままでは外聞も悪い!お前いずれ夜叉にでもなる気か!と村の長老たちから止められ、どうかこれでも作って落ち着いてくれと、狩りではなく祠作りのDIYを強要され、日々作るに至った作品たちなんじゃあ!」

男は冷静だった。
「怖そうな話に見せかけて、単なる趣味変じゃ……」

女はキレた。
「黙れ小僧!これはそんな軽い話ではない!周囲の圧力に屈して、ライフワークだった狩りをやめされられ!代わりにこれでもやれと!好きでもない祠作りをさせられた上に、何故か周囲から「因習村っぽくて観光にいい!折角だから伝説にしとこう」と知らぬ間に因習の元にされてしまった、ワシの気持ちがおぬしにわかるかあ!」

男は空気が読めなかった。
「まさかのあんたが本人、てか自分で夜叉って……」

女は更にキレた。
「うるさいうるさい!ここ迄きてもう何か周囲の望むように、むらおこしの為に鬼子母神伝説にされそうなワシが!ようやく自分の気持ちとの折り合いをつけてきたワシの作品を!おぬしよくも壊しよってえ!!」

男は冷静だった。
「いやだから壊してないって……」

女は叫んだ。
「おぬしじゃないなら誰じゃあ!」

男も返した。
「知らねぇよ!!!」

女は喚いた。
「この際違ってもいいわ!長年溜まった鬱憤をはらさせろ!ワシの手で膾になれええええええ!」

男はすぐさま逃げた。
「なんでだよおお!」

女は追いかけながら叫んだ。
「きええええええええええええええええええええええええええええ!」


たまたま村の外れにある祠群に迷い込み、壊れた祠の近くに居合わせただけの観光客の男と、抑圧され続けてたまりった鬱憤を初対面の男に吐き出し、ただただ発散すべく叫びながら暴れ走る女は、気付けば二人で山を降り、そして二度と村には戻らなかった。

それはいずれ夫婦になる男女だった。


一方その頃の村では、最初の意味を知るものも少なくなりながら、意味ありげに量産され続けた祠。
しかしその噂を聞きつけてやって来た観光客の手によって、祠は無惨にも壊されてしまった。
しばらくすると、壊された祠の辺りから、言い争うような声がしたと思うと、金切り声が村中に響き渡り、そして遠ざかっていった。


そう言った噂が村人の間で飛び交った。


そんな中、訳知り顔の村人がこれみよがしに周囲に言った。
「きっとこれは祠の力によって鬼子母神となっていた夜叉が、祠の破壊によって目覚め、獲物を求めて上げた声だ!封印から逃れて新たな犠牲者を探しに行ったのじゃ!」

それを聞いた村人たちは一斉に家に閉じこもり、祠のあった方角に向かって念仏を唱え始めた。
その念仏は毎夜続いたと言われる。


そうして夜叉だ鬼子母神だと言われた女がいなくなる事で、村の因習が廃れたかに見えたが、有象無象な人々の噂によって、こうして村には新たな伝説が生まれ、そして又村の観光業が栄えたとさ。


因みに洞はこの訳知り顔の村人が、うっかり山歩きの際に壊したとかなんとか、それをごまかす為に何やかんやと言ったそうだが、今となってはそれはもう過ぎた話だった。

結果良ければ全てよし。
めでたしめでたし。


#因習村コンテスト

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