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NYで読書会。朝井リョウ「正欲」について
こんにちは、ニューヨーク、ブルックリンに住むみさとです。
今晩はバレンタイン。絶賛ハッピーシングル中の私は特に予定がないので、こうしてnoteをぽちぽち更新しております。笑
パートナーがいる方も、シングルの方もHappy Valentine's day♡
さてさて、Book clubなるものに人生で初めて参加してきた話と、その課題本朝井リョウの「正欲」について思ったことを今回は書きたいと思います。
本の内容について触れるので、ネタバレになっちゃうので、嫌だ〜って方は読まないでください!笑
あと本の内容が結構センシティブなトピックで重い内容なので、苦手な方もスキップしてください〜!
ニューヨークで読書会
今月頭に参加したBook club、読書会ってやつです。映画とかでしか見たことなかった!笑 一冊の本を各々読んで、それについて話し合ったり感想を言い合ったりするやつです。
しかし、私が参加した読書会、ちょっと普通とは違う、すごい会なんです。
なんと、アメリカ人が日本の本を日本語で読んで、日本語で話し合うという、超ハイレベルな会!
私が日本人としてそこに参加するの、なんかズルみたいなんですけど(笑)まぁでも日本の本好きが集まって語り合うということがメインの会だから、別にナショナリティに縛りなどない!
ということで、友人に誘われてジョインさせていただきました。
私が参加者の中で日本人第一号だそうで!笑
さて、2月の課題の本は、朝井リョウの「正欲」。
早速私もニューヨークの紀伊国屋で本を購入。読み始めましたが、結構分厚いし、日本人でも内容が難しい!テーマは重いし、朝井リョウの独特の言い回しが、たまに日本人でもすんなりとは分かりにくい。もちろん難しい漢字はガンガン出てくるし、この本を本当にアメリカ人が1ヶ月で読むのか!と信じがたい気持ちでした。
私もなんとか読破。(日本人のくせに、やはりそこそこ時間かかる 笑)
「正欲」について (ネタバレ注意)
課題本の「正欲」について、以下が新潮社の本の紹介ページ。
あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ――共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 絶望から始まる痛快。あなたの想像力の外側を行く、作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。
なんともシリアスで、希望があるのかないのか、色々と考えさせられる内容でした。
読み始めて早々、私はとても混乱しました。冒頭の文章で、いきなり多様性について全否定をされたので。
私としては、今の時代は多様性の時代。何が悪いんだ?と。
読み進めれば分かるんですが、私も登場人物の八重子と一緒で、「色々な幸せがあっていい、みんな違ってみんないい!マイノリティだってみんな理解して受け入れていこう」みたいに、声高々に掲げるタイプの人間だったと気付き始めるんです。自分が考えたこともないレベルで違っている人のことなど思いもよらないで。
そして読み終わった後、冒頭の文章を理解します。多様性万歳と簡単に言って、あなたのことを理解できるから心の内を明かしてほしいと乱暴に言って放つ人間に「ほっといてほしい」という気持ちを。ただ、社会の端に逃げながらも、やはり誰かを心から必要とし、声なき叫びをあげている者たちの存在を。
読書会の参加者と、その感想
読書会は、日本語クラスに通うアメリカ人のクラスメイトが結成したものだそうで、その日本語のクラスはレベルが1から13まであって、参加者の皆さんは今レベル13のクラスにいるそうです。流石!
参加者の一人は日本語の本をこの2−3年で200冊も読んだという強者。普通の日本人より全然読んでる!!彼は日本語のクラスをレベル1から初めて、そこまで上手くなったそうで、でも日本には一回も行ったことがないそうです。びっくり。
メンバーは私含めると5名で、今回は一人が来れなかったため、4人で行いました。
本について話し始めて(日本語で!)、すぐにみんな完璧に内容を理解していることがわかりました。私が英語の本を読むと、読解力が足りなくて内容を勘違いしていたりとかは常なんだけど(笑)
そして読書会、うん、いいですね。みんなと話し合ったことで、もっと理解が深まります。一人で本を読んだ後はそこまで思わなかったことも、みんなの意見や捉え方を聞いて、話し合ったことによって、深く考えて色々感じたりします。
私は読書会の後、未だにこの本について考えているので、ここで書いている今がある訳で。この本を通して、作者からある問いを叩きつけられたような、そんな気持ちなんです。
少し具体的な本の内容に触れます。
本に登場する者たちの中で、頑なに人との関わりを持とうとせず、世間一般の人々を嫌い、距離をおき、どうせ理解されないとひたむきに何かを隠し続けている者たち。中盤でそれが、かなりマニアックな欲望、フェチを持った者たちであると分かります。正直私が本当に知らない世界で、多くの読者も少し戸惑うと思います。
この本の主人公たちのケースは、様々な形に姿を変え、流れ、噴射する水に対して欲情する者たち。水に対して、多くの人が持つことのない欲望。
そんな彼らは彼ら自身が一番自分を恥じ、呪い、しかしどうしてもそこに存在する思いを持て余す。世間から理解されようなどとは思わず、ほっておいてほしいと願いますが、やはり、やはり、理解者を、気持ちを打ち明けられるものを、繋がりを、求めるのです、生きていくために。
水を他の人とは違った形で愛する主人公たちは、理解しあえる者達での繋がりを求め、あるコミュニティを結成し自分たちの欲望を満たそうとします。しかしとあるアンラッキーな状況に巻き込まれて、結果としては小児愛者として逮捕されてしまいます。
読み手としては、一人ぼっちで辛い世界を生きていた理解されない者たちが、やっと繋がりと希望を手に入れかけたのに、結果がそういうことで本当に残念に思ってしまうのですが。
犯罪はダメ、法に触れたり人に迷惑をかけたりすることはダメ。それはハッキリとしています。でも犯罪ではないことでも、決して世間からは受け入れられないことってあります。
多様性多様性と言いますが、あなたはどこまでを多様性に含めますか?
違っていていいというのなら、どこまでも違っていて受け入れますか?
それに正しいや正しくないはありますか?
どこで線を引くのですか?
と作者に問いを叩きつけられた気分なんです。今答えの出ない問いを。
読書会での参加者の皆さんからの感想としては、密かな思いを抱え孤立する登場人物達に対して、ここまで社会や人々をシャットアウトしなくてもいいのではないか、ここまで絶望的に人生を諦めなくてもいいのではないか、という意見が多かったです。
小児愛者として逮捕されて尚、本来の目的(水に対する思いと行為)についてひたすらに隠し、自分達の無実を晴らそうとしないことに、少し理解ができない、という感じでした。別にその思いは法に触れるわけでもないし、変だなとは思うけど、別にそれが知られたって会社をクビになるわけでもないし。と言う意見。流石多様性の街、ニューヨーク。笑
ふと疑問に思って、じゃあもしアメリカの学校でそれがバレても、いじめられたりされない?って聞いたら、それはいじめられると思う。と返ってきました。なんじゃい。苦笑
受け入れられない、理解されない、気持ち悪がられる、やばい奴だと思われる。それって本当に辛くて、深く傷つく。そんな自分を変えたいけれど、どうしても依然として存在し続ける自分があって。自分の抱えるその思いは世間からしたら恥ずかしいことだと思っても、いけないことだと思っても、そこにあり続ける。
昔聞いた話を思い出しました。性欲が強くて持て余していると悩んでいる人の話。一見笑い話のようだけど本人は深刻でした。どうしようもないから奥さんと子供に隠れて風俗に行くと。表情から、恥と諦めのようなものが見て取れました。誰も彼を責められない気がしました。
思い切って参加者のみんなに、クレイジーな質問だが、多様性というものに、じゃあ例えば小児愛の感情は含まれるか?と一石投じてみました。
(ストーリーは小児愛者の話ではありません。主人公の水への執着は法には触れないものですが、あえて社会的にはっきりとNGと言われているものとして例に出しました。)
一応誤解がないように言いますが、私は子供がそういうものに巻き込まれるなんて耐えられない、絶対反対です。犯罪はダメです。
でもふと、ここで朝井リョウに叩きつけられた問いに対して、みんなはどう思うのか極端な形で聞いてみたかったんです。
実際に手を出したり子供を巻き込むのは絶対ダメ。でもその思いがどうしても存在していたらどうしたら良いのか正直分からなかったし、その気持ちを持つこと自体がダメだとは私は言い切れない気がしたから。例えばアニメとかそういうもので欲望を満たす形もダメなのか?とか。(非常に物議を醸すトピックですよね、それによって助長するかもしれないし。)
みんなの返事は断固ノーでした。その気持ちを持つこと自体ダメ、コントロールするためにカウンセリングなどにかかるべきだと。このトピックはアメリカでは日本よりも強いタブーだと思います。(規制もとても厳しいですしね)
私はあえてこの極端な例で質問をしてみましたが、実はその後空気が変になったので、新参者の分際でこの件に触れたことには後悔です。ヤバい奴だと思われてしまったかも。笑
紹介文にもある一文、
「あってはならない感情なんてこの世にはない」
これに関して、私は多少なりとも共感していて、みんなのように断固ノーと言えなかった。みんなのきっぱりとした姿勢に、私はそれ以上そのことについて話すこともできなかった。(だからここで書いているのだと思う。笑)
断固ノーと言わない私自身が、社会から外れた、正しくない思いを抱えているような気がした。
私はこの本の、法には触れないが社会からは受け入れられないフェチの欲望を持つ主人公達と、最終的には小児愛者ということで捕まったという構成に、朝井リョウの狙いを想像し、ううーんと唸ってしまいました。
流石に主人公を小児愛者に設定して書くのはタブー過ぎる。でも暗に作者は聞いている気がした。多様性とは?という問いにそれを含める形で。読者をひやりとさせる形で。
「正欲」
このタイトル、読み終わってしばらくしてから、「あぁ。」と思いました。
正しい欲。正しくない欲。
読書会の参加者の一人が、言った感想。
この本を読むのはテーマがテーマだけに、しんどかった。
でもこの場でみんなで話し合えて良かった。このしんどさを一人で抱えることがないから。と。
参加してみて
第一回目の読書会としては、いささかテーマが重すぎた感じがしますが、参加して、本当に興味深かったし、もっと深く本の内容を理解し、メッセージを考える良い機会をいただきました。(そして予期せず自分自身のことも考えさせられました。)
アメリカ人が日本語でこんなに難しい本を読んでいるということが自分の刺激になりました。私も日本の本1冊、英語の本一冊を毎月読みたいなと思っている次第です。
読書会は、昔好きだった読書、最近はあまりできていなかったので、そこに連れ戻してくれる良いきっかけになると思っています。
後、大人になって新たな人たちに出会うって本当に貴重なので、読書会のメンバーと知り合えたことは私にとって本当に嬉しいことでした!
私のトリッキーな質問にドン引いた皆さんに、また歓迎してもらえるか分からないけど(爆)また次回も参加する予定です。
(3月の回は日本に帰国中なので、次回は4月です!)
皆さんはどう思ったのか、感想や意見など、お聞かせいただけると嬉しいです!
また興味深い本や、意見に出会ったらここでシェアさせてもらいますね!
それではここら辺で、おやすみなさーい。
ニューヨークから愛を込めて。
みさと