小さな背中がかきまぜる、多様性国家コロンビアのスープ
世界各地の台所の写真を見返していて、料理するひとの「後ろ姿」が多いことにふと気付いた。
理由は明快、現代の台所は壁に面していることが多いからだ。
家の真ん中にアイランドキッチンが据えられている家なんてそんなになくて(囲炉裏が実はそれだけど)、たいていは家の隅の方に置かれている。
特に住宅事情の厳しい街の台所は、細くて狭いから横顔すらも見えなくて、本当に真後ろからの姿しかなかったりする。
中でも特に印象に残っているのは、コロンビアのおばあちゃんの背中だ。
このおばあちゃんは、身長148cmの私と目線が合うくらい小柄で、コンロにしがみつくようにして料理をしていた。
おばあちゃんが立っている台所は、首都ボゴタの旧市街に位置する家の2階の隅。ゲストハウスを営む娘夫婦と孫と三世代で暮らしており、さらに親戚や従業員さんも出入りして、家にはいつも大勢の人が行き交う。その大家族のごはんを、おばあちゃんは作っていた。
一番よく台所に立つのは彼女なのに、どういうわけかこの家の台所は容赦なく高くって、いつも頭の上におたまを掲げるようにして鍋をかき混ぜていた。
今日のごはんは「サンコーチョ」というスープ。山地でとれるイモ類に熱帯の調理用バナナなども入る、具だくさんのスープだ。コロンビアは、アンデス山脈の寒帯から海沿いの熱帯まで多様な気候帯を抱えており、ブラジルに次ぐ世界第2位の生物多様性国家なのだ(*1)。本当に多様な食材が、ひとつ鍋の中でまざりあい、ここにしかないおいしさを作り出す。
おばあちゃんは鍋の中身が見えないので、時々「あれ、入れたと思っていたイモがまだここにあったよ!」ということもあったけれど、それでもちゃんといつもおいしかった。早く家を出る孫のために、おばあちゃんは間に合わせようと必死。そこら中に飛ばした汁を拭きながら、娘さんは苦笑いしてた。
ちなみに娘さんはがっしりしていて、おばあちゃんと並ぶと遠近感がわからなくなる。
コロンビア女性の平均身長は155cm、世界平均の160cmと比べて5cm低い。日本人女性が158cmなので、日本人と比べても低いということになっている。(*2)
と言っても「平均」はあんまり意味がなくて、コロンビアは世界有数の多民族国家、本当に個人差が大きいのだ。大別すると、ヨーロッパ系・アフリカ系・先住民系・混血にわかれるのだが、85以上の民族があるという研究もある。
アンデス高地の先住民は、身長が低い。おばあちゃんもこっちのルーツだったのかな。滞在中一度も人種の話にはならなかったのでわからないけれど、食材と同じように、人間も多様だ。いろんな人が関わり、いろんな食材があって、ここにしかない豊かな食卓の笑いがうまれていた。
おばあちゃん、元気にしてるかな。