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なに食べてどう過ごしてる?世界の新年を訪れてみた2021

「世界のお正月って何食べてるの?」「そもそも新年って祝うの?」
聞かれることが多い話題ですが、実はあんまり知りません。新年って一年に一度しか来ないから、なかなか体験できないんですよね。
そこで2021年1月1日、Zoomで各地の家庭とつなぎ、世界をぐるっと訪れてみました。

見えてきたのは、「あれ?意外と新年って特別な日じゃない...?」ということ。逆にどうして日本はこんなに新年に特別な気持ちになるのだろうと、考えてしまいました。世界各地の新年の食事と過ごし方、みてみましょう!

<まとめ>
・日本は新年ならではの料理や風習があり、数日間続くけれど、これほど大規模に祝うのはどうも世界標準ではない。
・新年というと日本では1月1日を指すけれど、どうも世界ではNew Year's Day(1/1)よりもNew Year's Eve(12/31)の方が料理も風習も多く、盛り上がってそう。
・キリスト教の国々では、新年よりもクリスマスの方が重要。
・イスラム教の暦では1月1日は新年ではない。
・中国暦でも1月1日は新年でない。
・正月を祝うのは、神道に根差す神事のひとつ。日本の新年、世界的に見ると、食べるものも風習も、やること多いぞ。

コロンビア:0時にぶどうを12粒、アヒアコだけはつくる

年越しの0時にぶどう12粒を食べながら、12個の願い事をするの。小麦の粒を散らしたパンは、1年の豊穣を祈るもの。今年は穂つきの小麦が見つけられなかったから、ゴマで代用したんだけどね。」
教えてくれたのは、両親と祖母とボゴタ郊外に暮らすカリナ。12月に高校を卒業し、1月から大学生です。ちなみにここ半年はずっとオンライン授業だったそう。

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テーブルに並んでいるのは、大きなパンとぶどう。

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1月1日よりも12月31日の夜が大事で、親戚と集い、レチョナ(lechona, 豆や野菜や米を詰めた豚の丸焼き。パリパリの皮が絶品)などのご馳走を食べて、歌ったり踊ったりして祝うそう。
翌朝はタマレス(tamales, バナナの葉にとうもろこし粉の生地を包み、豚肉や野菜などとともに蒸したもの)。レチョナもタマレスも手間がかかる上に少量では作れないので、毎年買ってくる。

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レチョナ(左)とタマレス(右)

[新年の食べ物]
「新年の朝食はビッグなの!食べるものに決まりはないけど、タマレスは毎年食べるよ。ホットチョコレートやオレンジジュースとともにね。毎年、12月31日はアヒアコ(ajiaco, じゃがいも3種を使うコロンビアの代表料理)とナティジャ(natillas, プリンのようなデザート)だけは作るわ。これとパンとぶどうは全国共通。でも、レチョナの代わりに海沿いの地域では魚料理を食べるし、食べるものに特に決まりはない。大事なのは、家族で集まること。

その地域ごとの "大人数向きの料理" を楽しむようだ。日本のおせちには一つ一つに意味があること、めでたい時の色は紅白であることを話すと、「料理自体に意味があるなんて、コロンビアにはないかも」と驚いていた。

[新年の過ごし方]
「12月31日の午後から仕事や学校はお休み。0時からはじまる1月1日丸一日がお祝いだよ。12月31日は夜遅くまで起きてるから1月1日はゆっくり過ごすの。家で映画をみたり、お出かけする人もいる。」

[COVID-19下の新年は何が特別?]
ロックダウンではないけれど感染者は多く、街に出るとマスクなしで歩いている人もいるので外出を控えているそう。また普段は親戚と共に過ごすので料理上手な叔母さんがアヒアコ以外の料理も作ってくれるが、今年は叔母さんが体調不良だったこともあり一緒に過ごすことをやめたので、それもなし。「今年はすべてテイクアウトね」。

インドネシア:イスラム暦の新年ではないからいつも通りの揚げバナナ

「きのう(12月31日)はパレッコー(palekko, 鶏肉または鴨のスパイス炒め)つくったよ。なんでパレッコーかって?みんな好きだし、スラウェシ島南部では、人が集まるときはパレッコーさ」。新年に限った料理はないようです。教えてくれたのは、スラウェシ島のアイヌン一家およびその仕事パートナーのルース。

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[新年の食べ物]
「1月1日は休日だけど、普通の日だよ。イスラム暦の新年は西暦と違うから、特に何もないんだ。」いつも通りの朝食の準備をしながら、そう教えてくれた。今日の朝食はブンドゥブンドゥ(bundu-bundu,  鶏肉のローストココナッツ煮)と昨日の残りのもち米、それにピサンゴレン(pisang goreng, 揚げバナナ)。ピサンゴレンは、朝食や軽食にほとんど毎日食べるもの。白米がもち米であること以外、本当にいつも通りの朝食だ。

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ピサンゴレン(左)と朝食の食卓(右), 指差しているのはブンドゥブンドゥ

[新年の過ごし方]
「今日は金曜日だから、ちょっとモスクに行ってくるね。」と突然いなくなるルース。もはや新年と関係ない。
「12月31日は例年、BBQをしたり魚のグリルをしたりするよ。新年限定の料理ではなく、人が集まるときは定番だね。一緒に作ったり、過ごしたりするのにぴったりだろ?大事なのは、何を食べるかではなくみんなが集まることなんだ。

1月1日は新年ではないけれど、新年を”口実”に、親戚や友人と集まっているようだ。

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パレッコー(左)と魚のBBQ(右)、ルースが送ってくれた写真

[COVID-19下の新年は何が特別?]
「幸いインドネシアは感染者数も少ないからほとんど例年通りだよー」

スーダン:新年というよりは独立記念日

「ごめん寝坊した!きのう深夜3時まで起きてたから」1時間遅れで登場したスーダンのムナ。現地時間は1月1日午前10時。

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[新年の食べ物]
「今日の朝ごはんは、グラサ(gurrasa, 全粒粉のクレープ)にムラー(mullah, オクラ粉末でトロミをつけたシチュー)にサラダに...1月1日の朝食はいつも通りね。どちらかというと12月31日の夜のほうが大事かな。」
昨晩は、手作りのシナモンロールと友人が持ってきてくれたバスタ(basta, セモリナ粉やナッツで作るバクラバ似のあまーいお菓子)を食べながら、遅くまで家族で過ごしていたそう。「でも今年は甘いものしか作らなかったな」。

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シナモンロール(左)とバスタ(右)

[新年の過ごし方]
1月1日は国旗を掲げるの。1965年にイギリスから独立した、独立記念日だから。あとは、お休みだからゆっくりすごすかな。」
イスラム教のスーダンでは、イスラム暦に従えば新年は1月1日は新年ではないので、特別何かがあるわけではない。それでもなんだか特別な空気があるのは、西暦が改まったからではなく、独立を勝ち取った日だからかもしれない。

[COVID-19下の新年は何が特別?]
「12月31日は、例年親戚も集まって一緒に過ごすの。人が集まる時の定番料理はBBQね。でも、今年は人も来ないで同居家族だけだったから、作ったのは甘いものだけだったわ。」
政治デモやCOVID-19のため、学校も数ヶ月前から休校が続いているそう。

パレスチナ:新年は必須じゃないけど親戚が集うことは必須。ケーキ焼いた

「これから母の家に集まるの!私にはきょうだいが10人いて、そのそれぞれの子どもが合計23人いるの。年取って一人で住んでいる母を一人にしておけないから、久しぶりに集おうっていうことになったのよ!巨大な集まりになるわ。」あふれる笑顔で教えてくれたのは、3人娘の母ナウラス。持っていくためのお菓子作りを終えたところだった。

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[新年の食べ物]
新年のお祝いって、マストじゃないの。イスラム教の私たちにとっては、ラマダン明けのお祝い(イド・アル=フィトル)やメッカ巡礼最終日の祝い(イード・アル=アドハー)の方がずっと大事。新年の食べ物というのは特にないよう。

[新年の過ごし方]
「今日は金曜日!家族が集う日よ。それから1月2日は妹の双子の娘の誕生日なの。新年だからというよりも、親戚一同が集まるから、ケーキを用意したわ。人数が多いから、みんなで持ち寄るの。」

テーブルの上には、バスブーサ(basbousa, セモリナ粉をシロップに漬けた甘いケーキ)2つとオレンジケーキ。各人が持ち寄るものの他に、BBQとマクルーバ(maqlooba, 鍋ごとひっくり返す炊き込みご飯)が用意されるそう。いずれも、大勢集まるときの料理。

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オレンジケーキ(左)とバスブーサ(右)

[COVID-19下の新年は何が特別?]
「今日は全家族集まれるかしら。毎週金曜日は親戚を訪れて集っていたけれど、今年はロックダウンがずっと続いているからそれも減った。フルロックダウンだった時もあるけれど、今は平日19時~翌朝6時と金土の終日がロックダウンね。私たちにとって、人と会ったり集うことを禁止されることのは、つながりという一番大切なものを否定されることで、本当に大変なことなのよ...」

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後日ナウラスから送られた写真。集まったのは42人ほど、それでも全員ではない。

パレスチナの人々は、イスラム教の教えに加えて、土地を追われ積み上げたものがゼロになるという歴史的な苦難を経験してきたことから、教育・家族・人のつながりを何よりも大事にしている。"決して裏切らない財産"なのだ。そんな彼らにとって社会的つながりを奪われることは、私たちが"出かけられない"ということ以上にはるかに大変なことなのだ。

「学校の授業はオンラインでやっているけれど、パレスチナは子沢山だから、子供たち全員分のデバイスなんて用意できない!大変なことはたくさんよ。でもね、」庭を駆け回る3人の娘たちを眺めながら、ナウラスはにっこり笑って言う。「家にいる時間が増えたから家のリノベーションもできたし、庭の手入れもできたし、それに子供たちと過ごす時間が増えたの。これは私にとって最もかけがえのないこと。今まで仕事で忙しすぎたからね、いいこともたくさんあったわ。」

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オーストリア:魚の形のビスコッティ?

クリスマスの方が大事。家族で過ごす日なの。12月31日は、パーティーとかカウントダウンとか...ソーシャルで外向きな日かな。」そう語るのは、ポーランド出身オーストリア在住のエリー。1月1日だけは会社も学校もお休みで、前日のパーティーの余韻でゆっくり過ごすものらしい。

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[新年の食べ物]
「特にないかなあ。あ、ウィーンの老舗お菓子メーカーMannerの”幸せの魚”は買ったよ。」
見せてくれたのは、魚の形の形をしたビスコッティ。魚にどんな意味があるのかは不明。「関係があるのかはわからないけど...」と教えてくれたのは、魚にまつわるポーランドの風習。カトリックの国ポーランドでは、クリスマスイブは肉を避け、魚を食べる日。そこでさばいた魚の鱗をとっておいて乾燥させ、紙に包んで1月1日に金運のお守りとして渡すのだそう。フランスではイースターに魚型のチョコを贈るし、聖書に何か関係ありそう?

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[新年の過ごし方]
「普段は両親のもとを訪れて家族で過ごすかな。そこで母に鱗のお守りをもらうのよ」

[COVID-19下の新年は何が特別?]
「今年は、母と過ごさない初めての新年ね。きびしいロックダウンで、例年は賑わうクリスマスマーケットも今年はゼロだったし、今も日用品の買い物以外の外出は禁止。それでも出かける人はいるけどね。あまりに長期になっているから...つながりが必要なの。今年はパーティーがなかったから、昨日の夜も普通に仕事していて...ちょっとねむい。」
外出禁止で太らないよう、毎朝オンラインでエクササイズをしているそう。

ブルガリア①:31日のディナーが大事、0時の瞬間におみくじバニツァ

「12月31日のディナーを用意したよ!」
にっこにっこの笑顔で現れたのは、バラの谷カザンラクの集合住宅に住む、ステファンとマルギー老兄妹。

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決まった料理はないんだけどね。うちはいつも、マッシュルームとスモークチーズのグリルに、ポークステーキ、じゃがいもグリル、かぼちゃのケーキかな。」他にテーブルに並ぶのは、チーズ、ルカンカ(lukanka, サラミ)、パンに果物。あとはバラのブランデー。
部屋にはまだクリスマスツリーが飾られている。クリスマスは大事だけれど、それとは別に新年(正確には12月31日の夜)も大事だそう。

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左上から順に、ポークステーキ、マッシュルーム&スモークチーズグリル、ルカンカとチーズ、白チーズ、カボチャケーキ、カボチャのバニツァ。

[新年の食べ物]
1月1日の朝はバニツァ(banica, ブルガリアの代表料理のチーズパイ)だね!ひと切れずつに、新年を占うメッセージが入っているんだ。」
これはミサトの分、と言ってバニツァを切って取り出してくれた紙には、「旅できますように!」と書かれていた。そんな仕掛けを用意してくれて、もう絶対いい年になることを確信した。バニツァの中にはヨーグルトが入っているけれど、食べるときにもヨーグルトを添える。

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新年のバニッツァ。メッセージ入り。

[新年の過ごし方]
教会に行く人もいるけれど、特にやるべきことはなく、のんびり過ごすそう。翌日からは仕事。

[COVID-19下の新年は何が特別?]
普段は友人なども集い10人ほどになることもあるそうだけど、今年は二人きり。それでも、私に見せるためなのか自分たちのためなのか、バニッツァを焼いて新年を迎えていた。

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ブルガリア②:31日は豚肉料理たくさん!1日は残り物

最後は、「世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる(青幻舎)」の表紙にもなっている一家。子供たちからおじいちゃんおばあちゃんまで、一家揃って登場してくれた。

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テーブルの上には、12月31日の夜のご馳走が。サルミ(sarmi, 塩漬けキャベツで豚肉や米を包んで煮込んだロールキャベツ)、ポークステーキ、パンにクッキー。「おばあちゃんとマヤ(末っ子の妹)が一緒に焼いたのよ」。

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「料理に決まりはないんだけどね、このあたりの田舎の家ではクリスマスから年末にかけて豚をしめるから、豚肉料理がたくさんなのよ」。

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ポークステーキ

[新年の食べ物]
テーブルの上で唯一お決まりなのは、バニツァ。先ほどの家では新年の朝に食べていたけれど、通常は12月31日の夜に食べることが多いよう。普段の朝食や気軽なスナックにも食べるもので、街角のパン屋やスタンドにも売っているものだけど、こういう時のバニツァは、人々は買うよりも家で作るのを好むそう。もちろんおみくじ入り。

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「バニツァ、どれがいい?あなたの分のメッセージをかわりに引くよ。」

[新年の過ごし方]
「まずは寝る。前日は花火が上がったり踊ったりして遅くまで起きてるからね。それからゆっくり起きてきて、前日のご馳走の残りやバニッツァを食べて、あとはのんびり過ごすのよ。」

[COVID-19下の新年は何が特別?]
二つの家が集まるだけということもあってか、いつも通りの新年を過ごしているそう。「学校はオンライン授業だけどね。今年はブルガリアに来てね!」と満面の笑みで言ってくれた。

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ポーランド:クリスマスが大事

友人の家に遊びに行っていて、「子どもたちを散歩に連れて行かなきゃいけないからごめんパス!」ということで話せなかったのだけど、クリスマスは大事である一方新年は特に...という感じだそう。

ベトナム:新年は旧正月だから1月1日は特になし

「前日のパーティーから帰ってきたばかりだからごめん無理(朝11時)」ということで話せなかったのだけど、ベトナムの新年は旧正月なので、1月1日に特別なことはないよう。

タイ:特になし

「ごめん忙しくなっちゃった」ということで話せなかったのだけど、1月1日は特にないがあるわけでもなく普段通りの食事だそう。

世界一周新年の旅を終えて

<まとめ>
・日本は新年ならではの料理や風習があり、数日間続くけれど、これほど大規模に祝うのはどうも世界標準ではない。
・新年というと日本では1月1日を指すけれど、どうも世界ではNew Year's Day(1/1)よりもNew Year's Eve(12/31)の方が料理も風習も多く、盛り上がってそう。
・キリスト教の国々では、新年よりもクリスマスの方が重要。
・イスラム教の暦では1月1日は新年ではない。
・中国暦でも1月1日は新年でない。
・正月を祝うのは、神道に根差す神事のひとつ。日本の新年、世界的に見ると、食べるものも風習も、やること多いぞ。

日本のおせちやお雑煮のように、「新年はこれとこれを食べてあれをしなければ!」というきまりごとは意外と少なかった。新年の特別な食べ物というのが特にない国すらもあった。

話を聞いていく中で印象的だったのは、繰り返される「大事なのは、家族や親戚が集まること」という言葉。考えてみれば、宗教色のない日本のクリスマスもそんなものかもしれない。もともとの新年の意味が何であれ、年が変わる節目というのは人が集う口実としてなんだか都合がいい。

日本の新年は神道に根差すから、食べ物自体に意味がある「縁起物」を重んじるけれど、集うことが大事な国々では、大勢集まるときに都合のいいい大量料理(BBQなど)や皆で時間を共にできるおみくじ的な風習(12粒のぶどうやバニツァ)が根付いている。これも「新年の位置付けの違い」によるものなのかもしれない。

今年は集うこともままならないけれど、それぞれの苦労も抱えながらも、力強く、そしてにこやかに、いつもとちょっと違う新年を迎えている人たちがいた。世界中のみんなにとって、よい一年になりますように!


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