ウィーンのカフェにもおばあちゃんのレシピにも共通の「おいしいケーキの大事なコツ」とは
ウィーンと言えばカフェ文化。ユネスコ無形文化遺産にも登録されていて、ハプスブルク家の時代からの伝統を引き継ぐカフェ(コンディトライ)には、チョコたっぷりのケーキが並ぶ。
人生初めてチョコケーキに感動したのは、留学時代に訪れたウィーンのカフェGerstnerだった。7年ぶりに訪れたら、格式高い内装が今風のポップな感じに変わっていて少しさみしかったけれど、創業以来150年変わらぬレシピで作り続けているというケーキは変わることなくどっしり濃厚でおいしかった。
おいしさの秘密は「たっぷりのチョコレートとバター」だと支配人の方が教えてくれた。かつてのヨーロッパでは、希少な砂糖やカカオをとにかく贅沢に使うことが豊かさの証であったという。砂糖はサトウダイコンからの製糖に成功したことでサトウキビに依存しなくてよくなり異常な高値から解放されたが、カカオは18世紀になっても非常に高価で、宮廷財政を圧迫していたという。それでも一族の多くが大変好んだために買うのをやめられなかったというのだから、カカオの誘惑たるや大変なものだったのだろう。
そんな歴史の厚みを感じるケーキを味わったあと、でもやっぱり家のレシピを教わりたくて、74歳のエリザベートおばあちゃんの台所を訪れた。彼女のチョコケーキは一家みんなに愛されていて、おばあちゃんのおばあちゃんから引き継いだレシピでもう何十年も作り続けているという。
「孫たちの一番好きなケーキなんだよ。クリスマスにもイースターにも誕生日にも作ってきて、一度に3つ焼くことだってある。みんなおかわりするから一つじゃ全然足りないんだよ。あの子なんて他のケーキ作ってもこれしか食べないんだから」と壁にかかったお孫さんの写真を指差して自慢げだ。
おばあちゃんのレシピは難しくないが、分量には厳しい。材料を測るとき1gでも足りないと「もっと!」と横から手が飛んでくる。「おいしいケーキにはたっぷりのチョコレートとバターが大事なの!控えるくらいなら食べないほうがまし!」。焼いたあとにはチョコとバターたっぷりのコーティングをまんべんなく塗る。
おばあちゃんのレーリュッケンは、細部はだいぶおおざっぱなのに、最後にアーモンドで繊細な飾りを施す。
家族の中で育まれたケーキは、やさしく、美しく、そして贅沢においしい。濃厚なのにふんわり軽く、本当にいくらでも食べられてしまう。100年変わらぬおいしさは、ボロボロになった手書きのレシピも保証している。
伝統のカフェとおばあちゃんのケーキは一見別物だけど、大事なことはおんなじだった。たっぷりのチョコレートとバター、これがウィーンのおいしいケーキに普遍の鉄則だった。
おばあちゃんのレーリュッケンはこちら。今日ばかりはダイエットなんか考えず、贅沢に作ってみてほしい。