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パレスチナの台所から②〜薪ストーブで焼くハンバーガー

今日のパレスチナは冷たい雨。バス停で迎えを待つ間に、指先がかじかんでいく。中東だから暖かいと思っていたが、冬は東京と同じくらいには冷え込む。

寒いし、さみしいし、心細い。イスラエルのSIMカードはここでは電波がなく、連絡を取ることもできない。ナウラスさんが迎えに来てくれた時、彼女の笑顔が天使のように感じた。

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車で向かう自宅は、キャンプではない。

無知な私は「パレスチナ難民」という言葉だけを知っていたせいで、パレスチナに住む人はみな難民キャンプに住んでいるだと思っていた。けれど実際、パレスチナのヨルダン川西岸地区に住む300万人(2017年, パレスチナ中央統計局PCBS)のうち難民認定されているのは80万人ほどで、難民キャンプに住むのはそのさらに4分の1の20万人ほどだ(2016年, UNRWA)。つまり難民キャンプの外にも難民はいて、さらに大多数の220万人は難民ではなく私たちと同じように一市民として暮らしているということだ。

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2. ナウラスさん家の台所(難民キャンプ外に住む難民)

彼女の家は、首都機能のあるラマッラの街から20分ほど車で上った山の上にある。オリーブとレモンに囲まれた、美しい土地だ。冬は少しさみしいけれど。

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彼女の親の故郷は、テルアビブ近くのヤッファという町。今はイスラエルになってしまい、訪れることすら叶わない。イスラエル兵に追われてこの地に来て、いつか家に戻ることを夢見て家の鍵だけ持ってきたという。それから70年。ナウラスが生まれ、彼女の子どもが生まれ、新しい家族がここでスタートしている。

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ナウラスの旦那さんは難民キャンプ出身。二人は結婚した頃キャンプ住まいだった。「でもね、キャンプの生活は決して安心じゃなかった」。夜中に突然イスラエル兵が来て夫を連れ出した時、彼女は妊婦だった。帰ってこなかったらどうしようと不安に震える夜を過ごし、夫が帰ってきたのは明け方。そんなことが二度あった。過密な住環境は耐えられても、この不安には耐えられない。キャンプを出ることを決意したという。

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「娘たちは、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の運営する学校に通っているの。難民は皆ここで、9年生(中3)まで無償で教育を受けられるの」。キャンプ外の普通の家に住んでいるので忘れていたけれど、彼女の一家も身分は難民。だからUNRWAの学校に通い、難民支援を受けられる。

お金がかからないのは助かるが、彼女はこの学校に大きな不安がある。「すぐとなりにイスラエルの入植地があって、頻繁にイスラエル兵の攻撃があるの。この間も子どもたちは催涙ガスを浴びて帰ってきたわ」。

ヨルダン川西岸地区は、地図上ではパレスチナの土地になっているが、実際はイスラエルの入植がしつこく続き、高い塀に囲まれたイスラエル入植地により領土はみじん切りにされている。入植地は高さ8メートルもある「分離壁」で隔てられている。

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パレスチナ領土の減少を表した地図は、目を疑う。完全な自治と自衛のあるArea Aと呼ばれる地域は、地図の汚れと見紛うほどにしかない。「このままだとパレスチナという国はなくなってしまう」とナウラスは声を震わす。

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「消えゆくパレスチナ」(出典:PalestinePortal.org)

補足:完全な自治と自衛があるのがArea A, 自治はあるが防衛はイスラエルと共同なのが Area B, 統治も防衛も完全にイスラエル下なのが Area C。パレスチナ領の約6割が、Area Cに分類される。

手間暇かかった料理でゲストへの歓迎の気持ちを示す

今日のランチはズッキーニの肉詰めをヨーグルトソースで煮たもの。くり抜いて、詰めて、揚げて、煮る。最近料理に興味を示しだした長女も手伝う。

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普段どおりの料理がいいと言ったのに、だいぶ張り切ったごちそうだ。

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「そういうわけにはいかないわ!料理の種類はゲストへの歓迎の気持ちの表れなの。どうでもいいお客さんには豆ごはんよ」とナウラスはにやつく。

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ヘビーなランチを食べて公園に遊びに行き、帰ってくるともう夕方。冬は冷え込みが一段と厳しくなってくる。

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ナウラスの家の暖房は、小さな薪ストーブ。自然とみんなストーブの前に集う。

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薪ストーブンがオーブンにも

すると突然電気が切れる。「あれ、今日も停電の日だったか」と旦那さん。パレスチナの電力送電はパレスチナ政府が担うが、その電力の供給はイスラエルが握る。パレスチナ政府の支払いが滞っているために、イスラエルは計画停電で電力供給を止めているという。

電気がないと、台所で料理をするのも骨が折れる。ナウラスはため息を付いて冷蔵庫を開け、残りものの肉そぼろを出してきた。パンに詰めてストーブの上で焼いたら、即席ハンバーガーの出来上がり。

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「アライスっていうの。ほら、熱いうちにお食べなさい」と停電にもめげずたくましい。薪ストーブは暖とともにほっとする温かいご飯も提供してくれる。

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電気がなければテレビも観られないし、電気ストーブも無力。これが日常的にあるのは大変だけど、でも薪ストーブの前に身を寄せ合いキャンプ飯のようにただ食べる時間には、なんだか家族の大切なものが詰まっているようにも思えてくる。

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岡根谷実里 | 世界の台所探検家
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