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『忘れゆく日々へ』
1月の寒さは容赦なく、指先を冷やす。
夏休みぶりの地元は懐かしさもなく、相変わらずのままだった。
成人式には誰が来るのだろう。
仲の良かったあいつや、同じ部活だったあいつらは来るらしいけど、あの子が来るのかは分からない。
「うわーめっちゃ久しぶりじゃん。中学ぶり?」
再会した同級生とテンプレの会話を交わす。
「じゃんぐらい普通に言うやろ。まだ関西は捨ててないわ」
「ていうか、お前同窓会こうへんってなんやねん」
「まぁ、地元組は別に参加せんでも会えるもんな」
話しているとあっという間に時間は過ぎて、そろそろ式が始まるらしい。
辺りを見渡すと同級生の女の子達はちらほら居るが、あの子は居ない。
市長と議長はビデオメッセージでコロナ禍を乗り越えてとか言っていた。恐らく、去年の台本を使い回しているんだろう。
「え、アイツが代表の挨拶すんの?」
隣に座っていた友人と小声で話したり、目の前に飛んできた振袖の白のふわふわをキャッチしたりなんかして時間を潰す。
もうすぐ眠気に負けるといった頃に式が終わった。
人で溢れかえった会場の外。
懐かしの同級生と片っ端から写真を撮って行く。
「あれ、委員長?全然変わってへんな」
「サッカー部は向こうで集まってるらしい」
「インスタ?ええで、交換しよ」
クラス委員を務めていた女子とインスタを交換すると、知り合いかもの欄にあの子が出てきた。
「そういえば井上って今日来てるん?」
「仲良いっていうか、まぁ、席近かったし」
「分からへんねや、オッケーありがとう」
丸いプロフィール画像はキリンの置物。
鍵垢だから投稿は見れないけれど、相変わらず趣味は悪そう。
その後も、中学の頃にはあまり話さなかった人達と写真を撮ったりしていた。
そんな中だった。
あ。
聞こえる。
聞き覚えのある笑い声。
耳から離れないあの声が。
咄嗟に振り返ると、あの子がいた。
「井上っ!」
『え?〇〇?めっちゃ久しぶりやん』
あっけない再会は今まで持っていた気持ちには不釣合いだったけど、その笑顔を見ると胸が軽くなった気がする。
「久しぶり。」
たった5年。
他の同級生達は何も変わって無かったのに、君は違う。
「めっちゃ髪の毛切ってるやん。しかも染めてるし」
『そうやねん、大学デビュー』
「何それ」
『〇〇が言うと思って先に言っといた』
でも、この笑顔は懐かしい。
「井上は同窓会来るん?」
『行かへん〜あんま中学に思い入れないし、』
弾んでいた胸にずしっと言葉がのしかかる。
俺にとっては毎日が大切で、少し話せただけでもその日1日は幸せで、2人で笑い合った日なんていつもはキツい部活も体が軽かった。
でも、そんなこと思ってたのは俺だけだったらしい。
「そうなんや」
『でもな、〇〇には会いたいなって思ってたから今日は会えてよかった』
「え?」
『だって、あの頃は多分〇〇の事好きやったし』
笑いながら言った彼女のカミングアウトに頭が付いていかない。
俺の脳は過去形になっていることよりも、その事実に喜んだ。
「俺も…。」
言葉が詰まった。
彼女の告白に乗っかってここで気持ちを伝えてしまえば、あの頃と変わらない。自分の気持ちは、自分で伝えるきっかけを作らないといけない気がした。
多分、これは強がりだ。
「いや、なんでもない。中学ん時に告ってくれてたらおっけーしたかもなぁ」
笑いながら冗談ぽく言う。
『なんで〇〇が選ぶ側やねん、なんかムカつく』
そこから時間にしたら5分程。
俺たちはしゃべっていた。
『あ、ごめん、呼ばれたから行くわ』
「おう」
なんの未練もなく離れて行く君の後ろ姿を見ると寂しくなった。
あと何年、この気持ちを抱き続けるのだろう。
あと何年、初恋を続ければいいのだろう。
あと何年後に
君を、忘れられる日が来るのだろうか。
終