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『思い出は美しくしまっている』

友人が死んだ。
命日となった日は記録的猛暑を観測していた日だった。

彼女が密かに書いていた日記の最後のページには、その前日のことが記されていた。

"

いつもと同じ駅のホーム
遠くから近づいてくる電車を見ると、カゲロウのせいか、世界が煌めいて見えた
私のいる暗闇から助け出してくれそう
そんな事を思った次の瞬間、カラスが横切った
ふと我に返って、目の前に止まった各駅電車に乗り込んで出社

今日も怒られた
お前のミスだ。仕事ができない。邪魔。
耳にタコが出来るくらい聞いた

私の代わりはいるんだ
そう気付いた時、心が軽くなった

もうどうでもいい

"

これを書いた次の日、彼女は快速電車に飛び込んだ。

お通夜は淡々と行われていた。ような気がする。
ご両親は泣いていただろうか?あまり覚えていない。

通夜ぶるまいの席で彼女の母親に話しかけられた。「よく、話に出てたの。チーズケーキの子でしょ?」彼女は学校であった出来事を割と親に話すタイプだったらしい。

お皿に取り分けて貰ったお寿司を食べながら、彼女との日々を思い出す。
彼女はイオンをダイモと呼んでいて、面白い子だなと思って友達になった。そんなユーモアというか天然な彼女は性格によらず成績が良かった。
入学式で新入生代表の挨拶も務めていたし、定期試験ではいつも一位だった。
極め付けに性格も良くて、私の吐く弱音や棘も包み込んでくれるし、笑ってくれた。2年でクラスが離れてしまったけど、体育は2クラス合同だった為、関係が薄まることはなかった。でも、2年の夏休み開けから、彼女が学校に来る頻度が落ちた。理由も分からなくて、「大丈夫そ?」と、LINEを送っても「大丈夫」って返ってくる。そんなのは当たり前だ。無理な状況にいる人は「大丈夫」と言うことで自分は大丈夫だと思い込もうとしてるから。そんなこと、今だったら分かるのに、当時は何も手立ては無いと勝手に諦めてしまった。3年になって、久しぶりに見た彼女は手足が小枝のように細くなっていた。私は咄嗟に呼び止めた。「どうしたん?」2年前のままの笑顔で微笑む彼女を見て、私は自分自身に落胆した。無理をしていたのは入学してからずっとだったのか。
思い返せばヒントは落ちていた。
入試成績トップの子が私立専願なはずないし、定期テストの1週間は毎回目の下に隈を作っていた。
そんなサインを見逃した償い、になっていたかも分からないけど、その日から彼女が学校に来た日は放課後2人でシャトレーゼに行って、好きだと言っていたチーズケーキを奢った。そんな日も4回程しか無かったけど、彼女が少しでも今悩んでいる事を忘れられる時間を作ってあげたかった。

程なくして、彼女は出席数が足りなくて卒業出来ないことが決まった。
通信制に転校するらしいが、その先、彼女がどんな未来を歩むのか、曖昧な未来が輪郭だけをくっきりと姿を表したような気がした。
少しでも、本当に笑える日々を送れたらいいなと想いながら、感じた予感を無視し、学校を出て、胸に付けていたコサージュを外した。


あの時感じた予感はこれだった。

胸の奥に沈澱していた何かが込み上げて来て、涙が溢れた。


彼女は私のことをどう思っていたのだろう。
友達と思ってくれてたのかな?

あの日の君も、冷たくなってしまった君も何も教えてはくれない。