高校野球への想い
夏の甲子園の中止が決まった。
2人で高野連の会見をみていた。
黙ったままの息子へ、何と声をかけたら良かったのだろう。
高校2年生の秋、背番号を持ち帰ってきた息子の笑顔を思い出していた。
球場に息子の名前が響き渡り、掲示板に息子の名前が表示された。
あの時、ここまで続けて良かったねと息子の背中に向かって、心の中で叫んでいた。
やっと掴んだレギュラー。
高校3年生の夏。
ユニフォームで入場行進をする姿。
当たり前ではなかった。
戦争もない平和な日本で、夏の最後の舞台。甲子園も地方大会も中止になるなんて、考えた事なんてもちろんない。
縫っても縫っても破れるユニフォーム。
毎日の泥だらけの洗濯。
「もう、めんどくさいな!!」
と嫌になった日もあった。
当たり前のように毎日していた事が、今はやりたくても出来ない。
めんどくさい!って思っていた自分を引っ叩きたい。
甲子園が中止になる事は仕方がない。分かっていても、会見をみている息子の姿がたまらなく寂しそうだった。
私は、必死に涙をこらえた。
私が泣いてる場合じゃない。
夕飯も静かだった。
お互い、甲子園の事はひと言も触れなかった。
世の中の母たちは、どうしているのだろう。
私は本当に情けない。
息子にかける言葉が見つからないんだ。泣きそうなのを我慢するので精一杯。
息子はもっともっと悔しいはず。
夕食後、また筋トレをしていた。
もくもくと筋トレ。
「おやすみ」
とだけ言って息子は部屋に入った。
静まり返った家の中に、大きな音が鳴り響いた。
「パシッ、パシッ」
ボールをグローブの中へ叩きつける音。
こんなに悲しい音にきこえるなんて......
涙が勝手にどんどん出てくる。
明日、目を腫らして会社へ行く気なの?
自分に言い聞かせても止まらない。
息子へ
今まで色々あったけど、野球を辞めずにここまで続けてきた事を母は誇りに思うよ。
オスグッドが酷くて走れなくなったこと、メンバーに入れなくて布団の中で声を抑えて泣いていたこと、熱中症でぶっ倒れたこと、デッドボールで骨折したこと。まだまだある。本当に色々あった。
背も大きくなって、私に似てしまった残念すぎるなで肩も、ガッシリして大きくなったよ。
トレーニング頑張ってたね。
きっとこれからも、色々な事がたくさんあると思う。
母はずっと応援団長だからさ。
「キモッ」って言われるのはわかっているよ。
仕方ない。1人息子なんだから。許しておくれ。
明日からまた、笑顔で過ごそうや。
〜母の願い〜
どんな形であっても、最後に試合が出来ますように。子供たちが笑って、高校野球を卒業できますように。
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