高校野球最後の夏
息子は小さい頃から野球をしてきた。
少年野球、中学では軟式をやるものだとばかり思っていたが、まさかの硬式をやりたいと言って硬式チームに入団した。
少年野球もだけど、硬式チームに入ってしまったら、本人だけでなく、親も巻き込まれる。
片道10キロあったグランドまで、週末自転車でせっせと通っていた。
車での送り迎えもいっぱいしたし、遠征にも行った。週末は私も野球漬け。
息子は中学生時代は、レギュラーになる事は一度もなかったし、活躍するチャンスの場もなかった。試合に出れない。スポーツの世界はシビアだ。
息子が試合に出ることを、いつも祈りながら私もグランドに通っていた。
試合に出られないことは、本人はもちろんのこと、親である私自身も悔しい。
「このやろ!ちょっとくらい出してくれよ!!」
と思ったのは一度や二度じゃない。2人で悔しくて家で大泣きしたこともあったよな。
「俺、高校行ったら陸上部に入るわ。」
息子は足がそこそこ速い。中学校の部活は陸上部に所属して、駅伝にも出場した。野球よりも陸上で活躍していた。それもあってか、
野球より陸上の方が向いてると思うから、高校では陸上をやるよと息子は言った。
正直、残念な気持ちと、ホットした気持ちと両方だった。親なら誰でも活躍する息子の姿を見たいもん。
しかし、高校の志望校を最終提出する中3の12月。
「やっぱり、もう一度野球やりたい。まだ、やり残したことがたくさんあった。高校で野球をやらせてほしい。」
と突然言い出した。
そして、急遽、志望校を変更した。野球をやるために。
そんな息子は、この4月で高3になった。
高校ではレギュラーとしてメンバーに入ることが出来た。
去年の秋、地区予選を勝ち抜いて、県大会に出場するところまでは順調に進んだ。
しかし、県大会では、1回戦にいきなり強豪校との対戦。
それでも、彼らは、最終回の9回に同点に追いつくという意地を見せた。
息子もチャンスでヒットも打って満塁にした。
ノーアウト1.2塁で打席に立った息子。
あの時の集中力は、今までに見た事ない姿だった。
打った後のはじけるような笑顔は輝いていたし、とても楽しそうだった。
結局、その試合はサヨナラで負けた。息子の大泣きしていた背中も忘れられない。
息子たちは春の大会に向けて、冬の間、猛練習してきた。
毎日の弁当は米2合分。それでも、なかなか太らない息子。
(私の息子なのにおかしいな・・・)
高校に入っても、学校まで片道12キロある距離を、自転車で毎日通っている。
(そりゃ太らないか。)
一度、息子がどんな思いで通っているのか、自転車で学校まで行ってみた。
「二度と自転車なんかで行くもんか!!」
と思ったと同時に、この距離を毎日往復している息子に感心したよ。
息子たちのチームの成長を楽しみにここまで野球を見てきた。
高校生になっても、毎週末、練習試合をみてきた。
今年の春と夏の大会を楽しみに、願掛けも母たちで準備して作成した。
でも、コロナウイルスの影響で、春大会は全て中止。もちろん、練習試合も練習すらも何も出来ない状況が続いている。
昨日、全国高校総合体育大会(インターハイ)の中止が決まった。
高校野球は今月中に結論が出るそうだけど、状況はとても厳しい。
筋トレ、素振り、今出来ることを家でやっている息子だけど、インターハイの中止のニュースが流れると、大きくため息をついた。
「もし、野球も中止になっちゃっても俺は受け入れるよ。インターハイが中止になったんだし、仕方ない。大学受験の準備する。」
「何で今なんだろうね。コロナ早く終息してほしいね。今のうち勉強して学校が再開したら、みんなが驚くほど頭良くなってるってのもありかも!」
私の返事はそれが精一杯だった。情けない。
小学生のころから、息子の追っかけのように、ついてまわって試合を観戦してきた私が、大泣きすることを一番わかっているのは息子なのかもしれない。
そんな息子だが、勉強しているかというと、そうでもなく。
毎日、友達と夜な夜なゲームに励んでいる・・・
子供の頃からのいろんな事を思い出す。悔しくて泣いたこと、感動して泣いたこと。いっぱいあった。親にもいろんな想いがある。この高3の夏のために野球を頑張ってきたと言っても良いと思う。
子供を持つ親はみんなそうだと思うけど、どうにもやりきれない。
このやりきれない気持ちを私も受け入れる準備をしよう。
諦めたのではない。次のステージのために。