時価を考慮するのは良いけれども(時価純資産+年買法?)|M&Aアドバイザーのつぶやき
こんにちは。かきもとみさです。私はM&Aアドバイザーの仕事をしています。
M&Aの世界にいると、議論が絶えないのが「譲渡対価」の決定方法です。
大手総合商社やプロの投資家などは、将来キャッシュフローを緻密に計算して、割引料でかけて現在価値を算定し、妥当な投資額を測っていくでしょう。
ただ、中小企業の小規模案件ではなかなか「未来」測定の現在価値計算は用いられないケースが多いのではないかなぁと思います。このあたりについては今回は触れません。
時価 VS 簿価
最低限、精査する必要がある項目としては、貸借対照表に計上されている法人として保有している資産・負債の内容です。
これを決算書通りの簿価のまま譲渡対価を考えていくのか、もしくは時価を反映するのかを考えてみましょう。
時価とは
そもそも時価とは何かというと、わかり易いのは「いま、この資産を売っ払ったら一体市場でいくらで取引されるのか?」という金額です。
土地であれば、簿価は取得原価で計上されたままでしょうから、時価が変わるケースがほとんどです。土地だけでなく、在庫をうっぱらったら何掛けで売れるのか。建物や機械設備を競売にかけたらいくらのキャッシュになるのか。このあたりの「市場価値」が時価にあたると考えて良いでしょう。
M&Aの対価として時価を反映すべきかどうか
譲渡希望価格を設定する際、簿価よりも時価の方が大きい場合に資産を時価換算した上で純資産を算定する(時価純資産を算定する)ことが多いと思います。
この時価は譲渡対価に必ず盛り込むべきでしょうか?
私の中では、「必ず盛り込むべき」とも言えないと思っています。
買手は簿価を引き継ぐのだから
その理由を端的に言うと、M&Aの買手企業は、財務/税務上、その簿価と時価の差額(時価が大きいとしたら、収益が発生)の恩恵を受けることは基本的には無いからです。
M&Aによって会社のオーナーになったところで、簿価で対象会社の決算書に計上されている資産は簿価のままで引き継がれるわけですから。
もし、M&Aをせずに市場から調達していたとしたら、その金額が時価なのだから譲渡対価に時価を反映させるべき、という考え方もできなくはないです。
ですが買手から見れば、これは当然の話なのですが、市場から調達する代わりのM&Aなのであって、投資額を抑えて今後のPMIで必要となる投資に回した方が良いのだから、簿価で買えるのであればそのほうが良いでしょう。
問題は、売主側が、譲渡対価を受け取る段階で、簿価と時価の差額を経済的利益(金)として享受すべきかどうか。
時価は清算価値の算定で用いるべき
私の考えでは、時価は「廃業するとしたら手元にいくらお金が残るのか」という清算価値を算定するときに用いるべきだと思います。
「廃業するくらいなら、M&Aでだれかに事業を引き継いでほしい」という想いでM&Aに動き出すことが多いでしょうから、譲渡対価のボトムラインを清算価値にしておくということです。
この時に用いるべきなのが、時価です。
全部事業を辞めて、資産は売れるものは売る、現金化されたものから借金を返していく。そのほか簿価に計上されていないけれども廃業費としてかかってくる経費を考慮する。この時価の資産と負債の差額を清算価値(廃業で残る純資産)とし、ここを譲渡対価の最低価格とすると良いと思います。
このときに、簿価より時価がよっぽど高いのにも関わらず、簿価のままで算定してしまうと清算価値が無駄に低くなりすぎてしまい、これを譲渡対価のボトムラインにしてしまうと「廃業するよりM&Aの方が経済的利益が低くなってしまった」ということが起こってしまいます。
だから清算価値の算定では時価を用いるべきだと思います。
時価純資産+年買法はやりすぎ?
簿価純資産を時価純資産に換算した上で、さらに修正営業利益の3~5年分をのれん代として足した金額を譲渡対価として初期設定するケースが結構多いと思います。
これは「初期設定」としてはロジックが成り立っているので良いと思います。売主側として、後の交渉で値下げ交渉されることを見越しての希望譲渡対価ということで。
ただ、あくまでボトムラインは、清算価値が妥当なのではないかなと思います。
既述の通り、買手は簿価と時価の差を収益として得られることは無いし(成約時点でメリット享受していると考えられなくはないですが)、売主側が良いとこどり(資産はすべて時価で換算、かつ年買法も考慮)しすぎるのも良くないと思うからです。
譲渡対価の考え方は正解があるようで無く、とくに年買法は賛否両論で議論の余地が大きいようですが、今回は私の考えの一部分を書いてみました。
また事例を通して気づきがあれば綴って見たいと思います。
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