記号化されたサステナビリティと私たちの真なる願い
最近は、どこかSDGsやSustainability、CSRという記号化されたアイコンだけが一人歩きして、その本質や意味を問うことなく出回っているように感じる。
People will listen, we just need to speak the right language.
この言葉は、2019年に書かれたこのweb記事で言及されたもので、私の言いたいことをそのまままとめてくれていると思った。
言い慣れてしまった言葉たちは、もうその意味をなさなくなってしまっているのではないだろうか。 そして私たちは安易にその言葉を使うことをやめ、真に問い改めることこそが、今まさに必要なのかもしれない。
共感される共通アイコンの弱点
以前、Patagoniaのスタッフの方々と「いかにして私たちはサステナブルであれるのか」というセッションを行わせてもらう機会があった。(またしてもここでこの言葉を使ってしまうのだが…)
そこでスタッフの方から、Patagoniaの創設者であるイヴォンシュイナードがSustainabilityという言葉が嫌いで「Responsibility(訳:責任)」という言葉に切り替えたということを聞いた。持続可能だからやるのではなく、企業の責任としてやる必要があるのだと。
また少し似たような体験として、このコロナ禍で、私はすこし時間があったので、コペンハーゲンビジネススクールのSutainabilityに関する講義をオンライン受講させてもらったときのこと。
そこでも、もうすでに言葉と事実の距離に違和感を感じている人が多く登壇されていた。共通だが曖昧なこのアイコンに対して、受け手ごとに捉える意味が異なることを前提とし、話し手ごとに己の「定義」から説明していたのが印象的だった。
共通善のように掲げられたこの言葉はアイコン化し、誰しもが使いやすくなったのはいいものの、やはりその定義も様々なので、本当の意味では意味が通じていない可能性が高い。はて、「もう一つの言葉に固執しなくていいのでは?」と思ったりもする。
「サステナブルだけじゃダメじゃない?」旋風
さて、ひとまずこの共通アイコン的「Sustainability」に対する違和感を持ちつつ、話を進めたい。
日本では今まさに「サステナブルって大事!」旋風が巻き起こる中、欧州では「サステナブルだけじゃダメじゃない?」旋風が巻き起こっているのを一部の人はもうご存知だろう。
そのことについて、私がこれまで見た中で一番わかりやすいなと思ったこの図は、Regenesis Groupが出した一枚絵である。
縦軸がエネルギー量、横軸がインフラと意識となっている。
もう少し紐解くと、これまでの産業はいかにして効率的に量を生み出すか、いわば「大量生産大量消費」を良しとし、促してきた。それがこの図における茶色い部分である。しかし、それでは有限である地球資源は枯渇し、環境汚染は自然が従来許容しうる範囲を超えてしまう…
そこで、それらに対応するかのように、図の中心にある「Sustainability」という価値観が広まり始めた。経済成長と環境保全のバランスを整え、「持続可能な状態」を理想とした。これまでわたしたちは、資源枯渇・臨界点の突破に一直線に進んできた従来のシステムから、バランスがとれた「Sustainable」な状態へ目指そうとし、今まさに日本ではこの意識を広めようとしている人も多いとおもう。
あたかも、既存の産業システムの代替であり、一種の解決策のように旗が振られてきたのではないだろうか。しかし、それはあくまで、“持続が可能である状態“であるというのがこの図で表されている。一種の警告と取れなくもない気がしている。
しかし、すでに多くの地球資源を削り取ってしまった私たちは、今からそのバランスを整えているだけでは、真に「Sustainableである」とは言えないのではないか。そこで、図の緑の部分に入っていく。
すでに失ったものにも目を向け、使った以上に選択肢を増やし、再生成していく必要があるのではないかという考えである。生活様式と意識を変え、「Regenerative(訳:再生成)」な状態・選択を取ることでそれが実現できるのではないだろうか、と考えられる。
「やっぱ、サステナブルだけじゃダメじゃない?」
次の3R「Responsibility, Resilience, Regeneration」
先日、私が学び直しをしに通っている大学院大学至善館にて、特別講座が開催された。
それは、サステナブル経営の生みの親でもあるジョン・エルキントンによるオンライン講演だった。 彼の最新の出版物「GREEN SWAN」も面白いのでぜひオススメしたい。
彼はこのRegenerativeな経営や社会を実現するには3つのステップが必要であると述べた。講演でも紹介されたこの図がそれを言い表している。
紫の点線が既存のこれから消え去る秩序(NOW)。青い線は、再生型のビジネスや社会の取り組みの未来を示している(FUTURE)。 そしてその中間にある黄色の線は変化の過程(TRANSITION)である。
現在は、徐々に独裁的かつ株主資本主義的な判断から、地球環境や様々なステークホルダーに配慮した、企業や個人の責任の上で意思決定をする傾向・潮流が高まってきている(Responsibility)。そして次に、未来にむけてさらなる「Regenerative」な状態へと移行するためには強靭な仕組みや問題提起が必要であり(Resilience)、それらの過程があってようやくRegenerativeな企業・社会を実現できるとしている。
ジョン・エルキントンもオンライン講座で、これからはこの3つのRが鍵になると、数百人の参加者の前で公言した。
(私たちは小さい頃から環境教育においてReuse・Reduce・Recycleという3つのRをよく教えられてきたが、もしかすると次なる3Rとして教えられる日が来るかも?)
しかし、変化には多くの悲しみや怒りが生まれかねない。
気候変動や人権問題、多発する自然災害など、もうすでに脅威が目の前にある中で「現状維持」という選択を取ることはできないことはもうある程度の人は気付き始めているだろう。
しかし、現状で幸せな人もいる。そして変化によって傷つき悲しみ、怒りを訴える人ももちろん存在する。それらを「変化には痛みがつきものだ」と、しかたないと見捨てることもできるが、わたしたちは先人の知恵と経験の上に生かしてもらっていることも忘れてはならない。もちろん、未だ見ぬこれから生まれ育つ未来の子供達にも悪影響を及ぼさないようにもしたい。
どちらも取りこぼさずにできる移行と思考はないものだろうか...
「REGENERATIVE LEADERSHIP」を読んで
さいごに、言及した「Regenerative」に関して、最近またいい本に出会ってしまったので、いきなりではあるが紹介したい。
21世紀型のリーダーシップを、「regenerative leadership」として捉えている作品である。
歴史が積み重ねてきた様々な分断の再統合と、私たちの生まれる前から変化し循環してきた大自然から学び、次なる時代へのその変化を伴奏する者のことをこの本では「Regenerative Leadership」と呼んでいる。
世界中で大絶賛されたユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」でも記載されているように、私たち人間は「食料保管」をするようになってからは、今に至るまで争いが絶えない、戦争共同体となってしまった。
ただ、争いたくてそうしたのではなく、真に「自由と幸福」を求めて、人間は時代を進めてきたのだとわたしは信じている。しかしその過程で、人間と動物や自然、女性性と男性性、内的感覚(インナー)と外的事象(アウター)、右脳と左脳という調和のとれていたものを分断してきてしまったとこの本では伝えている。今やそれらは相反するものとされているが、この先行き見えない時代においては、それぞれが再統合するときなのだと言う。
たしかに、私はこれまで、会社や団体単位では素晴らしいことをされていたり、VISIONに共感できたとしても、その内部の社員が悩んでいたり苦しんでいる姿をよく見てきた。属性や役職や見た目で判断されて、内なる自分を評価されなかったり。(かくいう私もそういう時は大いにある。)
私たちの周りには、これら2つの相反する側面が存在し、それらがつながらないことを「そういうものだ」と諦めてしまっていることも多いように思う。
そこで、この本の面白いところは、それらを
・直線型の組織から相互接続された統合型の組織へ
・自然の叡智から学び活かす
・人間や組織、自然を一種の生態系/DNAだと捉える
・合理性と感情を融合する
というような、他様々な点から捉え直し、まとめあげている。どれも読み応えがあり、面白い。
さらに、価値観を強制する形での提案なのではなく、その判断は読み手に委ねており、一気に時代が変わるとも思っていないが、変えたいのであれば現状の考え方を変えなくてはならないという明確姿勢がわかるのがいい。
ここで多くは語らないが、どのページをみても森の中を歩いているような包容感を感じながら読めた。
特に、この本のなかに添えられた好きな言葉を2つ引用したいと思う。
Nature is like a library for Regenerative Leaders
(自然こそがRegenerativeなリーダーにとっての図書館のようなものだ)
P147 Regenerative Leadershipより
There is no better designer than nature
(自然以上に素晴らしいデザイナーなど存在しない)
P146 Alexander McQueen
(アレクサンダーマクイーンまじでかっこいいな)
本の最後には、自らや組織を捉えなおすワークも
「regenerative leadership」では、まずは自分や組織の現状をわかりやすく表現するワークがいくつか掲載されている。ぜひ本全体を読んで欲しいが、それだけをトライするところから始めて見てもいいかもしれない。
1. THE DNA DIAGNOSIS WHEEL
2. ECOSYSTEMIC MAP
「THE DNA DIAGNOSIS WHEEL」は、この本で言及されていることに対して、自分や組織を3段階で評価し、現状を理解するワーク。どの領域に意識が向いているのか、はたまたそれを改善したいとおもうのか、維持したいのか。まずは自己理解を深めるために用意されている。
「ECOSYSTEMIC MAP」は、自分や組織のステークホルダーをマッピングするもの。自分を中央に置き、外部的な関わりと内的な関わりをそれぞれ円にして表現し、円や円同士を繋げる線も色や形は感じるままに自由に描いていい。点線やジグザク、太い線、真っ黒、ピンクなど、この生態系を一枚絵にすることで直感的に全体を捕らえやすくするためである。
以前twitterで投稿した、この事業を考える時や、アイデアを生み出すワークショップなどでよく使われるこのフォーマット「ビジネスモデルキャンバス」の変化も、その背景に伝えたいことは、少し近いようにもおもう。
言葉を超えて、真に私たちはどこへゆくのか
「Sustainability」や「Regenerative」など、共感性の高い共通のアイコンは、国連が定めたミレニアム開発目標(MDGs)が持続可能な開発目標(SDGs)にアップデートされたように、また時代を超えて変わっていくだろうとおもう。
そして時に、環境意識が高い人が関心のあまり高くない人に向けて価値観の押し付けをしているところもよく見るが、それではいっこうに分断は統合されない。いいことをしているはずが、表層に出てくる表現や伝え方一つで誰かを傷つけてしまうなら、どこか本末転倒のような気もする。
私たちは今、共通言語とは上手く付き合いつつも、真に実現したいことや、描く未来を今一度捉え直し自らの絵を言語化することから逃げずに伝えていく必要があるのかもしれない。もちろん言葉ではなく、絵でもいいのだけれど。
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