2022年が明けた1月6日、東京に雪が降りました。
外出先から自転車で帰宅する10分間、降りしきる粉雪を全身に受けながら冷たさよりも暖かさを感じたのは不思議な気持ちでした。
ウールのコートの両袖に競うように降りてくる小さな結晶は、肉眼で見える一瞬の純白美を六角形の枝を広げて見せてくれます。雪が好き。
雪の降る日の空気は、冷たくてどこか暖かいのです。そして、清浄な水の匂いがします。空を仰げば、雪の粒が傘を描くようにハラハラと降りてくる。
自転車を止めて、森の中にある近所の幼稚園の畑の傍らに近づいてみました。園児たちの為に、季節ごとにサツマイモやダイコンを植えて育てているのです。少し頭を覗かせた大根の葉っぱが白い帽子を被っていました。
畑の土も畝に雪が積もり、静かに成すがままにそこに在りました。
風は無く、だけど空気の流れがありました。
ふっと、冷たい空気の帯の間から土の匂いが届きました。それは、焦げ茶色の湿った空気でした。焦げ茶色の空気。しっとりと深い栄養を湛えた地球の匂いです。雪の降る日にしか立ち上らない少し暖かさを纏った空気。
深呼吸をして胸いっぱいに雪と土の匂いを吸い込みました。
体中に涼しい風が巡ります。袖に積もった雪の結晶は、簡単に解けません。手で払うと弾かれるように散って、まるで笑いながら舞台を降りるダンサーのようです。
帽子も被らない頭に降り積もった雪は見えないけれど、そのまま自転車をこぎだして顔に当たる無数の冷たい粒を受け止めて走ります。とても幸せな気分で「さぶっ!」と小さく笑いながらペダルをこぎます。
水の結晶が肉眼で見ることのできる<雪>。その香りは、美しいという名の白い香り。そして、光を浴びると七色に輝く宝石の香り。
美しい森羅万象の奇跡が、ひとときここに降りてきました。
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