自然素材を愛するフランスの画商が求めた住宅とは。アルヴァ・アアルト設計『カレ邸』の間取りから考えるくらしのヒント
こんにちは。
私とイラストレーターの火詩さんで運営しているYouTube『くらしの学校』より、建築家アルヴァ・アアルトが設計した『カレ邸』について一部抜粋してご紹介します。
今回のnoteでは動画前半で話しているアアルトの人柄やカレ邸の間取りについてご紹介します。
YouTube『くらしの学校』は、世界の名作建築を学びながら、それらの素晴らしい点をみなさんの生活やこれからの家づくりに活かすためのYouTubeチャンネルです。
動画でご覧になりたい方はこちらからどうぞ。
北欧を代表する建築家、アルヴァ・アアルト。日本ではアルテックの家具や、イッタラのガラス食器のデザイナーとして親しまれている方も多いかもしれませんね。
さて、本題に入る前に、アアルトの生まれた国や、日本との関わり、人柄などについて 簡単にご紹介しましょう。
アアルトが生まれたフィンランドは、大国ロシアとスウェーデンの間に位置し、長い歴史の中で幾度となく侵略と占領を受けた地域でした。
現在私たちが意識している「フィンランド」が独立したのは、第一次世界大戦後の1917年。1898年生まれのアアルトが19歳の時でした。占領下で押さえつけられていた自民族の文化が、一気に花開く。「さあここからフィンランド独自の文化を発展させていくぞ!」と国全体が盛り上がる時期と、アアルトが活動を展開していくタイミングがちょうどぴたりと重なったんですね。ここからアアルトは、フィンランド文化の基盤を築いたとまでいわれるようになっていきます。
また、日本でもとても人気の高いアアルトですが、彼自身も日本を愛した建築家であったことが知られています。日本の伝統的な建築はもとより、童話などにも親しんでいたのだとか。アアルトの作った住宅の中にも日本的な要素が見られるものもあるんですよ。例えば、マイレア邸では日本の竹林をイメージしたルーバーが階段の前に使われています。
自然と優しく馴染むアアルトの建築は、日本人の感性や建築の考え方とも相性がいいのだと思います。日本のフィンランド人気の火付け役とも呼ばれる映画「かもめ食堂」でも、アアルトの設計した「アカデミア書店」が登場しています。
アアルト本人はとても紳士的な人柄だったと言われていますが、天真爛漫な一面も。たまに行った音楽会では、ぐうぐういびきをかいて寝ていたところを発見されたこともあるなんて、おちゃめな逸話も残っています。周りの人々から愛される、とても魅力的な人物だったそうです。(写真一番左がアアルトです)
今回のnoteでは、1959年、アアルトが61歳のときに完成した『ルイ・カレ邸』をご紹介します。
『ルイ・カレ邸』のクライアントはフランスの画商である、ルイ・カレ。ルイ・カレは自身のギャラリーで、日本でも人気の高いパブロ・ピカソやアンリ・マティスをはじめとした、名だたるアーティストの作品を取り扱う、有名な画商でした。
実はフランスでは現在残っている唯一のアアルト建築でもあるこの住宅は、パリ郊外の、緑に囲まれた とても静かな地に ひっそりと建てられました。仕事柄多くの建築家との交流があったルイカレですが、アアルトの 自然と調和する建築に惹かれ、設計を依頼したのだそう。同年代であったアアルトとルイカレは、その後晩年まで続く友情で結ばれます。ルイカレは後に「アアルト基金」と呼ばれる団体の立ち上げに携わり、アアルト建築の保全に力を注ぎました。この基金は現在もアアルト財団として、アアルト建築の保全やツアーガイド、展覧会の開催やグッズの制作など、様々な形でアアルトの業績を私たちに伝えてくれています。私たちが今もこうして身近にアアルト作品の素晴らしさを感じることができるのは、ルイカレたちのおかげとも言えるでしょう。
さて、ではいよいよルイカレ邸の間取りを見ていきましょう。ルイカレが商談のために顧客を招くことも多かったこの家では、客人が出入りするパブリックエリアと、家族のためのプライベートエリアがとても自然な形で分けられています。実は玄関ギャラリーにある2枚の展示壁が、この2つのエリアを分ける間仕切りのような役割を果たしてくれているのです。(図面中央『Entrance & Gallery』の青色の部分、ぜひ図面を拡大してご覧ください。)
プライベートエリアには2つの寝室と子供部屋があり、その全ての部屋が大きなテラスに面しています。(図面右側の3部屋の個室)更に北側に進むと使用人の部屋とキッチン、そして2階の個室へと繋がります。パブリックなエリアにはリビングとダイニングがあり、リビングと玄関ギャラリーに隣接する形でルイカレが集中して仕事をするための図書室があります。
そして、図面の外になりますが、家の裏側の少し離れたところにはスイミングプールとガレージがあります。屋外はもともと斜面となっていた敷地の形状を活かして、豊かな庭園が作られています。
外装は主に白レンガや淡いグレーのライムストーンが使用されています。また、玄関ドアや窓周りのルーバーなどに木材をアクセントとして取り入れ、モダンでありながらも優しく自然との調和を感じられる見た目になっています。
さて、今回のnoteはここまで。
次回くらしの学校の投稿では、この住宅の特徴となっている、玄関ギャラリーや有機的な形状の天井についてご紹介します。
間取りの説明については動画の方がわかりやすい部分もありますので、YouTubeの方もご覧いただけると嬉しいです。
https://www.youtube.com/watch?v=6znRKHMR-7k
それでは最後までご覧くださり、ありがとうございました。
掲載している全てのイラストはイラストレーターの火詩さんに描いていただいたものです。
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