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これは身体を張った“移民”フィールドワーク #ラトビア日記 16


2023年12月11日 居住許可取得の旅はまだ続く

 さて、メンタルが不安定になる最大の要因・居住許可。

 8月末の渡航後すぐ動いたにもかかわらず、まだ取得できていません。

 11月に郵送した書類について、12月8日までにラトビア移民局が確認し、連絡が来る手はずになっていた。

 8日中に音沙汰なかったため、同日の夜のうちに「わたしの書類、どうなっていますか」とメールをした。

 そしたら今朝、移民局から連絡が。

 メールも、届いた書類も、全文ラトビア語。英語なし。

 移民局に問い合わせる人は、圧倒的にラトビア外の人にちがいないのに、この堅強な姿勢はなんなんだ。

 自動翻訳をかけても、よく意味が分からない部分はあるのだけれどAIが発達していて本当に良かった。

 結果、わたしが提出した楽天銀行の残高証明書が、無効だということが分かった。ラトビア移民局で受け付けられる証明書(生年月日や名前が入ったもの)を再提出せよとのこと。

 何だそれ。聞いてない。楽天銀行だって、ちゃんとした銀行だあああああこれで通してくれよおおおおおおせっかく英語の証明書取り寄せたのに!!!!

 と、訴えたい気持ちは早々に捨てる。

 一応「楽天銀行の書類でなんとかして」と、メールしたが「ラトビアの法律に則ったフォーマットじゃないとダメ」とだけ返ってきた。もちろん、ラトビア語で。

 どうすればいいかを教えていただき、新たな銀行でオンライン口座を開設。そこに一旦送金して、移民局で受理されるフォーマットの残高証明書を発行し、移民局への提出を試みる。

 現在は、口座開設に伴う書類審査結果待ち。

 早く口座開設したい。さっさと送金して、書類を発行して、移民局に送りたい。

 居住許可のことを考えると、本当にメンタルが揺さぶられる。何をしていても上の空。

 課題にも集中できず、移民局のメールやネットバンキングの「個人情報の書類確認中」の画面を何度も何度も見てしまう。1分や2分で、何かが変わるわけではないのに。

 これ、来年に持ち越したくないなーーーー。

 年内に終わらせたい。がんばれ!! わたし!!!!

2023年12月12日 「個人でできることなんてあるの?」

 朝、移民局から指示された書類を準備し、郵便局へ。

 その足で国立図書館へ。前よりは、心乱されることなく集中できた。

 心なしか、いつもよりあたたかく、お天気アプリを見たら0度。氷点下ではなかった。

 雪が溶けてドロドロになり、歩きにくい。車はまあまあなスピードを出すから泥がはねる。

 日本でも、地域によっては12月とは思えないほどあたたかいと聞く。

 きっと、これからの冬は、もっと暑くなる。日本からは四季がなくなって、夏は暑さのあまり外に出られなくなるかもしれない。

 気候危機や環境問題について正面から取り組むことは、大学の授業に集中するため離れてしまっているけど、早くそちらの領域に向き合いたい。

 気候危機に関する取り組みや、個人の意見を調べていると「個人でできることなんて限られている」という言葉もよく目にする。

 わたしも「こんなこと1人の力で解決できることなのか」と疑問に思うこともある。

 もちろん、できない。残念ながら。

 でも、1人、10人、100人が、その気持ちのまま何もしなければ、このままどんどん生きづらくなる。

 暑くて外に出られないような環境を作り出すことに、加担することになる。冬は無くなり、スキーやスノボはできず、お寿司も日本食から消える。

 暑くて命が脅かされるような場所で、子育てはできないだろう。食べ物も飲み物も、いままでと同じものは手に入らなくなるだろう。

 「個人でできることなんてない」と諦めて手を止めれば、そうした未来へ一直線だ。

 けれど気候危機に関しては、人の手で変えられることもある。というか、人の手によって招かれたことなのだから、人間がなんとかしなければならないと、わたしは思う。

 いまだに「気候危機は人為的なものではなくて、地球のバイオリズムの問題なのでしょ」と言う方もいる。

 そりゃ何億年の流れで見たら、たまたま気温が上昇するタイミングと重なっているかもしれない。

 でも、産業革命以後の気温の上がり方が異常なのは自明だ。人間の責任から、逃れることはできない。

 気候危機は、命が脅かされる現象だから人権にもかかわる。だから、そもそも国や企業が旗を振って舵取りしていくべき問題だ。

 けれど国や企業が動くのを待っているのでは間に合わない。というか、個人と組織の両輪で動かないと、何も解決されないと、わたしは思う。

 だから「個人でできることなんてない」なんて、未来を放棄するような悲しい言葉を言わないでほしい。

 もちろん、無力さに打ちひしがれることもある。

 例えば使い捨てのプラスチックを一度使わなかったくらいで何が変わるんだろうと思う気持ちもわかる。

 でもそれが、1回、2回と続いて、しかも「まあちょっとやってみようか」と1人や2人、3人、4人と増えていけば、ほんの少しずつ、いろんなことが変わり始める。

 お肉を食べない、使い捨て容器を使わない、太陽光発電をしてみるなどなど、わたし自身もやってみて分かったことや気持ちが変わった自覚がある。

 来週から、リガの気温はプラスに戻る。氷点下にはならないと予想される。

 寒いのは身体が冷えて大変だけど「ちゃんと寒い」ことが、食べものや暮らしの豊かさをもたらすこともある。

 これからも「ちゃんと寒い」リガや日本でありますように。

2023年12月13日 「Where are you from?」の複雑さ

 移民局からメールが来た。

 郵便物が届いたから、書類を確認して一週間以内に次の手続きに進めるかどうかの連絡が来るらしい。

 お願いだから、問題なく進んでくれ。

 ちなみに書類が問題なければ、次にやるべきは指紋登録と顔写真撮影。それらのデータをもってIDが作られる。

 早く終われーと思いながら遅めの朝ごはんを食べていたら、クラスメイトからグループチャットに連絡が。

 なんと、居住許可が降りず母国のアメリカに帰らなければならなくなったらしい。

 まじか。と、声が出た。

 授業はオンラインで受けられるけど、春のセメスターはぜんぶリモートで受講することになる。

 アメリカからの留学生は、ほかにもいるし、住んでいる人もたくさんいるだろうに、なぜ彼が。

 居住許可取得のために記入する書類には、国籍や市民権がどこにあるのか、自分の家族の情報もすべて記入する。

 Instagramの投稿で「Where are you from?」という質問は、気をつけないと失礼にあたったり相手を困惑させたりするという情報を見ていたから、なんとなく想定はしていた。

 ラトビアに来て、国境に関する勉強をしたり二重国籍の人に出会ったりして「出身地はどこか」という質問への答えが想像以上に複雑なのだと学んだ。

 クラスメイトの許可がなぜ降りなかったのかはわからない。

 でも、場合によっては国籍や親族の出生が理由なこともある。

 かなり個人的かつセンシティブなトピックだから、気軽に理由も聞けない。

 彼の心理的なストレスを思うと、こちらまで気が重くなる。

 彼はよく、Latviaと書かれた紅白のパーカーを着ていた。わたしなんかよりずっと、ラトビアへのリスペクトや関心が高かったに違いない。

 少なくとも、大学に籍は置いたままらしいから、何かできることがあれば協力したい。

2023年12月14日 涙をこらえ授業に出る

 移民局から、メール来ず。

 まあ、1日や2日で返事が来ることは、きっとない。

 家にいてもふさぎ込みそうなので、近所のカフェで課題をやる。

 窓際の席に座っていたら、青空がのぞいた。何日ぶりの、青空だろう!

 思わず見上げて、しばらくぼーっとしてしまった。文字通り、時間を忘れて。

 現在のラトビアの日の出時刻は、8:50前後。日の入りは、15:40前後。

 日中ほとんどは曇りで、太陽が見えることはほぼない。

 北海道暮らしで多少日が短いのは慣れているとは言え、やっぱり青空や太陽が見えると、うれしい。

 ばんざいして、身体中に日光を浴びたくなる。

 ラトビアを含めたヨーロッパの、夏至祭の盛り上がりの背景と切実さが分かった気がした。

 午後は、授業。国境にまつわる授業は、今回が最終回だった。

 昨日のアメリカのクラスメイトのことと、わたしもまだ居住許可の審査中ということもあって、授業中、何度か泣きそうになってしまった。

 前向きに、ポジティブに、ここを選んで来ているのに、なぜこんなに緊張して、肩身の狭い思いをしなければならないんだろう。

 もちろん異国からの居住希望者に対して、しっかりした手順と基準を設けないと国の安全が脅かされるということも理解している。

 正規の手順を踏み、大学の入学許可ももらっているのに住めないなんてこと、あるんだろうか。あっていいんだろうか。拒否されている気持ちになるのは、わたしだけではないはずだ。

 授業中、何度かグループディスカッションの機会があった。

 ラトビア人のクラスメイトが「さまざまな事例を学んでいろんな国境や、そこで起きている産業や事例を知れたのは刺激的だったし、いままでにない視点をもらえた。ただ、自分は母国に住んでいるからどうしても、国境を超えて暮らすことの困難さは理解できないと思う」と言っていた。

 そりゃそうだ。

 わたしだって日本にいたら、日本に来ている海外の人たちの苦労に思いを馳せたところで限界があるし、どこかで他人事だと感じていたに違いない。

 でも、いまはちがう。

 今は、わたしも”移民”なのだ。

 いくら日本のパスポートが国際的に強いと言われていようと、それは旅行に限った話。

 居住許可において、日本だから免除されることは……まあ、揃えるべき書類の数が他のいくつかの国より少ないというメリットはあるのだけど、わたしはまだ許可をもらえていないので疑心暗鬼な気分から抜け出せない。

 ラトビアに住んでいる日本人はいるし、彼・彼女たちも同じような不安を乗り越えてきたのだと思う。

 ラトビアだけでなく、他の国ではもっと複雑な手続きがあるかもしれないし、もっと不安を煽られるようなことがあるかもしれない。

 いまは、そういう不安を感じてきた人たち全員と固い握手を交わしたい気分。勝手に同志みたいな気持ち。

 この不安も、同志みたいな気持ちも、旅行客のままなら味わうことがなかった感覚だ。

 「海外に住むって、どんなかんじ?」という素朴すぎる好奇心で、ここまで来た。

 身体を張って“移民“としての実践&フィールドワークをしていて、我ながら笑える。

 ある意味、願ったり叶ったりだ。

 どんな現実も、受け止めてやる。来いや!!!!

2023年12月15日 誰にも分かってもらえなくても

 ラトビア語初級講座、先生が風邪をひいて、授業の直前にオンラインに変更になった。

 この先生、1ヶ月くらい体調悪いんだが、大丈夫なのか……?

 オーラルテストがあって、昨日の夜準備しておいたものを読み上げた。10点満点中、8点もらえました。

 そのあと、夕方からの授業の予習のために大学の図書館へ。

 課題のテキストを読んでいる途中、メールが1通。

 タイトルは「Elektroniski parakstīts dokuments Nr.***(番号)」。移民局からだ。

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