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うっとりしたり初体験したり|ラトビア日記 #3

◎ 2023年8月からラトビア大学の大学院に留学を始めました。毎日つけたひとりごとみたいな日記を、毎週1本更新中。なまなましい言葉や感覚をとらえておきたいため、まれにネガティブな発言もあります。そのため、一部有料です。

先週の日記

2023年9月9日 異国に暮らすってどういう感覚?

 今日は一日、友人のお買い物に着いていく。

 人生初の、IKEAへ!

 首都・リガのバスチケットには、種類がいくつかある。

 1日乗り放題チケット、1ヶ月チケット、90分チケット、など。

 どれもアプリで事前決済できるのだけど、初めてそのアプリを使った。

 90分間どこからどこへでも乗れる1.5ユーロのチケットを買ったのだが、QRコードを読み込むべし、とのこと。

 バスやトラム、トローリーバスにそれぞれ車体番号とQRコードがあって、その番号を入力するかコードを読み込ませて、90分のカウントがスタートするという仕組み。

バスのQRコード。番号入力でも可

 でも、読み込んでるかどうか運転手さんは気づくのだろうか。

 無賃乗車しようと思えば全然できそうだな。性善説なのかな。

 などと思いながら、ちゃんと乗車してすぐコードを読み込みました。

 IKEAは、ものも人もたくさんで、ちょっとクラクラしたけど楽しかった。三度見しちゃうくらい安い照明とか家具がたくさんあった。

 わたしがいま借りている部屋も、ラトビアでの仕事が見つかったら、アップグレードしたいなと思う。

IKEAのフードコートのごはん(ベジ対応)

 お買い物のあと「海外に、ラトビアに暮らすって、どう?」という話になる。

 もちろん、イライラすることや思い通りにいかないことが起きる。起きている。今まさに(居住許可のこととか)。

 でも、思い通りにいかないことが当たり前だと思っていれば、なんとか焦りを乗りこなせる。いちいち慌てふためいて、心配しすぎていたら正直ハートがもたない。たぶんすぐ日本に帰りたくなる。というか、もはやラトビアに来ていない。

 なにが起きても「しめしめ」くらいに思っているのが、ちょうどいい。

 特に、文化人類学という学問をわざわざ学び直す決断をして海外に留学までしたわたしにとっては、ここで暮らすことそのものがすでに実践的な学びで、フィールドワークみたいなものなのだ。

 だから、うまくいかないこともすべてネタになる。観察対象になる。そう思うと、切羽詰まっていた肩の力が抜ける。

 同時に、自分がどういう先入観を持っていたのかということに自覚的になれる。

 「わたしはこれがイライラするのか。当たり前だと思っていたのにうまくいかないと思っているのは、そういうことか」と気づく。

 同時に、多様なのが心地よいと感じるのは、わたしが日本で生まれ育ったからなのだろうかと考える。

 それとも、もともと今のように多国籍で、その土地の母国語ではなく英語という第二言語でコミュニケーションを取るのが当たり前の環境なら、多様なのが当たり前だから心地よさも違和感も感じないのだろうか。

2023年9月10日 公園が好き


 日曜は、やはり街中の人出が少なく感じる。お店も閉まっているところが多い。

 午前中、掃除用具を買う。

 通りかかった公園で、マーチの演奏が聞こえてきたから中に入ってみる。

 どうやら父の日のイベントをやっていたらしい。

 といっても、子ども向けのワークショップや職業体験、アスレチックなどが出店形式で並んでいて、お父さんのためのコンテンツという感じではなかった。

 日中は25度近くまで上がり、風もないから暑い。日陰のベンチで、仕事の原稿を書く。

 リガ市内の中心部は公園が多く、ベンチも少し歩けばすぐ見つかる。

父の日イベントのようす

 平日は、そこで読書している人や談笑している人、書類に目を通している人などもいる。

 各々自由に過ごしている感じが、すごくすき。

 去年、ロンドンに行ったときは公園で居眠りしてしまったけど、今日も眠たくなるくらいいい天気だった。

 冬はほとんど日がのぼらないだろうから、いま浴びている日光をどこかに溜めておきたい。

 冬に突入する前に、家に強めの観葉植物をお招きしたい。あと一個、いま調整している日本の仕事が決まれば、その記念に買おう。

 ラトビアで働き始められるようになるまでに、まだ少し時間がかかりそうだし(居住許可の関係で)。

 とにかくユーロが高い。ラトビアはユーロ圏なのだ。

 早くユーロを稼がせてくれ。

2023年9月11日 うっとりしちゃう

 今日は、ほとんど引きこもっていた。

 午前中は日本の仕事をして、午後は課題になる書籍を読む。

 今の時代、いくらでも手間を省けるツールがあるから、すべての課題図書を読まなくても短いエッセイの1本や2本、要領よく書けるだろう。

 けれど、わたしはまだ英語が日本語並みに「意識せずとも口から出るし耳に入ってくる」状態ではないから、いろいろな表現やボリュームに慣れたい一心で、とにかく授業に関連する(特に単位に直結する)課題図書は読みまくると決めた。

 少なくとも、ななめ読みできるくらいにはなりたい。

 読んだり調べたりすることに集中していると「ああ学生だなあ」と感じて、自分の好きな時間を、学びに投入できることにうっとりしちゃう。

 できることなら、うっとりしたまま単位を取って卒業したい。

 うっとりしていられるように、年末年始に泣きながら文献を読むはめにならないように、少しずつ課題を終わらせたい。がんばろう。

 午後は授業。

 授業後、アメリカからの留学生と少し会話。

 日本語を勉強したいという相談を受けていた。

 独学で書いた日本語のノートを見せてもらう。

 ものすごく几帳面に、ていねいに、1文字ずつ書かれていて、感動した。どの文字も、線が少しふるえていた。

 日本語は、会話の場合は単語でも意味が通じるからよしとして、書くのは本当にむずかしいのではなかろうか。

 キリル文字やタイ語を書けと言われても一筋縄ではいかないように、日本語の造形も慣れるまで相当大変だと思う。

 金曜日に、また会う約束をして解散。わたしはその学生からアカデミックな英語を教えてもらう。助かる。

 ラトビア語の授業は、結局さまざまな手続きの果てに、わたしが授業登録する頃には定員オーバーだったから、次のセメスター(いわゆる春学期)で受講予定。

 それもまた楽しみ。

2023年9月12日 ただの観光客

 学生IDの用意ができたと連絡が来た。

 やっと! パスポート以外に、わたしの立場を証明するものができた!!

 早く図書館を使いたいし、公共交通機関のカードも欲しい。

 ぜんぶ、パスポートでも使うことはできるが学生価格にはならない。

 やっと自称・学生から、ラトビア公認の学生になれる!

 ちなみに授業が始まってからIDが発行されるって、海外の大学あるあるなのかな?

 わたしが日本の大学に通っていた頃は、入学後、真っ先に学生証をもらった気がするけど、もう10年くらい前のことだから忘れてしまった。

 これで居住許可が取れれば、やっと暮らしと勉強に集中できる。

 早く終われ〜。

 午後から、いくつかある大学の図書館のうちの一つへ行ってみる。レクチャールームがたくさんあるから、どこが図書館なのか分からない。

 とりあえずいくつかの廊下が交わる広い踊り場みたいなスペースにソファがいくつも並んでいたからそこに座って課題の一つを読む。

 そのあとマーケットへ。

街中でも、よく花束を持っている人を見かける
端からひとつずつ食べ比べしたいチーズ
キロ単位の価格に慣れない。買い過ぎてしまう

 観光客もいるが、地元の人のほうがずっと多い。

 だからなんとなく、カメラを構えるのに気が引ける。

 でも雰囲気は活気があるから、誰かと一緒に行くときにちゃんとカメラで撮影したいな。

2023年9月13日 なかなか届かないものと届いたもの

 日本から送ってもらった郵便物が届かない。

 もう一週間くらい経とうとしており今日くらいに着くかと思っていたが、愛知から海外に向けて出発して以降の足取りがつかめない。

 めちゃくちゃ大事な書類が入っているんだが????

 EMSを信頼して、郵送してもらったんだが???????

 早く届いてほしい……と、やっぱり書類に振り回され気味。

 心を落ち着けるために公園を散歩。

 めちゃくちゃ天気がいい。少し歩いただけで汗ばむ。

 公園で一つエッセイを読み、学生証を受け取りに行く。

 二週間くらいかかると言われていたけど結局こちらは一週間くらいで手元に届いた。ありがたい。

 これで大学の図書館が使える!!!!

 街中のカフェに行ってもいいが、毎回コーヒーを頼むのも億劫だしお金がかかる。

 決して余裕のある大学院生ではないので、できる限り節約したい。

 なにより、IDが手に入ったことで、自称・学生ではなくなった。

 胸を張ってラトビア公認の学生だと名乗れる! すがすがしい!

 ちなみに学生証があると、公共交通機関が割引になるらしい。明日はそのためのバスカードを作りに行こう。

 授業を終え、バスチケットを買うアプリ(IKEAに行くとき使ったやつ)が反応せず、もたもたしていたら、ラトビア人の同じ学部の友人が車で家の近くまで送ってくれると言う。

 めちゃくちゃありがたい。お言葉に甘えた。

 彼は、おそらく同学年で最年長で、劇場のディレクターをやっている。自分で、詩と身体表現がミックスされた作品も作る。

 いつか観に行きたいなあ。

2023年9月14日 なんでもない日もRPG

 気づいたら9月がもう半分過ぎようとしている。

 先週は「一週間がゆっくりだ」と感じたのに、今週は早い。

 生活が板についてきたということだろうか。

 授業というルーティンができたから、きっとここから2年、あっという間なのだろうな。

 今日は少し早めに家を出てバスのカードを作りに行く。

 リガの大きなバスターミナルを通り抜けて右にある、小さな事務所が発行場所だ。

 インフォメーション窓口で聞いたがすぐ見つけられなかった。

 窓口に行くと「大学からのリファレンスがないとカードが発行できない」とのこと。

 リファレンス?? なんの??

 と、ハテナを浮かべたわたしに窓口のお兄さんが「これをもらってきて」と他の人の書類を見せてくれた。個人情報まる出しだけど、助かった。

 すぐ大学に行って、リファレンスを出してもらう。

 後から気づいたが大学のIDが、さまざまな情報に繋がっているらしい。

 ラトビア大学は国立大学だからなのか、他の大学もそうなのかは分からないけれど、学生IDがバスのオンラインのログイン情報とも紐づいているらしいことが分かった。

 バスのカードも写真を撮る必要があり、学生ID同様、含み笑いをした写真が印刷され、無事カードをゲット。

 なんだか一つ一つ、出会う人に情報をもらってその通りに動いて攻略していく自分の動きが、RPGのゲームそのもの過ぎて、一人で笑ってしまった。

 アイテムをゲットし、できることが増えていく。ゲームなら、経験値が増えると技のレベルも上がっていくから、わたしの実生活もそうなるといいな。

 などと思いながら、そのまま国立図書館へ。

 ずっと行ってみたかった! 

シルエットが富士山みたいな国立図書館

 利用者カードを作ってもらったが、これもまた学生IDの情報とリンクしていた。

 図書館は広くてきれいでWi-Fiもサクサク。飲み物は持ち込みオッケー。さいこうかよ。

 開館時間が11:00なのが、朝型のわたしにはちょっと遅く感じられるが20:00までやっているから助かる。今後もたくさん使おうと思う。

 図書館でひとつ、短いエッセイを書いて提出。

 あたりまえだが授業に関連する読みものが多い。コピー機を買ったほうがいいのか、印刷屋につどつど行くほうがいいのか、迷うところ……。でも今後、修士論文も書くことを考えたら、中古のコピー機でも買ったほうがいいのかもしれない。

 できたてのバスカードを使って授業へ。

 あいかわらず早口な先生で、授業は文字起こしとレコーダーと翻訳機を使いながら参加している。予習はするが、先生の言葉がときどき聞き取れないから。

 ただ、興味のある分野になると急に聞き取り力がアップするふしぎ。やっぱりボキャブラリーに偏りがあるということなのか……。がんばろう。

 帰り際、昨日送ってくれた友人がまた声をかけてくれた。

 バスカードを入手したと知らせたら「また何か困ったら言って」と言ってくれた。こういう配慮が本当にうれしい。大感謝。

 帰りは、スーパーに寄る。

 仕事帰りとか勉強終わりって、なぜ夜のスーパーに寄りたくなってしまうのか!

 節約しなきゃと思いながら、かごを片手に店内をうろうろ。あと、買い物をしている他のお客さんを観察。

 これから飲み会なのかなという若者数人のグループや、仕事帰りっぽいヒールを履いた若い女性(なかなかヒールの人は見ないから珍しい)、黒いリュックにクリーム色のパーカーの学生と思しき男性、少し年配のスカーフを巻いた女性、電話で何やら相談しながら加工肉の冷蔵庫の前で大声で喋ってるおじさん(おそらくロシア語)、インド系のファミリー、などなど。

 わたしは、割り引かれたビーガンのお菓子を買って帰宅。あと洗剤も、イイやつを買ってみた。

 今日もがんばりました。はなまる。

2023年9月15日 涙が止まらない音楽

 授業に必要な読みものを印刷しに、印刷屋さんへ。

 白黒コピーはA4サイズ1枚、0.06ユーロ。日本円だと約10円だから、コンビニのコピー機と、あまり変わらないかもしれない。

 200枚くらい印刷して、会う約束をしていた、アメリカからの留学生のところへ。

 彼は日本の古事記や日本書紀、江戸幕府の文化にも興味があるという。

 ラトビアにも「ラトビア神道」という宗教があるのだと教えたら驚いていた。

 わたしは英語でつまづいたところを教えてもらい、その代わりにわたしが彼に日本語を教えるという、個人的ミートアップ。

 それにしても、日本語を教えるって、めちゃくちゃむずかしい。

 自分の言葉を客観的にとらえること自体、とても新鮮。

 「あれ、そういえばなんでこういう場面で助詞はこれなんだっけ」とか「どう言うのが自然だろう」とか、いろいろ考えてしまう。

 日本語教師の資格は、来年から国家資格(今は民間)になるらしい。

 日本人の母数が減れば日本語話者も減っていくだろうと推測できる。

 ラトビアではラトビア語を学ぶことにアイデンティティを見出している。日本語もまた、そうに違いない。

 日本語教師の資格を取得することも、前向きに検討したいなと初めて思った。

 公園で2時間ほどおしゃべりして、解散。

花束を買ってコンサートへ

 夜は、ラトビアで初めてできた友人・しのさんの、デビューコンサート。

 所属しているラトビアのプロ合唱団のメンバーの一人として、初めて舞台に立つ。

 バルト三国は、旧ソ連からの独立を目指して、その地域に住まう人々が手をつないで歌をうたい、平和を訴えた稀有な歴史を持つ。

 「人間の鎖」と呼ばれる歴史的な出来事だけれど、そのときも歌はバルトの人々にとって不可欠だった。

 わたしが入国する前、今年の6月にも、5年に1度行われる「歌の祭典」がリガで行われていた(観たかった……)。

 歌の国と呼ばれるとおり、ラトビアにはプロの合唱団が何組か存在し、世界各地でコンサートを開いているという。

 合唱に関する、わたしの知識は「旅立ちの日に」「大地讃頌」など中学校の卒業式で止まっている。

 けれど、教えてもらったラトビアの合唱を聴いたら、とんでもなかった。

 今夜のコンサートの会場は教会。中は撮影禁止だったから、残念ながら写真はない。

 ステージに立たないのに何故か開演前から緊張する。

 合唱団が入場し、最初の曲が歌われ始めたとたん、身体が動かせなくなった。

 歌い手は、ぜんぶで20名ちょっとだったろうか。ふたりの指揮者が一曲ずつ交代で指揮をした。

 くちびるを震わせたり、吐息だけで歌ったり、鳥やどうぶつの鳴き声を彷彿とさせる声が輪唱されたり、人間の声というより強く吹く風の音みたいな音が息継ぎなしでゆるやかに上がったり下がったり、ときどきお経のように聞こえたり。

 民謡のような、カルニング(牧畜を営む人たちが歌う北欧の歌)のような、どちらでもないような。

 今まで自分が持っているボキャブラリーや知っているジャンルでは、当てはめられない歌たちだった。

 もっと和音の重なりや、分かりやすい起承転結があるのかと思っていた。

 ぜんぜん違った。

 会場が教会だったからか、強く感じたのは讃美歌やゴスペルとの違い。

 讃美歌やゴスペルは、どこか頭の先から、声や熱量が高く遠くへ飛ばされるイメージがある。ハモリが束になって虹みたいに一直線に「神様へ届きますように」という願いと共に飛んでいく感じ。

 けれど今晩聞いたラトビア合唱は、高く遠くというより、横にじわーっとひろがっていくイメージだった。

 色や形の違う石や水や鳥の羽根みたいなものが、ほうぼうに、速度もさまざまに、ころころふわふわ流れていくような、そんな印象。

 今夜、初体験だったラトビア合唱に、そんなモチーフを想像させながら、初っ端から涙をボロボロこぼしながら聞いていた。

 いまリガで暇している人は、全員聞きに来たらいいのにと思った。

おまけと真面目な話

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