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夜のお茶会(2)

前回のお話

 大学に入学したばかりのころ、一杯300円以下の生ビールを飲むだけで、自分の思い通りの世界を手に入れたような万能感と背徳感で恍惚とした。

 有頂天になっていたわたしたちは、大学生活を重ねるうちにシラフに戻った。

 そのうち、木箱に行儀良く並んだワインの銘柄を字面だけ覚えてボトルで注文してみて安いビールをあおっていた自分を懐かしみ、あえて若さを遠ざけた。

 チェーン店の安いビールや、結局どこ産の何年ものか覚えられなかったワインを飲みながら、わたしたちは延々と喋った。

 何を喋ったのか帰る頃には忘れているのだけれど、問題ではない。

 ゆう子は、大学を卒業してから外資系の企業に勤め始めた。

 入社してからも成績トップを争う営業マンで、昼夜働き、美味しいお酒と料理が好き。

 一人、都心のマンションに住み、飛行機を電車のように使いこなして日本と海外を軽やかに往来している。

 安いビールから、木箱のワインへシフトしたのは、ゆう子の舌のおかげと言っても過言ではない。

わたしとみゆきだけなら、永遠に安いビールかチューハイを飲んで「“最近の若者は”ごっこ」に肩まで浸かって30代に突入していたかもしれない。

 いや、それはわたしだけか。

 みゆきはきっと、早々にそのルートからは外れていただろう。

 社会人になったら髪を伸ばしたい、と言っていた。二年前に会った時も、中分けの、黒い艶のある髪を胸元まで伸ばしていた。

 「美容院行きたーい」と繰り返していたが、美容院のケアなど必要ないくらいうるおいのある毛先は、いつも行儀良く切り揃えられている。

 みゆきは、高校の教師になった。職場で出会った人と、途中くっついたり離れたりしながら、三年前に結婚した。

 わたしは、小さな映像制作会社に就職した。

 大手の社名に目がくらまないこともなかったが、「お祈りメール」を受け取ることは、プライドが許さなかったから、

 人手が足りなさそうな、けれど自分の裁量で仕事を運べそうな会社を、SNSを使って血眼で探し、スムーズに就職した。

 給料は安くても、選ばれずに選考を落とされるよりマシだった。

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