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夕鶴。
夕焼けが綺麗だと、つい写真に撮ってしまう。狙って撮れるものでもないから、それは運とタイミング次第だ。
今回は夕鶴の話をしようと思ったのだけど、ふと「あれ?夕鶴って他になんて言うんだっけ?」と、タイトルをド忘れしてしまった。
子供の頃に絵本かなにかで読んだことがあるのは、鶴の恩返しだ。そのお話のことを夕鶴とも言う。細かいことはよく知らないけど、いつの間にか夕鶴と言う回数の方が多くなって、鶴の恩返しのほうを忘れてしまったようだ。
この話に最初に出会ったのは、小学校のときの学芸会だった。私が4年生のときに6年生が演じていて、難しい話なのに凄いなあと思いながら見ていた。
次に出会ったのは、劇団の先生の講義を手伝いに行ったときだった。当時私は大学を休学していて、家にいる時間が長かった。そのことを心配した先生が、よく自分の講義に呼んでくれた。
「私の授業なら大丈夫だから、時間のあるときでいいから来なさい。」
そう言われて、14時に連絡がきて14時すぎのバスに飛び乗ることが何度かあった。研究室に着くと、何人かで朗読をやって、その感想を聞くという授業の手伝いをしてほしいとのこと。
授業が始まるまであと2時間しかないのに、その授業をとっている生徒の前で朗読をしろということらしい。
そのとき渡された台本が「夕鶴」だった。見たことはあったけど、台詞を見るのは初めてだった。さっと目を通したとき、泣きそうになった。頑張って堪えようと思っても、堪えきれない。じゃあ読んでみようとなったとき、台詞を言いながら涙が溢れてきて、言葉に詰まってしまった。
初めてのことで、自分でもよくわからない。ただ、おつうはあんなにもよひょうを想って異性として愛しているのに、よひょうにとっておつうへの愛は家族愛のようなものでしかない。それが辛くて堪らなかった。
私の他に女が2人と男が1人の4人で演じた。時々、段落が変わるごとに先生が適当におつう役を変えていく。
教卓の上でガチガチに緊張しながら、私は思わず泣いてしまった段落が自分にくることをひたすらに祈った。先生は褒めることをほとんどしない人だったけど、その段落は私に振ってくれた。
読み手が変わると受ける印象が変わるという内容の授業だったらしい。終わったあと先生の研究室に戻り、感想が書かれたプリントを見ていくと、私のことがたくさん書かれていて、嬉しかった。
後にも先にも、もうこんなことはないと思う。そういう自分に戸惑って、その日はずっとふわふわしていた。
高校生のときの台本は今でもどこかにあるはずだけど、夕鶴は確か先生に返さなきゃいけないものだった気がする。また読みたいなあ。