【連載エッセイ】悪妻のススメ(プロローグ①)
進学、就職、転職、結婚、出産など、人生には転機となる節目がある。
中でもその後の人生を共に歩む妻が男に与える影響は大きい。
結婚して目に見えて飛躍する人もいれば、まるで何かに取り憑かれたように見る見る失墜してしまう人もいる。
一体その違いは何だろうか?
夫を出世させる妻は、俗に「あげまん」と言われ、それはまるで幻の生き物のようだが、世の中には確かに存在する。
例えば、プロ野球の元楽天イーグルス監督として活躍した野村克也さんの妻、サッチーこと野村沙知代さんは、見事なあげまんだった。
お笑いコンビ爆笑問題の太田夫人もそうだ。
夫の活躍の裏には、常にそれを支える妻がいた。
夫を出世させる妻は、普通の妻と何が違い、何が夫を押し上げるのだろうか?
夫の仕事の邪魔をせず、家事や育児を完璧にこなし、日々働く夫を献身的に支える。
きっとそんな控えめな女性こそ、あげまんの姿だと多くの人は想像するだろう。
でも、実は全く違うのではないかと私は思う。
夫の仕事内容を把握し、その働き方から職場の人間関係にまでズケズケと口を出す。
一人で家事や育児をこなすというスタンスではなく、夫が仕事で疲れてるんだと言おうものなら
「家で疲れたばかり言うな!」
「働き方が悪い!」
と叱り倒す。
当然のように財布の紐は妻が握り、妻のお小遣いより夫のお小遣いは少ない。
妻は食費という名目で好きなケーキやお菓子を家計で買い、遊興費という名目で子供と優雅にお茶をする。
その様はお世辞にも控えめとは言えず、良妻か悪妻かと問われれば多くの人が「悪妻」と答えるであろう。
でも実はそんな悪妻こそ「あげまん」の正体なのではないかと私は思う。
何故そう思うのか?
何を隠そうこの悪妻は、私の妻のことである。
結婚して丸6年。出会ってから7年以上になるが、振り返ればいつも妻の言動には翻弄されっぱなしだ。
人は自分の想像を超える事象に出くわすと思考停止に陥る。
いつも想像の斜め上から飛び出す妻の言動は理解できず、とりあえず理不尽に繰り広げられる難題に対処する日々だ。
しかしどういうことか、その苦労とは反比例するかのように、彼女と出逢ってから私の仕事は好転した。
決して前は手を抜いて働いていたという訳ではない。一生懸命働いても報われない状況に、サラリーマンなんてそんなものだと諦めていた。
半年後に結婚を控えたある日、妻の半ば強引なススメで転職エージェントに行くことになり、その流れで長年勤めていた会社を辞め、転職すると状況は一変した。
入社後1年もすると昇進し、3年経つ頃には私のお給料は倍増していた。
その後も着実に昇給して、私の年収を折れ線グラフで表すと、緩やかな横ばい線が妻と出逢った年を起点に急角度で上昇する形になる。
【 続きを読む:プロローグ ② 】