【連載エッセイ】悪妻のススメ(第14話:式場選び)
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妻と同棲を始めてから赤字生活が続いていた上に、高価な婚約指輪を購入し出費が止まらなかったが、結婚までの道のりには、まだ大きな出費を伴うイベントが控えていた。
結婚式だ。
すでに幾つかのウェディングフェアに足を運んでいたものの、そもそも結婚式や披露宴に積極的でなかった私は、あらためて妻に問い掛けた。
私「本当に結婚式やる?」
妻「やる!」
即答だった。。
私はこの歳になって今さら多くの人を呼んで結婚式や披露宴を開くなんて、何だか照れくさくて気乗りしなかった。
それでも妻の立てた計画に付き合い、地域にあるほぼ全ての式場のウェディングフェアに足を運んだ。
1日に3件のウェディングフェアをハシゴして、披露宴で出される料理の試食だけで1日中お腹いっぱいの日もあった。
多くの婚約指輪を見て指輪を見る目が肥えたように、多くの式場を見てまわると、やはり私の式場を見る目は肥えていった。
私「この式場はいい雰囲気だね~。」
妻「そうだね!」
あまり気乗りしない人だったはずが、気付けばいつの間にか 結婚式を開きたい人の発言 になっている。
妻「ちなみに、どこの式場が一番よかった?費用も安いところも高いところもあったよね。」
私「そうだね~。確かに安いところもあったけど、、、せっかくみんなに来てもらうんだから、値段だけじゃ決められないよね。少し高かったけど、銀座にある式場が一番良かったかな!」
結婚式場の知見が深まり、ふと意見を求められても、自然とそんな言葉が出てくるまでになった。
妻「そっか!確かにそうだよね!じゃあそこにしようか!!」
満面の笑みでそう答える妻を見て、ふと気づく。
これは妻の策略だ・・・。
婚約指輪を選んだときと同じように、結果的に式場を選んだのも、やはり「私」と言うことになる。
そして、私が選んでいたのは、なんと同棲して2ヶ月のとき 妻の圧力に耐えられず申し込んだウェディングフェア の式場だった。
(参照:第6話:戦いの始まり)
今になって思い返すと、このように妻の要求には 未来を予言 していたようなことが度々ある。
そのタイミングでは「また突拍子もないことを言い出した・・・」と思うのだが、結果的にそれが現実になっていたりする。
おそらく天然の言動なのだが、もしかしたら先の先を見据えて計算していたのかもと思わせるところ・・・
それも悪妻の特徴だ。
結婚式場が決まったら、次は具体的に式や披露宴の内容を決めて見積りを進めていく。
きっと妻のことだから予算など気にせず、やりたいことを次々と盛り込んでいくんだろうな・・・と思っていた。
しかし、実際にその段階に入ると、妻はまるで別人のようにテキパキと式場の人に話し始めた。
妻「お食事やお酒は、この見積もりに入っているような安いプランは普通選びませんよね?一般的な見積もりはいいんで、後からどんどん費用が加算されない現実的な見積もりを貰えますか?」
妻「お花って値段の割にボリュームがないんですね・・・この場所にこんな豪華なお花は要らないから、風船に変えてください!」
妻「ビデオ撮影はお願いしたいんですけど、この披露宴ビデオのサンプル、こんなところでズームするなんて、カメラマンの撮り方が悪くないですか?
この料金プランならもっとクオリティ良いものできますよね!?こんな感じに撮って欲しいというものを持ってくるので、できるか聞いてもらってもいいですか?」
いつもは私に向けられている妻の圧力の矛先が、完全に式場の方を向いていた。
そうなると妻は急に最も心強い味方になる。
弁護士という職業柄なのか、彼女は 交渉のプロ だった。
私「(式場の人、かわいそうに・・・相手が悪いよね・・・ 笑)」
そう心の中で思いながら、せめて私だけは感じのいい人でいようと、ひたすら笑顔を浮かべて見守りに徹することにした。
一般的には、半年~1年先のスケジュールで決めるという結婚式の日取りも
妻「半年以上先のことなんて分からないから、最短で挙げられる日にしよう!」
私「あ、うん。」
妻「3ヶ月あれば何とかなりますよね?そのくらいでお日柄のいい日で空いてるところありますか?」
プランナー「あ、確認してみます・・・」
妻「それと、あれとこれも加えて、できれば費用は据え置きでお願いしたいです!」
プランナー「・・・」
きっと、こんなことを言う女性を相手にするのは、式場の人も初めてだったのだろう。
プランナー「う、上の者に確認してくるので、少々お待ちください・・・」
前例のない要求ばかりで、自分では判断できないとバックオフィスに入ったり出たり慌ただしくしている。
私「(たぶん困っているんだろうな・・・)」
そして、やはり現場で判断はできないと、担当者が社長に電話して判断を仰ぐことになったようだった。
プランナー「はい。はい。・・・空いてる日です。・・・身元はしっかりしています。・・・弁護士の方です。はい。はい。」
きっと電話口の社長も、こんな要求をするなんてどんな人物だと、私たちの素性を探っているような会話が漏れ聞こえてきた。
プランナー「はい。はい。わかりました。失礼します。・・・社長からOKが出たので、これで受付けます。」
妻「ありがとうございまーす。」
私「(交渉成立・・・)」
最終的には、基本の見積もりの費用感で数ランク上の内容が盛り込まれた驚きの内容のプランが実現した。
きっと経験のある方ならお分かりだと思うが、結婚式の準備を たった3か月 でするなんて準備期間が短すぎる。
式場には、おそらく 前例のないような要求 を飲んで貰ったのだろうが、そんな間近に式を挙げたいと言う人なんていないからこそ、実現したプランだったのではないだろうか。
こうして妻の希望通り、約3か月後の大安に結婚式と披露宴をすることが決まった。
妻は自信満々に何とかなると言うし、無知な私は呑気に構えていたのだが、その後には 恐ろしく多忙な日々 が待っていた。
世の中が慌ただしくなり始めた年の瀬の12月、妻と同棲を始めてから7か月の月日が流れていた。
(続く)
【 続きを読む → 第15話:(※ 絶賛執筆中) 】
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