【連載エッセイ】悪妻のススメ(第12話:義父の乱)
【 最初から読む → プロローグ ① 】
【 前のエピソードを読む → 第11話:婚約指輪 】
私「僕と結婚してください!」
プレプロポーズしたとき以来、2度目の婚約指輪ケース「ぱっか~ん」をして、妻が指定した夜景の綺麗なレストランで、妻が望む言葉で プロポーズ をした。
実に予定調和なプロポーズだったが、妻がそれを望んでいるのだから良いのだろう。
こうして私たちは 婚約者 になった。
次のステップは親への挨拶だ。
現実的に考えると、結婚するためには、あらためて妻の両親の承諾を得る必要があるだろう。
妻の両親とは妻と暮らし始めた5か月ほど前、両親が東京に遊びに来た際に挨拶したきりだった。
すっかり肌寒くなった11月、私たちは週末を利用して妻の実家がある福井県に足を運んだ。
妻の実家は、福井県美浜町という自然が豊かなところにあった。
新幹線と特急を乗り継ぎ、福井県の敦賀駅に着くとお義母さんが車で駅まで迎えに来てくれていた。
そこから車で夜道を約20分くらい走ったところに妻の実家はあった。
近くにはJRの美浜駅があるが、電車が1時間に1本しか走っておらず車移動の方が便利のようだ。
私は前回、東京で挨拶したときと同様にスーツにネクタイを締めて正装し、少し緊張しながら実家を訪問した。
通された部屋は、昔ながらの和室でストーブの温かさとコタツの温もりで、外の寒さを忘れることができた。
ふと壁を見渡すと妻が子供の頃に作ったという お城のジグソーパズル が2つ並んで飾られていた。
私も子供の頃はパズルを作るのが好きだったから、こんな共通点があることを初めて知った。
私は緊張しながら、正座して両親を待った。
これがテレビドラマで目にしたことのある結婚の挨拶のリアルなシーンか~なんて、どこか他人事のように、その場を俯瞰で見ている自分もいた。
前に両親に会ったときから、色々な壁を乗り越えてきたからか、私としては心境がまるで違っていた。
でもその過程を知らない両親にとっては、初対面のときの印象のままなのだろう。
何をどう話そうかと考えていると、部屋のふすまが開きお義父さんが部屋に入ってきた。
私は立ち上がり「ご無沙汰しております!」と言おうとしたが、「ご・・・」の字を発する間もなく、お義父さんが先に口を開いた。
義父「結婚は許しま~せんっ!」
私「・・・」
まだ試合開始のゴングが鳴っていないのに、強烈なドロップキックを喰らった気分だった。
義母「お義父さん、こうしてわざわざ東京から来てくれたんだから、まずは座って話を聞いてからにしなさいよ。」
義父「絶対に結婚は許しませんっ!!」
その景色は、事前に想像しうる最悪な状況を遥かに超え、まさにテレビドラマの1シーンを観ているようだった
人生において、なかなかこんな場面に出くわすことはない。
人は想像を超えた現実を目の前にすると「無」になるのかもしれない。
私は極めて冷静だった。
そして、この状況をしっかりと目に焼き付けておこうと思った。
私「〇〇さん(妻の名前)と結婚させてください。結婚するために転職もして、今後収入が増える見通しもあります。将来はご両親の面倒を見る気もあります。」
義父「収入が多いか少ないなんて関係ない!何で前に東京で会ってから今まで一度も会いに来なかったんだ。それが気に入らない!」
そう言って、お義父さんは部屋を出て行ってしまった。
私「(いや、そうは言ってもあなたの娘さんはお金がかかるんですよ・・・)」
私はそんな言葉をぐっと飲み込んだ。
お義父さんの気持ちも分からないでもない。
妻は一人娘だから結婚し苗字を変えたら、お義父さんの家系は途絶えることになる。
そして、きっと率直に娘が結婚してしまうことが寂しかったのだろう。
義母「ちょっと、お義父さん!お義父さん!」
お義母さんは、なだるためにお義父さんを追って部屋を出て行った。
隣で座っている妻は、お義父さんの性格を良く知っているからか、こんな状況も想定内という顔をしている。
私は、この状況に正しく対応する方法が思い浮かばず、ただじっと状況を見守るしかなかった。
これは日を改めて出直すかと、その段取りを考えていると再び部屋のふすまが開いた。
お義父さんの 再入場 だ。
義父「ハッピー!ハッピー!!」
空気を読まず激しく騒ぐ愛犬のチワワの「ハッピー」を右腕に抱えて、左手には、何故か缶ビールを持っていた。
ヤケ酒しながら再び説教されるかと思ったが、少し様子が違うようだ。
義父「お義母さん、グラス2つ!」
お義父さんはグラスにビールを注ぐと、無言で私に乾杯を求めた。
言葉にはしなかったが、それが お義父さんなりの結婚の許し だった。
義父「収入が多いか少ないかなんて関係ない。◯◯(妻の名前)とやっていく気持ちがあるかどうかだ。その気持ちはあるんだな?」
私「はい!」
まるで昭和のテレビドラマそのものだった。
妻の実家に訪れる前、結婚している友人たちには、奥さんの実家に結婚の挨拶をしたときのエピソードを聞いていた。
私が聞いた友人の中に結婚に反対されたという人も一人もおらず、みんな意外と優しくてすんなり終わったよと話していた。
(そっかー、昔と違って最近は、そんな感じなのかー。)
と、少し甘く想像していたら、私の目の前に広がった現実は、まるで正反対で昭和の時代にタイムスリップしたような光景だった。
そんなこんなで、どうにか結婚の許しを得た形になり、結婚に向けて話を進めていくことになった。
そして3週間後には、妻の両親に東京に来てもらい、私の両親とともお寿司屋さんで両家顔合わせを行った。
何事もなく顔合わせが終わり、ようやく結婚に向けて順調に進み出したように見えたのだが、思いもよらない形で再び 危機 がやってきた・・・。
【 続きを読む → 第13話:専業主婦とは 】
【 前のエピソードを読む → 第11話:婚約指輪 】