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【連載エッセイ】悪妻のススメ(第13話:専業主婦とは)

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街がクリスマスムードで彩り始めた12月、私たちは調子を崩した。

ただ目まぐるしく忙しかっただけでなく、やはりお互い結婚生活に向かう漠然とした不安からストレスがあったのだろう。

これがいわゆる マリッジブルー というやつなのかもしれない。

妻「婚前契約を結びたいと思ってるの。契約書は準備しておくからね。

妻はさも当たり前のことのように言った。

私「え!?婚前契約?

私は、婚前契約という言葉すら聞いたことがなかった。

聞けば、離婚することになったときを見据えて、財産分与などで揉めないよう結婚前に夫婦間で交わしておく契約のことらしい。

私「そんなのいらないでしょ。

妻「いや、これは絶対に結ばないと!

前向きに結婚に向けて話を進めているときに、離婚することを想像するなんて思考がついていかない。

しかも、よく聞けばどうやら妻は自分の方が財産が多いだろうから、もし離婚したときのために、自分の財産を守りたいと思っているようだ。

私「ふざけるな!僕はそうなっても財産を奪おうなんて考える人間ではない!

もう全てが嫌になった。

婚約破棄だ!

頭の中で全てを白紙に戻すシュミュレーションをした。
すると、これまで積み上げた膨大な時間の損失と、まわりの人たちに掛ける迷惑を考えると、激しいストレスを感じた。


妻ほど理解に苦しむ人は初めてだった。

元を辿れば、妻は結婚したら 専業主婦 になりたいと言っていたのだ。
私もそれが嬉しかったから、様々な価値観の違いはあるけれど 結婚観は近いもの同士 だと思っていた。

だが、それもあらためてよく聞けば、全くの勘違いだった。。

妻「専業主婦って家事はお手伝いさんがして、日中はお料理教室やパン作り教室なんかの習い事をしたり、お友達とホテルランチとかアフタヌーンティーをしながら、日々過ごす人のことでしょ?

私「はぁ~~!?何言ってるの?」


妻が言っている専業主婦は、いわゆる 富豪のマダム だ。

それに対して、私のイメージしていた専業主婦は、家事や育児をしながら家を守る一般的な主婦 だった。

つまり、私たちは「専業主婦」という言葉だけで 結婚観が近いと誤解 して、ここまで来てきたのだ。

価値観の違いに頭を抱えながらも、気持ちを繋ぎとめていた結婚観まで違っていた。

その上、婚前契約を結ぶなんて言っている。。
これはさすがに分かり合えない、、、と絶望感の中、私は茫然と立ちすくんだ。


同じ人間なのに言葉一つとっても考えていることがこんなにも違うのか。

妻の勢いに押されてここまで来たけど、やっぱり1年くらいは同棲してから、結婚について考えるべきだったのかもしれない。

思い返せば、私には自分が明確に「妻と結婚しよう」と決意した記憶がない。

妻と出会ってから、結婚について深く考える余裕もなく、目まぐるしく変化する生活に四苦八苦していたら、結婚が目前にまで迫っていた。

妻の予測不能な言動と、押しの強さに振り回されて、どうやら 自分の気持ちを確かめる ことを忘れていたようだ。

婚約を白紙に戻すか?このまま進めるか?

私は、あらためて結婚について、これからの生き方について、自分自身に問い掛けてみることにした。


なぜ、結婚したいのか?
なぜ、結婚を見据えて妻と同棲しようと思ったのか?

今、婚約を白紙に戻したら、どんな生活が待っているのか?
このまま妻と結婚したら、どんな生活が待っているのか?

結婚に期待するものは何か?
結婚に譲れないというものは何か?

私は、妻との同棲をきっかけに 住む家を変え仕事を変え生活習慣を変え、ありとあらゆることを変えてきた

きっと傍から見たら自虐とも思える行動ができたのは、自分自身に飽きていた からだ。

贅沢な話だが、私はアラフォーまで自由気ままな生活をしてきて、何の不満もない日々の生活に飽きてしまっていた。

結婚を通して何かを変えたかった。

そんな中で妻と出会い、その 常識にとらわれない発想想像の外側から発せられる言動 に魅力を感じていた。

何かを変えたいから 妻の発想に委ねてみる ことで、新しい世界が見えてくることを期待していた。

そうか、私はそもそも 妻の奇想天外さ に惹かれてたのか・・・。

妻のことを変わっている人だと思っていたが、そんな妻に魅力を感じしまった 私も少し変わり者 なのかもしれない。

答えは出た。

婚前契約を結ぶなんて、全く理解できないけど、前に進んでみよう。
思い描いていた専業主婦の姿は全く違ったけど、もう少しだけ前に進めてみよう。

とにかく前に踏み出すことで、新しい景色が見えるはず と期待した。
そして、想像を超える未来が待っているはず と信じた。

私は、婚前契約を結ぶことに承諾した。


すると・・・妻の心が変化した。

妻「婚前契約の内容を考えてみたんだけどさー。

私「あ、そう。どんな内容?

妻「それがさー、離婚してもお互いに何も請求しないっていう契約にしようと思ってたんだけどね。もし将来ひでくんが出世してお金を稼ぐようになって、そのとき私は仕事を辞めて専業主婦になっていて、突然あなたに離婚したいって言われたら、私が困る気がしてきたのよ。。。

私「ほぉ?

妻「そんなことを考えて契約書を書いていたら、なんか婚前契約してもあんまり意味がないような、ふんわりとした内容になっちゃった。笑

私は転職が決まっていて、今後少しは収入が増えることが見えていた。

でも、今後も増え続けていく見通しはなかったし、妻の求めるように 収入を倍 にすることなんて、やっぱり不可能だと思っていた。

しかし、私の将来を見通すかのように、妻はそんなことを言った。

私「そうだ!婚前契約を結びたいなら結べばいい!僕と離婚したら損だと思うほど稼いでやる!

この 婚前契約騒動 が、アラフォーの落ち着き始めた私の心に、もう一度火を付けた。

こうして私たちは、ふんわりした婚前契約を締結して、本格的に結婚の準備に取り掛かった。

続きを読む → 第14話:式場選び
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