【連載エッセイ】悪妻のススメ(第6話:戦いの始まり)
【 最初から読む → プロローグ ① 】
【 前のエピソードを読む → 第5話:同棲】
いよいよ本格的に同棲を始めた。
それが戦いの始まりでもあった。
お互い30代半ば過ぎまで自由気ままに生きてきた者同士だ。
そう簡単にいくはずがなかった。
生活習慣、金銭感覚、物事の捉え方など、すぐにあらゆる価値観の違いが浮き彫りになった。
例えば、妻は髪を乾かした後、ドライヤーのコードを一切まとめない。
妻「どうせまた使うから~」
フックに吊るされたドライヤーから一直線にコードが垂れさがり、床の上を蛇のように這いつくばっている。
洗面台の近くだから濡れると危ないし、コード踏むと足の裏が痛い。。
その状態が気持ち悪い私は毎日コードを巻くが、妻は毎日コードを垂らす。
巻く→垂らす→巻く→垂らす→巻く→垂らす、完全なイタチごっこだった。
一方、妻は洗面所に置いてあるタオルが、以前より濡れていることがストレスだと言う。
それは2人で暮らせば、タオルが濡れるスピードも2倍になる。
些細なことでストレスを感じてしまうのは、これまで自由気ままに暮らしてきたからに他ならなかった。
他にも小さな変化の積み重なり、じわじわと私を苦しめた。
例えば、長年愛用していたシャンプーや石鹸は、自然と妻のものに置き換わった。
毎日飲んでいたビールは、妻が飲めないという理由でジュースのようなサワーになった。
定期的に通っていた英会話のレッスンは、妻との時間を優先するため辞めざるを得なくなった。
友人と飲みに出掛けても、妻からの連絡がプレッシャーになり、やがて自ら行かなくなった。
これまで当たり前のようにあったモノや時間が奪われて、何とも言えない窮屈さを感じていた。
もう少し若い頃であれば、こんな価値観の違いや生活の変化も楽しめたのかも知れない。
しかし、私たちは既にアラフォーだった。
知らず知らずのうち身に染みついた独自の生活習慣や価値観がある。
それらを変えていくことは、とても苦痛を伴うものだった。
そして徐々に気を許してくると、お互い本来の「素」が出てくるものだ。
いよいよ「悪妻」の降臨だ。
妻「どれくらい経ったら結婚を考える?」
私「そうね〜、まだ同棲を始めて2ヶ月だからね〜」
妻「とりあえずゼクシィ買ってみない??」
私「はぁ~?(何を言ってるのだろう?)」
婚約した女性が幸せな結婚式や結婚生活を思い描く時期に手にとる雑誌がゼクシィだ。
当時の私は、婚約なんて最低でも6ヶ月〜1年くらいは一緒に暮らしてみてから考えるイメージでいた。
だから、きっと妻も一時の思いつきで言っているのだろうと聞き流していると、ある日妻が突然泣き出した。
妻「どうしてゼクシィ買ってくれないのぉ〜(涙)」
まるでおもちゃを買ってほしいと、駄々を捏ねる子供のようだ。
泣いている理由が全く分からない。
でも買わないと泣き止みそうにない様子に、私は仕方なく結婚式特集が組まれた「ゼクシィ増刊号」を買いに近くのコンビニへ向かった。
このときのゼクシィの分厚さと重さを一生忘れないだろう。
それから数日経ち、妻からウェブサイトのURLが貼られたLINEが送られてきた。
妻「このウェディングフェアに行ってみようよ!」
私「ウェディングフェア?・・・って何?」
ウェディングフェアが、どんなものかすら知らなかった。
LINEの中のURLをクリックして見ると、ウェディングフェアとは結婚式場が開催している結婚式の体験会であることを知った。
いや、いや、いや、、、
なんかとんでもなく勝手に話が進んでるし・・・
もしかすると妻には妄想癖があるかもしれない。
あまりにも理解できないので、何を考えているのか聞くのも恐ろしく、その話題には触れずに過ごしていると・・・
妻「ウェディングフェア予約した?した?え、してないの!?何で~〜?」
と、また騒ぎ出した。
妻はやりたいことがあると、あらゆる手段を考えて、何がなんでもやろうとする。
まわりに反対されても、なんとかやり過ごして、もう忘れたかなと思っていても、機を見てあの手この手を使って何度もチャレンジする。
とにかく しつこい のだ。
自分の欲望にブレーキを掛けない。
それが悪妻の特徴だ。
それは、時に強力な突破力となり、大きな成果をもたらすのだが、それに巻き込まれる人(私)は苦労が絶えない。
私がウェディングフェアの申し込みに躊躇していると、妻はしつこく要求した。
やがてそのしつこさに耐えられなくなって渋々申し込むと、「わぁ~申し込んでくれて、ありがとう!」なんて無邪気に喜んだりする。
どうやら妻には、私の心労を汲み取ることはできないようだ。
ただでさえ住み慣れない家でストレスの多い生活を送っていて、そのうえ妻から突拍子もない要求が飛んでくる。
きっと大変だろうと腹を括って始めた同棲だったが、それは想像以上に過酷なもので、私のメンタルをエグるように蝕んでいった。
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