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【連載エッセイ】悪妻のススメ(第9話:所得倍増計画)
【 最初から読む → プロローグ ① 】
【 前のエピソードを読む → 第8話:金銭感覚 】
私「いやいやいやいや・・・僕はサラリーマンなんだから、そんなすぐに給料は上がるもんじゃないよ。」
妻「じゃあ、どうするの??」
私「転職すれば、少しはお給料が上がるかも知れないけど、今の会社の仕事は楽しいし・・・」
妻「・・・」
私「僕のまわりも共働きの夫婦が多いし、「専業主婦」は諦めて共働きしかないでしょ。」
私は、至極まっ当な話をしたと思ったのだが、妻の捉え方は違っていた。
妻「共働きは、当初の予定と違うよね!」
私「いや、だから・・・(独身時代と同じ生活がしたいなら、そうするしかないって意味なんだけどな)」
妻「ちょっと、確認なんだけど、あなたは仕事が好きなんだよね?働きたくない訳じゃなくて、この先もずっと一生懸命働きたいんだよね?それなら転職しよう!それも給料が倍くらいになる転職を目指そう!」
私「・・・(唖然)いやいやいやいや、何言ってるの?そんな給料が倍になる転職先なんてある訳ないでしょ!」
妻「だって転職したら給料は増えるんでしょ?仕事に自信もあるんでしょ?じゃあ、大丈夫だよっ!」
無邪気すぎるにも程がある。
妻は一般企業で働いた経験もなければ、私の働く業界に詳しい訳でもない。
なぜ大丈夫だと言えるのか?根拠なんてある訳がないと思った。
一見すると、妻は前向きな話をしているように聞こえるが、要は「自分は生活を変えたくないから、あなたが変わって」と言っているのだ。
ここまで自分中心に物事を考えられるのも、一つの才能なのかもしれない。
こうして私の給料倍増計画は始まった。
私は履歴書と職務経歴書を用意して転職先を検討した。
お給料が倍になる可能性がある会社となると 超一流企業 しかない。
そのような会社には簡単には入れないし、このタイミングで自分に合う求人があるとも限らない。
(そもそも給料を倍にするなんて無理でしょ・・・)
あれこれ検討している私を見て、妻はこう言い放つ。
妻「とりあえず転職エージェントに行ってくれば?今日にでも行ってくればいいじゃん。」
私「えっ?きょ、今日?まぁ、予約できたら・・・」
もし、このとき自分で転職エージェントに行くタイミングを決めていたら、何も今日じゃなくても良いだろう と、先延ばしにしていただろう。
企業の求人はタイミングがあわなければ、応募すらできないものだ。
振り返れば、このとき妻の指示に素直に従い、その日のうちに転職エージェントに行ったのが運命の分かれ道だった。
私「転職理由は、お給料を増やしたいからです。年収が倍になる転職がしたいです。」
そんな非常識なことを言う私に、転職エージェントの担当者は諭すように話す。
担当者「転職で年収が増える場合は、一般的に50〜100万円くらいが相場です。ひとまず想定年収が高い企業で、ご紹介できる求人を検索してみるので、保有スキルや資格などを教えて頂けますか?」
その結果、想定年収「応相談」となっている求人が2件 ヒットした。
要は、私の職種で 給料が倍になる明確な求人はなかった のだ。
(まぁ、そうだよね・・・)
と思いつつ、私はその2件の求人に応募することにした。
一週間くらいすると、そのうちの1社から一次面接に呼ばれた。
面接の前夜、家では妻による面接シミュレーションが行われた。
希望年収を聞かれたときの答え方には指示が飛ぶ。
妻「今の収入を倍にしたいですって言ってね!」
私「いやいやいや・・・おかしな人だと思われるから。」
妻「そんなことないよ!だって収入を倍にするために転職するんでしょ?」
私「まぁ・・・」
妻「ちゃんと伝えないと!最低でも200万円アップだよ!かつその後の昇給に伸び代があるところ!面談で希望年収を聞かれたら、必ずそれ以上で答えること!」
私「いや、でも一般的には50〜100万円くらい増えるのが良いところだって言ってたよ。さすがに200万円は無理じゃない?」
妻「は!?何言ってるの!今の会社に何の不満もないのに転職するんだよね?お給料を倍にするための転職だよね?」
私「まぁ・・・」
妻「なら50〜100万円アップくらいの転職ならしない方がいい!ちゃんと最低でも200万円アップって伝えて!」
私「・・・まぁ、言ってみるけど。」
妻の圧が強すぎて、私はそう答えるしかなかった。
一般的な常識は、妻にとっての常識ではない。
妻は私の年収を上げるという目的を達成することしか眼中にないのだ。
冷静に考えれば、私の年収を上げなくたって、妻が買い物を控えればいいだけの話だ。
いつの間にか、この貯金が減り続ける生活から抜け出すには、自分の給料を増やすしかない と私は思うようになっていた。
軽い洗脳である。
そうして背水の陣で面談に挑むと、自然と発する言葉にも熱が帯びる。
私「私は、今結婚を考えていて、給料を増やすために転職活動をしています!希望年収は現年収の200万円以上アップでお願いします!」
よく言うな・・・と思う自分がいる一方で、面談中も妻の顔がチラつき迷うことなく言い切った。
数日後、無事に一次面接通過の連絡があると、二次面接も同じテンションで挑んだ。
そして、一週間くらいすると面接の結果がエージェントからショートメールで届いた。
「合格です。年収は現年収の220万円アップです。」
私は、スマホを見ながら「よしっ!」と小さくガッツポーズをした。
そして、さぞかし喜ぶだろうと思い、すぐに妻に報告した。
妻「ん〜、そっか〜、やっぱり300万円アップくらいはいけたんじゃないかな~。」
(そうきたか・・・)
希望通りの結果なのに悔しがるなんて、その貪欲さには 驚きを超えて尊敬 した。
こうして、数ヶ月後には、倍とは行かなかったものの、私の収入は増える見通しがついた。
その後、一定の生活費を渡して妻に家計を任せてみると、妻はようやく食品や日用品の相場を知り始めることになる。
そして、元々の買い物好きも講じて、やがてお得なスーパーマーケット巡りに没頭していった。
でも、やっぱり 人は簡単には変わるものではない。
家から少し離れたスーパーが安いと知ると、嬉々として出掛けるのだが、夢中になって買い過ぎて、荷物が重いから帰りはタクシーで帰ろうと言う。
ある時、埼玉県に激安スーパーがあることを知ると、週末にレンタカーを借りて行こうと言う。
どんなにお得なものを買ったとしても、スーパーに行くのにタクシー代やレンタカー代が掛かるのだから、全くお得ではない。
全てがそんな調子だから、本人は色々と考えてお得な買い物をしているつもりなのだが、実際の支出は全く変わっていなかった。
妻と一緒に暮らし始めて5ヶ月、これから更に私の貯金は加速して減っていくことになる。
【 続きを読む → 第10話:プレプロポーズ 】
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