見上げればいつも四角い青空#32 雨の季節の再拝観を誓う
アスタリスクのような苔、シダのような苔、モジャモジャとした苔など数えきれないほどの種類の苔が広がっている。今年ももうすぐ暮れていくというこの時期に、掃いても、掃いても落ちてくる枯れ葉を寺の方々が丁寧に何度も掃く。
見ているだけでもふかふかとした感触が伝わってくる、ベッドのような緑色の苔の上にひらひらと赤いもみじが舞い落ちる様は、今この時期に見ることができる最上のコントラストのようにも思える。
ここは、京都にある西芳寺、通称「苔寺」と呼ばれる。
うちのおくさまのたっての希望により、今回訪れる機会を得た。
下世話な話、拝観料は4,000円以上、そして拝観時間を選択し、拝観者数を制限する。訪れる前のボクは、「そんなに??」と思っていた。
だけどここには、そうするだけの価値がある。
西芳寺のHPによれば、「観光ブームに乗じて闇雲に参拝者を増やすのではなく、寺院本来の宗教的雰囲気を保ちながら静かにお参りいただきたいという願い」が綴られているが、ボクにも、この苔寺を拝観した人が心ゆくまで堪能するには、拝観者の制限が必要不可欠だと気づく。
そして、その願いを実現するべく、たくさんの人々が、苔生した庭を最高の状態で体験できるように、随所に心が配られる。
本堂で写経したのちに、庭に出る。触れたくなるような苔がそこかしこに広がる。池を取り囲むように巡らされた道を歩き、木々と共生する苔を堪能する。ゆったりとした時間と空気感が満ちている。せかされることのない、他の拝観者との適度な距離感が心地よい。
帰り際、コンシェルジュの女性に「ベストシーズンはいつですか?」と尋ねてみる。
「春の桜の季節もいいですよ。雨を待つ夏も秋の紅葉も、春を待ち落ち葉に囲まれた冬も。実は、梅雨の時期、雨に濡れる苔も美しくて、お勧めですよ。また拝観ください。」
いつ見ても美しいという自負に裏打ちされている言葉とともに、彼女は笑って見送ってくれた。