学生気分のさとり世代へ
単純に魔がさしたのだ。
どんな味がするのか試したくなった。
もともと私は5月に第一志望だったテレビ会社に落ちた時点で就活をきっぱりと辞め、4月からは海外にでも行くか教員免許でも取ろうかとうだうだ考えていた。そのため「そろそろ卒業式の袴でも選ぶか〜」と周りが卒業の支度を始めるまでは就職する気なんてサラサラなかったのだ。
状況的にイギリスでのワーホリは難しいと諦め、明確な進路も決まらないままダラダラと過ごしていた2月下旬頃、沖縄出身の彼氏の家で妙な郷土料理を食べた。
黄色く油っぽいものが浮いている汁の中に短いパスタのようなものが入っている食べ物。
それを食べるのに勇気は相当必要だったが、一口食べたら意外にも一気に完食できるほどの味がした。
瞬間、不意に魔がさし、その日の夜テレビの制作会社を紹介してくれるというバイト先で知り合った先輩に連絡をした。
妙な郷土料理が案外美味しかったのと同じで、社会人も案外楽しいのかもしれないと思ったのだ。
10人中9人が不味いという料理でも、私は残りの1人になれるかもしれない。
なによりも食わず嫌いは良くない。例え結果的にそれが涙が出るほど苦くて不味くても、味見してみることは人生において割と重要なのかもしれない。
そんな"かもしれない"と、妙な使命感を重ね続けての連絡だった。
結果としてそこの制作会社は面談の時点で落ちたが、それをみかねてなのか、惰性で2年半バイトとして働き続けた情報番組のプロデューサーに「そのままうちで働けば?」と言われたので甘えることにした。社会人になる3日前、3月29日のことである。散々遅刻やら寝坊やら勤怠報告不足でクレームを入れられてたのによく雇ってくれたと感心する。
そしてついに私は4月1日から朝の情報番組のADになってしまった。
学生生活が終わっても緩く就職活動をしながらフリーターとして親に甘える気満々でいた為、朝の通勤電車で何度も「誰かこの現実をエイプリルフールだと言ってくれ」と嘆いていたが、残念ながら電車は寝落ちてしまった私を見事に職場まで運んだ。
まだまだひよっこの社会人2日目だが、10人中9人が不味いという料理の正体は、残りの1人は味の感想さえ言えずに去った者だったのだと痛感している最中である。
がしかし、とりあえず一年はその苦さに耐えるのも良いかもしれない。
22年間甘味しか食べてこなかったし。
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