短編【スターゲイザー】overture第二話「歌に乗せて」
ライブ会場は体育館近くの集会ホール。暗幕で覆い、それなりにライブハウスっぽくしている。
「ステージには魔物が住んでいる」どこの言葉だかわからないが、先輩が言っていた。
1組目のバンドは緊張していることが、観てるこちら側に伝わってくるほどだった。曲の間にMCを入れていたが、まだ盛り上がらぬライブの空気に呑まれているようだった。1年生バンド、オープニングには荷が重い。
まだそれほど観に来る人たちも多いわけじゃない。
2年生達の2組目が始まった。
次が、僕だ…。
観てる場合じゃない、歌詞とコードを何度も確認した。部屋でも、人のいない川辺でも、スタジオ借りても、部活でも同級生の前でも、何度も歌った。
でも、逃げ出したい。早く今日が終わって欲しい。
そんな気持ちでいっぱいだ。
そうだ、ニカさんを想って歌おう。
こんなライブ観に来ないだろうけど、届くように歌おう。
2年生バンドが終わった。
いよいよ、僕の番だ。誰も観てやしないよ、そう、誰も僕なんか観てやしない。
「新入生弾き語りSHOW〜!」
先輩のMCを皮切りに、僕はステージに立った。
高ぶる緊張感、ほどよい興奮
「歌います。2曲ともGREEN GROUNDてバンドの曲で、まずNight Light」
マイク越しに自分の声が聞こえた。
そして、ギターを鳴らし始めた。
『Night Light』
夜を見ている 今 ひとり
崩れ落ちそうな 今この時
星は夜の傷跡のようで
置き去りにした 君への想い
何を言えばいい? どうすればいい?
放つ 悲しみの空へ
消えそうな想いを 感じれなくなりそうな
日々に閉ざされた想いを
忘れてしまおう 終わらせてしまおう
でもこんなにも無数の 無数の痛みが
残る想いなら 君に届いて 同じ空の下
そう信じたくて たまらなくなって泣いた
夜の中で…
許せずにいた あの頃あの罪
純粋が欲しくて 汚れた日々
それでも光は射す 束の間の君にも
今 駆け抜けた街の片隅に この夜が黙って
夢置いてくのを見たよ
重なりあった幾つもの場面に 優しい風が吹いたよ
消えそうな想いに 感じられなくなりそうな
日々に閉ざされた想いに
そっと触れる瞬間感じたよ
生きていくことを
…アウトロのギターを弾き終えた。
拍手が聞こえた。
ほどよい興奮状態。
「ライブで盛り上がったあと静かにさせてしまってすみません笑。次で最後の曲なので、もう少しの辛抱を。……みなさんは、憧れている人はいますか?僕にはいます。でも手が届きません。」
おい、何を言ってるんだ…。
ステージには魔物が住んでいる。こういうことか?…
「そんな気持ちが届くかわかりませんが、次の歌、歌います。『遊乱飛行』」
『遊乱飛行』
通り過ぎてく世界に手を伸ばして触れようとする君
うまく言えない 耐えきれない
青空 無くして静かに 壊れて 消えた…
いつも独りで居たけど 君と話しをしていた
黙り合う時の中で あの日を繰り返し
空白を埋めようとしていただけのこと
You go back 光に
ただ君と 同じ想いでいたかった
遠い日に呼びかける 「何を思い残したか教えて」
うなだれて手繰り寄せる この手は寂しさに震えて
どこに行けばいいの?
You go back 光に
まだ無理だと 何が過ぎるのを見ていた
広い心が欲しくて
青空になりたくて
You go back 光は
照らすよ また君に会う 当てのない場所
手に入れて失って
手に入れて失って
何度でも夢を見る 傾いた想いを乗せて…
oh…
本当は綺麗なストリングスと共に終わるアウトロ、アコギのみのストロークで終え、逃避したかった時間帯は見事に過ぎた。
「ありがとうございました」
思いのほか、拍手をしてくれた。
終わった、体中の力が抜けた。
「よかったよ〜!」
「なかなかだったなー!」
「よかったじゃねぇかぁ」
軽音の皆んなが出迎えてくれた。
「ありがとうございます…ちょっと外の風浴びてきます笑」
外にでると、思いのほか人がごった返していた。
ふと、見ると 暮磯ニカさんの姿が見えた。
え?!ライブ…?観てた……?
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