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【感想log】39歳<原題: 서른 아홉>

「賢い医師生活」で大好きになった俳優、チョン・ミドさんがメインキャストを務めている本作品
ずーっと観よう観ようとは思っていたのですが、先延ばしに先延ばしを重ね、賢い医師生活を見てから数年たった今、ようやく観終えました!

今まで観た韓国ドラマの中でも、かなり上位にランクインするほど、個人的にはとても好きな作品でした!
ネタバレなしとネタバレありの両レビューを残すので、良かったら読んでいってください☆彡


まだ未視聴の方へ(ネタバレなし)

主人公は39歳の親友3人

主人公の3人は、高校生の時からの親友
3人で家族のように過ごすうちに、いつの間にか39歳という人生の半ばに差し掛かっていました

それぞれが医師、演技指導者、美容部員、と自分の道を歩み、人生の大きな選択をいくつか済ませた年
それでも、まだまだ先の人生を楽しく歩みたい、老後ともいえない、人生の真っ盛り

そんなある日、3人はある大きな出来事に直面します。
仕事に恋に家族に友人に、3人を取り巻く色々な状況や人々、かけがえのない3人の友情と、その大きな出来事をどう消化し、どう乗り越えていくのかがこの作品のテーマになっています

この作品は、1話で最初に、最終話の結末を知らされます。
結果をわかっているうえで、その結果に行きつくまでの過程がリアルに、丁寧に描かれており、それがこの作品の一番の魅力だと思います。

少し気になる方はぜひ、1話だけでも見てみることをおすすめします!

魅力あふれるキャスト陣

韓国の芸能界に詳しくない私でもわかるほどの豪華なキャスト陣

主人公たちの年齢が39歳であることもあって、ベテランの俳優さんたちがふんだんに使われており、彼らの演技力が十分すぎるほど活かされた作品でした。

個人的に、演技がとくに印象に残ったのが、主人公の3人、チョンミドさん、ソンイェジンさん、キム・ジヒョンさん、そして、チョンミドの彼氏役のイ・ムセンさんです。

まずチョンミドさん

『賢い医師生活』で彼女を知った方も多いのではないでしょうか?
『賢い医師生活』で演じた役柄とはかなり方向性の違うキャラクターだったにも関わらず、とんでもなく自然でした。

今回の役、チャニョンは、さっぱりとした性格で、感情豊か。男気もあって、頑固な一面も。おしゃれで、どちらかといえばかっこいいタイプです。女性らしく理性的なソンファ(賢い医師生活)とはかなり違う部分も多かったと思います。

彼女の役作りは話し方や表情にとどまらず、ちょっとした動作にも及んでいて、細かい役作りに感心しました。

例えば、主人公3人が並んでソファに座るシーンでは、チャニョンだけ少し足を開いて座るんですね。そうすることで、彼女のかっこよさというか、ちょっと男っぽい部分も表れていたと思います。


次にソンイェジンさん

『愛の不時着』や『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』などでも知られたベテラン女優。さすがの安定感でした。
作品の主人公は3人とはいえ、かなりソンイェジン演じるミジョに焦点があてられる部分が大きかったと思います。

なにより、彼女は泣くシーンがかなり多かったのですが、一回一回の泣き方が状況ごとに違っていて、ただ途方に暮れて静かに涙を流したり、怒りのあまり涙があふれたり、悲しさに涙が止まらなかったり。
全ての涙から感情が伝わってきて、演技なのが信じられないくらいでした。

次はキムジヒョンさん

彼女は、様々な作品で名脇役を演じている印象があり、今回のようにメインキャストを張っている作品を観るのは初めてだったのですが、あれだけ様々な作品に引っ張りだこで出演している理由がよく分かりました。

『D.P.』などではかなりしっかりした、凛とした女性を演じており、その印象が強かった分、この作品での、どこか抜けていてふわふわした雰囲気をまとったジェヒの演技は、同じ方が演じているとは思えないほど違う人間に見えました。

最終話で彼女がお母さんに泣きつくシーンがあるのですが、それがまるで泣いている幼い子供とそれを一生懸命なだめる母親のように見えて、39歳になっても、何歳になっても、子供にとって親は親で、親にとって子供は子供なのだというメッセージを強く感じたシーンでした。

最後にイ・ムセンさん

彼もまた、数々の作品で名脇役を演じてきたベテラン俳優です。
私も『サバイバー 60日間の大統領』や『静かなる海』でこの俳優さんのことはよく覚えていたのですが、ここまで彼の演技力が光った作品をみたのはこの作品が初めてでした。

彼の演技力のすごさを一言で表すとしたら、”自然さ”だと思います

彼の演じるジンソクは、普段はあまり感情を表に出さない性格で、彼女であるチャニョンが年下であることもあり、年上の男性らしい、どっしり構えた雰囲気があります。

その分、感情をあらわにするシーンでは、彼の感情がより鮮明に伝わってきて、そのシーン全体が名シーンになっていることが多かったと思います。
普段は感情をあまり出さない人が、思わず感情が溢れてしまう、そういう演技が本当に上手で、全くわざとらしくなくて、本当に自然でした。


作品全体を通して、作り物っぽさというか、わざとらしさをほとんど感じなかったのが素晴らしかったです

このセリフを言わせたいがために、こういう脚本になっていて、こういう演技をさせてるんだな、と思う瞬間が全くと言っていいほどなくて、常に自然

個人的には、この自然さの演出に成功した大きな理由の一つが、上記4人の俳優さんたちの演技のすばらしさだったと思います。

キャラクターのリアルな心情描写や、自然な雰囲気で演じてる感をあまり感じない作品が好きな方には特におすすめな作品です
ぜひ観てみてください!

視聴済みの方へ(ネタバレあり)

チャニョンとミジョとジェヒ

39歳という年齢設定が絶妙だと思いませんか??

40歳という、ひとつの区切りの目の前
20歳はまだ子供な気がするし、30歳だと失ってから歩む時間の方が長すぎる

高校生で出会って、39歳まで親友と過ごしてきたからこそ生まれる空気感と、その存在を失うことの重み

この作品は、「39歳」を題名にしているだけあって、39歳という年齢設定だからこそ成立する雰囲気と状況が、作品がこれだけ魅力的な理由だったと思います。

チャニョンの告白とジンソクの反応

作品中で一番と言っていいほど心に残ったシーン

ジンソクが告白するとき、「ジュウォンのことなんだけど…」と切り出した瞬間に「病気なの?」と動揺して切り返してしまうチャニョンの反応が、自分が病気になったからこそ、『悪いこと』といえば、『病気』という選択肢が一番に出てくるようになってしまったのがよく分かる反応でした。

そして、チョンミドさんの演技で、チャニョンも思わず口をついて出てしまったことが伝わってきました。彼女の心の不安定さがより伝わるシーンだったと思います。


何より、チャニョンの告白を聞いた時のジンソクの反応

自分がこんな状況になったことはないけれど、なんて自然な演技だろうと息を呑みました。

これから先も、来年も、再来年も、当たり前に存在していると思っていたことに、この状況になって初めて気づく。そして、自分が勇気を出すのがどれだけ遅かったか、彼女に今から返せるものがどれだけ少ないか、思い知る。

今まで長い間、こんなに苦しませてきたのに。ようやく彼女を幸せにできると思ったのに。どうしてよりによって、今、彼女に、こんな不幸が。

色んな気持ちが言葉にならずにあふれて、思わず顔を背けて、顔をくしゃくしゃにして、涙がこぼれて、絞り出した言葉が
「君が?」「君が、、、どうして?」

これまでずっと、気持ちをあまり表情に出さず、年上の男性らしくふるまっていたジンソクの子供のような泣き方に、「逝かないで」と全身で引き留めるような縋りつき方に、観てるこちらも涙を禁じ得ませんでした。

縋りついて泣くジンソクを抱きしめながら、「ごめんね」と泣いて謝るチャニョンの姿からも、残していく側の苦しさ、無念さ、申し訳なさ、そんな思いが伝わってくるようでした。

本当に、この2人の俳優でなければ成立しなかったシーンだと思います。
2人の演技力の凄まじさが爆発した、作中指折りの名シーンでした。

両親の気持ち

子供に先立たれる両親の想いは、想像するだけでも苦しくなります。

特に心に残ったのが、改装した店の倉庫で二人が寝るシーン

「電気ボイラーも結構温かいのね」
「家よりも居心地がいいな」

「娘が改装してくれたからかしら」

そう言って涙があふれるお母さんと、涙ぐむお父さん

30秒にも満たない短いシーンでしたが、この先、この部屋で寝るたびに、温かさを感じるたびに、ふたりは娘の温かさを思い出すのだろうか、と心が温かくなる、心が痛くなる、そんなシーンでした。

孤児という境遇

この作品では、血のつながりのない家族、というテーマがちりばめられていたと思います

孤児であるミジョとその家族
同じく孤児だったソウォンと兄となったソヌ
別の父親を持つジュウォンと父として育ててきたジンソク

血のつながりがなくても、それぞれが愛し合い、家族としての絆を築いてきました。

特にミジョが家族に、チャニョンの病を伝えたとき、お姉さんが何も言わずにすぐにミジョを抱きしめて
「大丈夫。私がいるわ」
そう言った時、ミジョと家族の絆の強さを観た気がしました

逆に
ミジョと、ミジョに寄生しようとする実母
ソウォンを愛するソヌと、分かり合えない父親
後ろめたさからまっすぐ愛せなかったソンジュとジュウォン

血のつながりがあっても、家族としての絆を築けない関係も描かれていて、血のつながりも重要だけど、お互いを尊重し合う気持ちがなければそれも揺らぎうるし、血のつながりを超えるつながりも築き得るというメッセージを感じました。

それぞれの選択

チャニョンは結局、抗がん剤治療をせず、自然に逝くことを選びました

私の親しい人が治療をしない、と言い出したら、きっと私は治療をするよう説得すると思います。これは残される側のエゴでもあるんでしょう。どんな姿になっても、どうかこの世で自分のそばにいてほしいと思ってしまうのは自然な感情だと思います。

一方で、この作品で初めて、治療をせずに逝きたい、という思いをリアルに理解できたと思います。今までは、「完治する可能性が0ではないのに、治療しないのは何故なのか」と疑問に思う気持ちの方が大きかったのですが、作品を観終わった後は、自分も治療しないかもしれない、と思うほど気持ちが変わりました。

助かる可能性が限りなく低いのであれば、最後の1日まで自然に過ごしたい

自分の家で何気ない一日を過ごして、いつも通りのご飯を食べて、大事な人たちとたわいもない話をして、最後の1日も、また明日も当然にやってくるかのように過ごしたい

そう思うのも、自然な感情なんだと理解できました


チャニョンとジンソクは婚姻届を出さず、恋人として逝くことを選びました

最初チャニョンが婚姻届けを拒んだときは、ようやく不倫として見られることもなくなり、最後に一番愛する人の妻になれるのに、どうして拒むのか、全く気持ちがくみ取れなかったのですが、ミジョが理由を聞いた時にチャニョンが一言

「私の愛が色褪せちゃう」

その一言を聞いて、ようやく納得がいったような気がします

チャニョンの性格的にも、不倫のような関係を続けていることにずっと苦しんできたんじゃないでしょうか。
それでも、自分に恥じない自分でいるために、どんなに愛していても関係は持たず、綺麗な関係を保ってきました

彼が離婚して、ようやく自分が妻になれる日が来たけれど、自分が彼と一緒にいれる時間はもうほとんど残っていない

それなら「周りにどう見られようが綺麗な関係を保ってきた、尊い愛」を貫き通したい。ここで結婚して人生の終わりのぎりぎりで「略奪婚」に成功した女みたいにはなりたくない、そういう思いがあったのではないでしょうか

彼女は彼女らしく、ここまで守り通してきた関係を、その関係のまま終わらせたかったのではないかと思いました


ミジョとジェヒはチャニョンのためにパーティを開くことを選びました

チャニョンがミジョに渡したのは自分の訃報を伝えるための連絡先リストでしたが、その選考基準が「自分がご飯に誘われたら行きたい相手」と聞いて、リストの人たちを集めてブランチパーティーを開きました

成人式や結婚式のように、人生の区切りには、お世話になった人や大切な人たちに会って、直接感謝を伝える場が設けられますが、葬式だけは、本人が彼らに感謝を伝えることはできません。

それをチャニョンにさせてあげたミジョとジェヒの選択は、素晴らしかったです


ミジョはチャニョンに病気を伝えることを選びました

そもそもの話ですが、ミジョがチャニョンに病気について正直に伝えたからこそ、チャニョンは自分の最期を選ぶことができました。

チャニョンも自分がいなくなった後のことをたくさん考えて、自分にできることをたくさんしてきたからこそ、

チャニョンを亡くした後、
ジンソクはチャニョンの家で生き続けることで
両親は誕生日のたびにケーキが届けられることで
仲間たちはジンソクのためにサムギョプサルを食べるたびに
そして、チャニョンを知る人は映画を観るたびに

チャニョンの存在を感じ、少しでも寂しさを和らげることができたはずです

チャニョンが病気の存在に最後まで気づかず、何の準備もせず、本当の意味で自然に旅立ってしまっていたら、残された人はこういう日々を送ることはできなかったでしょう


チャニョンの不治の病を中心に、キャラクターそれぞれが何を思い、何を感じ、何を選択していくのか。それぞれの選択が重なって、今があって、今の中で未来のために何をするのか。

観ているこちらも様々な感情を味わい、深く考えることのできる作品でした

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