見出し画像

【短編小説】いろんな恒星を見に行こう!【SFホラー】


1隻の宇宙船が、今地球から飛び立とうとしていた
目指す先はなく、乗っている者たちは旅行気分そのものだった

『奥様、今回は様々な恒星を見に行きたいとのことですが、やはり最初は生物の源とも言える太陽から観るのはいかがでしょう。今回私が搭載されている艇は、太陽ほどの温度では機能に支障をきたさない造りとなっております。』
「そうね!そうしましょう!あなたたちも、いっつも太陽を見てみたいと言っていたものね?」
AIと話をする女性は、後ろにいる家族に話しながら、くるりと体を回らせた
「いいね!ずっと見てみたかったんだよ!」
「でも、あんまり近くに行って、吸い寄せられないの?それに、眼がダメにならないか心配だよ」
男の子2人がそう話す
1人は冷静に、太陽光からの障害を気にしたが、AIはそれにこう返した
『大丈夫です、アラタ様。この艇はとても優秀ですから、皆様の目に入る太陽光は、普段地球上で画像や映像として見ているものに近い発光にしているようです。ですが、それでも画像で見るものよりも、実物で見てフレアや黒点がしっかりと視認、観察できます。』
「そっか、良かった…」
安堵と喜びで、緊張した表情を緩めた

「それで?お嬢様は今回どんな恒星を見たいのかな?」
父と思われる男性が、小さな女児の前で見を屈めて質問をした
「わたしはね、あれがみたいの!べか?だっけ?あれもこうせいなんでしょ!?ずっとみてみたかったの!」
『カリア様、恐らくそれはベガではないでしょうか?こと座α星であり、こと座の中で最も明るい恒星だと記録されています。』
「はは、さすがカリアだな。もう宇宙地理学に興味を持ってるとは。で、合ってるかな?」
AIと父親に言われ、少女は力強く頷いて話す
「うん!せんせいにね、おしえてもらったの!せんせいがいちばんすきなほしなんだって!だからね、みてみたかったの!」
そのやり取りが微笑ましいと言うように、少し離れた位置にいた母親と兄弟は優しく笑っていた
『では、まずは太陽、その次にベガを見に行きましょう。ベガの次からは、私の選出した恒星を見に行きましょう。準備はよろしいでしょうか?』
「「いいよ!」」
家族皆がそう言うと、艇は地球から離れて行った

『まず初めに太陽ですが、いくらこの艇が優秀で高性能であっても、失明の可能性は捨てきれません。先程大丈夫だと言いましたが、それは船内が明るければの話です。太陽光の素晴らしさを知ってもらうためには、船内を暗くする必要がありますので、皆さんにはこの眼鏡を装着してもらいます。』
AIがそう言うと、何処からか黒い眼鏡が現れた
「これ、偏光サングラスじゃないか?」
父親がそう言うと、AIはすかさず返した
『えぇ、ただの偏光サングラスです。ですが、これが無ければ、皆さんは失明の可能性が出てきますので、しっかりと着けてください。』
AIがそう言うと、艇の大窓から数km先に太陽が見えてきた
『太陽の側まで来ました。やはりこの艇は優秀です。およそ8kmまで近づいても、太陽の重力に引き寄せられません。素晴らしいものです。』
サングラスをかけた皆は、すぐ近くの太陽に釘付けであった
「すごいな、黒点がはっきりと見えるぞ…」
「父さん、黒点ってやっぱりすごく大きいんだね!この近さでも僕たちくらいの大きさだよ!?」
AIが艇の性能に興奮している傍ら、皆はすぐ近くの太陽に興奮していた
『やはり、我々人工知能と人では、考えることが違いますね。それでは学習のお時間です、皆様』
そう言うと、AIは太陽について語り始めた
『天の川銀河において、太陽ほどの恒星はありふれています。今現在確認されている天の川銀河の恒星の中ではありふれていますが、太陽系という、小さな恒星と惑星の集まりで言うと、珍しいとされています。それがなにかわかりますでしょうか、カリア様』
「わたしたちちきゅうじんのそんざい!」
『その通りです。太陽系の物理的中心にある太陽は、地球上の生物全ての母と言っていいでしょう。太陽が常に起こしている核融合反応は、地球だけでなく、他の惑星にも影響を及ぼしています…。』
つらつらと、そして淡々と太陽の説明をするAIは、どこか楽しそうであったが、その説明の長さからか、皆は少しずつ疲れて行った

『申し訳ありません。皆様の体力、精神力、そして集中力を考慮せずに説明してしまいました。次のベガからは気をつけます。』
人の形があれば、深々と頭を下げているのだろうと軽く想像が出来てしまうほどに、AIは謝っていた
「僕は楽しかったよ!」
『そう言っていただけて助かります、ハルト様』
「カリアもたのしかったよ!せつめーながかったけど!」
AIは、あるはずのない心に、大きな釘が刺さるような感覚を覚えた
「ははは、ワダチは宇宙学を中心に調整したからね。まあ、それが心っていうことだよ」
『そう、認識させて、もらいました…。それでは、お次はベガに向かいます。』
心なしか、少し悲しげな声色でAIは案内を続けた

『到着しました。ベガ、こと座α星であり、全天21の一等星の1つです。ベガについての有名な話と言えば、七夕伝説の彦星と織姫になります。ベガが織姫に対して、彦星はアルタイルだと言われています。そして、ここからが少し難しくも、知識欲が満たされる話になります。まず、ベガは恒星の中でもよくある、光度を変える変光星であるのですが…。』
またしてもAIは、皆の疲労を気にすることなく、淡々と長い説明を始めた
だが、先程とは違い多少短くなっていた
「さ、さすがワダチね!宇宙学から基づいた説明と、地学や科学も練り込んでくれて、聞いていて楽しかったわ!」
母親はそう言うと、手を叩いてその場を収める
「わだちは、もうすこしおはなしをみじかくしたほうが、いいとおもうよ?」
『ぜ、善処いたします…。』
カリアにそう言われ、AIはやはり悲しそうにする
『では、次はここから少し戻りまして、おおいぬ座を形作る1つ、シリウスに向かいたいと思います。皆様、少し揺れますのでお気をつけください。』

シリウスに到着し、シリウスに関しての説明をする
そこから更に、地球から近いグリーゼ832、約7,890光年先のペルセウス座S星、さらには太陽系最大の大きさを持つスティーブンソン2-18(現代では宇宙最大)、太陽の約100倍の質量を持つR136a5、地球から最も遠いエアレンデルらを巡り、最終的には最近発見された小さな恒星を見に来ていた
『こちらの恒星、最近発見されたYU7389-2となります。地球から約150億光年離れておりますが、ビッグバンよりも前に生まれたとされる恒星の1つです。』
「“1つ”ってことは、これ以外もあるの?」
当然の疑問が浮かぶアラタは、思わず聞いてしまう
『えぇ、そうです。今から約5000年ほど前の地球人も、ビッグバンより以前の星を見つけていたと言われています。そして、その星を見つけてから約4000年後から、約50年ほどの感覚で、この周辺の星が見つかっているのです。今でこそビッグバンがこの宇宙を創り出したという話が否定されていますが、当時の支持率は異様と言えるでしょう。』
そうして、AIがまた説明を始めようという時に、艇に異変が起き始めた
重力変換装置への過負荷、電気系統のケーブルへの過負荷、さらには灯りも点滅していた
「な、なに?いったい何がこの艇に起きてるというの?」
母親は不安に駆られ怯え始め、子供たちもそれに影響され泣き始める
「ワダチ、何が起こってるのかわからないのか?」
父親がそう聞くと、AIは返事をする
『この周辺の星間と光の屈折率、重力変化率を調べましたところ、この星のすぐ近くに黒い巨大な星があることがわかりました。その星は恒星ではないようです。それから、ブラックホールでもないとわかりました。』
「超重力、ということか…。逃れる方法は?」
AIはしばらく間を空けてから答えた

『・・・ございません。』
その言葉を境に、艇の電力が大きく消耗し、灯りはもちろん、重力変換装置も機能しなくなっていった
「うわあああああ!!!!」
「おかあさあああん!たすけてえ!」
船内では名前の無い異様な星の重力に引き寄せられ、人はもちろん、設置物の多くも引き寄せられる
設置物は乗っている者を押し潰すようにして、片側に寄ってしまった
『もうしわけ、ごごごごご、ござ…ザザザザ…』
ついにはAIすらも機能しなくなった艇は、黒い星に引き込まれ、重圧によって潰れ切ってしまった

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集