【フリーテキスト】四季
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本当は知っている。春風の中にわざと置いてきたのだもの。本当は知っているの。大好きをありがとうと言い換えたのは冬。冬と春の境目。
空が欠ける夏ほど、暑いのだ。溶けた訳じゃないよ、と君は言う。欠けたことと溶けたことと、失ったものは同じなのに何が違うのだろう。それを知るのは多分、欠ける前の空だけだよ。
君が落ち葉を踏み鳴らす音をずっと聞いていたいと思う。循環する。土が君を吸収してしまう。君は冬を超えて春と夏にまた誰かと会うための準備を始める。それを恋の音だと私は凪いだ。また会うのは私じゃないことを落ちた黄色が止まれとささやいた。
「眠れない夜があるのなら、眠らない夜があってもいいんだよ。」
優しげな言葉に棘を感じてしまう。このチクリと痛むのは何だろうか。私は痛いよ、と口だけ動かした。
それから、眠る君の隣が一番眠れないのだと気が付いた日に、眠らない夜がやってきた。
あぁ。君が眠れるのは私が眠れないからだったらいいのにな。
そう思いたくはないのに、思う夏。秋。それから。