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「Not ヒロイン, I'm ヒーロー」舞台脚本(6/25〜30上演ver.)

※この脚本は、6/25〜30に築地本願寺ブディストホールにて
シバイバ主催の社会派短編演劇祭 『SEED for the Future vol.1』で
上演された当時のものです。



【あらすじ】

恋愛や趣味に生きるOLライター・律子は、ひょんな事から女性政治家・光を取材することに。政治に関心なんてなかったのに、その出逢いは価値観を変えて行く…踏み出す勇気さえあれば、人はいつだってヒーローになれる。意見を持つ事が、はじめの一歩です。

シバイバ演劇祭『SEED for the Future vol.1』パンフレットより

上演時間:約20分
監修:三浦まり(上智大学法学部教授、「さらば、男性政治」著者)



「Not ヒロイン、I’mヒーロー」

作・演:梅村実礼

【登場人物】

・ 白鳥 律子(30・シーン0は33)IT会社勤めのライター
・ 服部 慎也(40)律子の上司
・ 清川 光 (56)女性政治家。衆議院議員
・ 桜井 真琴(42)光の秘書
・ 桐島 譲 (38)光の事務所スタッフ


 ○  シーン0・選挙演説


 白鳥律子(33)、中央で板付き。
ゆっくりサスが入る。

 律子「お集まりの皆さん、こんにちは(こんばんは)。この度、杉浦区議会議員に立候補いたしました、白鳥律子です。最近まで私は政治に関心なんてない、ただのOLでした。おじさんのセクハラを笑顔で交わして、ちょっとした不正は見ないふりをする。それが賢い女性だと信じて、生きてきました。女性の多くは、ヒロインになりたいとは思っても、ヒーローになりたい人は少ないでしょう。でも、人生何が起こるか分からない。三年前、私がヒロインを辞めたように」

 M1・CI。

律子「掻い摘んでお話しましょう。私がここに立つまでの物語を。
『Not ヒロイン、I’m ヒーロー』」 

照明・CO。
律子、後ろへ。ジャケットを脱いで椅子にかける。


○  シーン1・律子のオフィス(朝)


SE・男性政治家の裏金問題のニュース。 

SE 「日本未来党の松笛昂議員が、複数の企業から不正献金を受け取っていた問題で・・・」

照明・FI。
白鳥律子(30)がウキウキした様子で、パソコンやスマホをチェックしている。
下手から直属の上司、服部慎也(40)がタブレット片手にオフィスへ入ってくる。

 服部「朝からご機嫌だねぇ」
律子「服部さん! おはようございます」
服部「白鳥さんの記事読んだよ。[マッチングアプリにいるハイスペ男の攻略法] SNSでバズりまくってるらしいね」
律子「ありがとうございます!」
服部「そんな君に、ぴったりの案件持ってきたよ」

 M1・FO。
服部、チラシを律子のデスクに置く。 

律子「・・・なんですか、これ」
服部「女性政治家・衆議院議員、清川光に単独取材」
律子「え、私がですか? 政治は専門外なんで・・・」
服部「(上を指差しながら)色んな角度から女性のリーダーに着目した記事を増やすんだと」
律子「私、今騒がれてる裏金議員?とかも全く知らな・・・」
服部「俺、この後子供の授業参観だから。じゃ、よろしく」
律子「ちょっと、服部さん!」

服部、下手前へ去る。律子、服部を追いかける。 


○  シーン2・光の事務所(午後)


清川光(56)と桜井真琴(42)が下手後ろから話しながら入ってくる。

 真琴「光さんの動画、再生回数伸びてませんねぇ」
光  「もう少し堅い感じで、紹介した方が良かったかしら」
真琴「いやぁ、それはそれで・・・教材ビデオみたいになっちゃうような」光 「やっぱりそうよねぇ」
真琴「チャーミングな光さん、素敵だと思うんですけど」

真琴、光にパソコンの画面を見せに行く。

光 「あ、新しいコメント来てる・・・痛いおばさんで草」
真琴「光さんは痛くないです! ただ、どうしても見る側の先入観というか・・・政治家全体のイメージの問題かもしれません」
光 「なるほど・・・さすが、真琴さん。いつも率直な意見助かるわ」
真琴「いえいえ、私はただの一般主婦の意見しか出せませんから」

 光、席に戻ろうとする真琴を引き留めて。

 光 「真琴さん・・・くどいようだけど、何度だって言うわ。ただの主婦の意見が、何より大切なの。誰だって意見を言っていいんだから」
真琴「・・・そうでしたね。私たち国民の第一歩は、意見を持つこと。無関心が一番の毒ですもんね」
譲 「コーヒー入りました〜」

 下手後ろから、桐島譲(38)が光と自分のコップ、真琴の水筒を持ってくる。

 真琴「いつも上がりの私の分まで、ありがとう」
譲 「ここで僕がこうしてコーヒーを淹れられるのも、光さんと真琴さんのおかげですから」
光 「譲さん、ナイスフォロー」
譲 「光さん、後であの取材の件、お話していいですか」
光 「もちろん。コーヒーブレイクの後は、しっかり仕事しなくちゃねぇ」

帰ろうとする真琴に、光がお菓子を2つ取って。

 光 「真琴さん、お迎え間に合う? これ久志くんの分も」
真琴「ありがとうございます」
譲 「久志くんに、また野球しようって言っといてください」

 光、咳をしている。
真琴、光が本調子じゃないことに気付いて。 

真琴「光さん・・・くれぐれも、ご無理なさらず」
光 「・・・分かってるわ」
真琴「では、お先に失礼します」
光 「お疲れさま」

 真琴、下手へ去っていく。
照明・地明かり20%
M2・CI

光、譲、真琴それぞれ講演の準備をしている。 

○  シーン3・光の講演会(夕方)

 
NA 「それでは、ご登壇いただきましょう。衆議院議員、清川光さんです」

照明・FI(客電まで点ける)
光、講演をしている。真琴、下手の席で講演を聞いている。

光 「では、日本で女性の国会議員が初めて誕生したのはいつだと思いますか?(観客二人に聞く)・・・正解は、戦後1946年です。39人の女性の国会議員が誕生し、当時日本は世界でも女性議員が多い国でした。2024年現在、日本の人口はほぼ男女半々なのに、衆議院議員の女性の割合は1割。先進国で一番少ないどころか、世界で168位になってしまいました。どれだけ日本が遅れているのか・・・数字で表すと分かりやすいですね。そこで、どうでしょう、今度の衆議院議員選挙に出馬してみませんか?(観客二人に聞く)」

律子、客席後ろからそろりと歩いてくる。

 光 「じゃあ、そこのあなた」
律子「は、はい? 私ですか?」
光 「ええ。選挙に出てみない?」
律子「・・・いや、いやいや。絶対、無理です」
光 「理由をお聞かせ願えますか」

 律子、光のまっすぐな視線に逃れられず、少し考えて。

律子「・・・まず、政治についてよく知らないからです。こんな無知で、能力も経験もない私が、選挙に出るなんて・・・お金も凄くかかるんですよね?」
光 「無知で、能力と経験がない人は、どうして選挙に出てはいけないのですか?」
律子「それは・・・政治は選ばれるべくして選ばれた人にしか、出来ないですよ」
光 「親の七光りの、世襲議員でも?」
律子「・・・はい、そういうお家に生まれているというか。これも、親ガチャって言うんですかね。私は生まれも普通のサラリーマン家庭で、ただのOLです。議員に立候補なんて、家族に絶対反対されますし。会社は辞めないといけないし、友達も減りそう。そもそも今の政治を変えてやる!みたいな自信も考えもない・・・」

 我に返って、居心地悪そうな律子。
光、律子を見て微笑んだ後、視線を観客に向ける。

光 「なるほど、素直なご意見ですね。今、私が問題視している事をほとんどおっしゃってくださいました。ありがとうございます」

光、律子に軽くお辞儀して、律子も会釈。
律子、そのまま客席下手の一列目、通路側の席に座る。

光 「選挙に出ませんかと私が聞くと、ほぼ全員から同じ答えが返ってきます。そう言わせてしまう、自分が本当に情けない。国会議員は、特別な選ばれし者ではないのに」

講演に実は来ていた服部、舞台上の下手後ろの席に座る。
律子、メモを取り出しペンを走らせる。

 光 「今の国会を見て下さい。時代錯誤の年配男性の巣窟です。様々な所から献金をもらい、的外れな政策が量産され、国民の声を無視して法案がスピード可決されています。知識や能力を持ったふりをした人たちが、自分たちの利益のために政治をしている。彼らが望んでいるのは、一人でも多くの国民が政治に無関心、あるいは自分たちの駒になること・・・かもしれない」

 律子、メモを取るのも忘れて聞き入っている。

光 「それでも、流れは少しずつ変わってきています。この前の統一地方選挙では、パリテ議会がいくつか誕生しました。一緒に歩むパートナーのため、生まれてくる我が子のため、育ててもらった親御さんのため・・・自分の利益ではなく、誰かの未来のために戦える人は自然体で、とても美しいです。みんなが自然体で政治を考えて、自然体のみんなが参加できる政治を作って、みんなで社会を変えていきませんか。一緒に迷いながら、私も皆さんの隣を歩ませてください」

光、深くお辞儀(M3・CI)、上手へ去っていく。
律子、熱烈な拍手をした後、呆然と座っている。
真琴、壇上下手から降りてきて。

真琴「白鳥さん、ですよね?」(M3・FO)
律子「あ、はい」
真琴「清川光の秘書をしております、桜井です」
律子「白鳥律子です」

名刺交換する、律子と真琴。

真琴「では、控え室にどうぞ」

真琴に連れられ、律子も壇上下手に戻る。
照明・客電CO、舞台明かりのみ。

真琴「白鳥さんが今まで執筆された記事、興味深く拝見してます」
律子「恐縮です・・・私、エンタメの記事しか書いていないのに」
真琴「いえいえ、個人的にはXのライターアカウントの投稿も好きですよ」
律子「え?」
光 「私のお気に入りの記事は[恋愛バラエティ番組から学ぶ、賢い女性の立ち回り方]ね」
律子「き、清川先生!」

 律子、上手から突然現れた光に驚きながら名刺を渡す。

 律子「白鳥律子と申します」
光 「清川先生じゃなくて、光って呼んでくれる?」
律子「えっと、ひかり・・・さんも、恋愛バラエティ番組とか見られるんですね」
光 「政治家がそういうの見ていたら、イメージが崩れるかしら?私、昔からあいのりとか結構好きで見てるのよ」
真琴「光さん、この後もあるので・・・」
光 「はいはい・・・律子さん、さっきはいきなり当ててごめんなさいね。律子さんだとは思わなくて」
律子「アハハ・・・とても、びっくりしました」
光 「でも、さすがライターさん。私の伝えたい事を汲み取ってくださったのね」
律子「いや・・・それはたまたまというか。私、政治の事は本当に無知で・・・女性の衆議院議員が1割しかいない事も、今日初めて知りました。それよりまず、衆議院議員が何人いるのかも・・・」
光 「あなた、真面目なのね」
律子「え?」
光 「説明書を隅から隅まで読んでから、機械を触るタイプ?」
律子「・・・どうでしょう」
光 「最初から全部知ろうとしなくていいのよ。記事、楽しみにしてますね。では・・・」

光、真琴と下手へ立ち去ろうとする。律子引き留めて。

律子「あの、取材させてください」
光 「もう伝えたいことは伝えましたよ」
律子「いや、でも」
光 「律子さん。今日私の話を聞いて、何か感じるものはあった?」
律子「それは・・・もう、たくさん」
光 「じゃあ、その感じたものをありのまま、律子さんらしく書いてみてください」
律子「・・・ありのまま、ですか」
光 「政治に純粋無垢な、あなたにしか書けない記事がある」
律子「・・・」
光 「文は人なり。律子さんの文章は、読んだ人の心にスッと入ってくるわ。あなたが書く私は、どんな人物になるのかしら・・・白鳥律子節、期待してるわね」

光、下手にハケようとして立ち止まる。

光 「あ、後継者を募集してるのは本当なのよ」
律子「はい?」
光 「私は、時間が限られてるかもしれないから」

光、カツラを取る。

真琴「ちょっと、光さん! 何して・・・」
光 「(真琴を制止して)これが今の私・・・そろそろ後継者を探さないとね。ま、議員は辞めてもまだまだ粘り強く生きますよ。髪直して来ますね」

 光、律子に手を振って下手へ去っていく。

律子「光さんは・・・闘病されているのですか?」
真琴「・・・半年前、ガンが再発して。この後も、治療を受けに行くんです」律子「そう、だったんですか・・・」
真琴「白鳥さん、この事は綺麗さっぱり忘れて下さい」
律子「・・・え?」
真琴「まだ世間に公表していない事なんです。記事にも絶対に書かないでください」
律子「分かりました」

律子、下手にハケ。
照明・ブルー転。
M4・FI 


○  シーン4・光の事務所(午後)


 SE・ニュース。

SE 「今朝起きた人身事故の影響で、山手線は未だ運転を見合わせています。日本未来党の松笛昂議員の不正献金問題で、続報です・・・」

 真琴、椅子を片しながら。
照明・明転。

 真琴「あの時、どうして律子さんに病気を告白したんですか?」
光 「んー、そうねぇ・・・直感?」
真琴「はぁ・・・ご自身の事ですから、私がとやかく言うのもあれですけど」
光 「律子さんには、真琴さんと同じものを感じたの。彼女はただのOLで、あなたはただの主婦だった」

 光、下手後ろから入ってくる。

 真琴「・・・確かに、光さんは”ただの誰か”が好きですよね」
光 「街頭演説してた時に、真琴さんがたまたま通りかかって意見を聞いて・・・あなたは、しっかり答えてくれた。それが全ての始まりだった」

 譲、下手前から事務所に入ろうとして、少し様子を伺う。

 真琴「あの時は、いっぱいいっぱいで・・・光さんに文句をぶつけただけですけどね」
光 「いいえ。あの時、真琴さんが私を頼ってくれたおかげで、子どもへの補償が足りてない事を再認識出来た。区議員選挙でその意見を取り上げて、たくさんの票をいただいて・・・私は政治家として、一歩を踏み出せたのよ」真琴「光さん・・・」
光 「自分を頼りにしてくれる人がいる、私にとってそれが一番の薬なのよ。困っている人を助けたいと思っても、私が気付けるのは・・・ほんの一握りだから」
譲 「・・・ただいま戻りましたー」

 譲、明るく挨拶して入ってくる。

 光 「譲さん、おかえりなさい」
真琴「おかえりなさい」
譲 「・・・アハ。いい言葉ですよね、おかえりなさいって」

譲、ぼんやりと思い出すように。 

譲 「前の事務所では、言ってもらった事なかったなぁって・・・あの時、真琴さんに声を掛けてもらってなかったら・・・今朝電車に飛び込んでいたのは、僕だったかも」
真琴「声を掛けない方が難しいですよ。衆院議員会館のエレベーターで8階を押そうとして、ずっと躊躇ってたんですから」
譲 「ハハ・・・押せなかったんですよね、あの日は。毎日押してたのに」
真琴「それで話を聞いてみたら、あの傲慢尊大で有名な議員の所で働いてるって言うじゃないですか。よくあんな人の下で5年も・・・たくさん頑張ったんですね」
譲 「光さんと真琴さんが助け舟を出してくれたおかげで・・・」
光 「船に乗る事にしたのは譲さんよ」
譲 「え?」
光 「乗れない人もいるからね。手を差し伸べても、乗り込む勇気を出せなかったり」

 譲、これまでを思い浮かべて。

 譲 「・・・確かに」
光 「譲さんも、真琴さんも、私が漕ぎ出した船に乗ってくれた同志なんだから。二人とも勇者の一人」
真琴「・・・みんな勇者なんだぁ」
光 「そう。全員が勇者でも、ヒーローでもいいじゃない?」
譲 「そうですね。自分も誰かのヒーローになれるように、頑張ります」
光 「その意気よ!」

盛り上がって、手を合わせる三人。
M5・FI 

光 「真琴さん、今日お弁当?」
真琴「いや、違います」
光 「じゃあ、ランチは、ヒーロー集団の決起会ってことで、お寿司にしましょう。先行ってますね」
真琴「譲さんも早く来てね」

光・真琴、下手へ去って行く。
照明・FO。 


○  シーン5・律子のオフィス(午後)


律子、上手からスマホをチェックしながら歩いてくる。
照明・中央サス。

律子「あ、光さんの記事アップされてる・・・え?(M5・CO)女性政治家特有のお気持ち表明演説・・・最後は、お涙頂戴でガンを告白? ちょっと、なにこれ・・・」

舞台照明・FI。
鼻歌を歌っている服部が現れて、律子が詰め寄る。

律子「服部さん! どういう事ですか? 光さん、ガンは公表されていなかったんですよ」
服部「ウチが一番にすっぱ抜いたから、こんなにバズったんでしょ。白鳥さん、いつも人の事考察して、好き勝手書いてるじゃん。病気を告白されて、感情移入した?」
律子「・・・病気は関係ありません。私は光さんの存在に、感銘を受けたんです。光さんは私たちと同じ目線で、チャーミングで・・・」
服部「あー、見事にあの女性議員の術中に嵌ってるね。政治家なら情に訴えかけるんじゃなくて、具体的な政策の話をするべきだと思うけど」
律子「・・・」
服部「じゃ、白鳥さんは例の推し活の記事進めて・・・」
律子「私、光さんの事務所に行ってきます」
服部「は?」
律子「光さんに謝ってきます!」
服部「あ、ちょっと! 白鳥さん!」

律子、下手に走っていく。服部も追いかける。


○  シーン6・光の事務所(午後)


光と真琴、下手後ろから入ってくる。

光 「ま、遅かれ早かれ公表しなきゃいけなかったことなんだし」
真琴「それにしても、この書き方は・・・」
光 「私があの時、打ち明けてなかったら・・・律子さんは書きたい事を書けていたかしら」
真琴「え?」
律子「・・・あの!すいません!」

 律子、息を切らして事務所に入ってくる。

 真琴「・・・律子さん」
律子「光さん、本当に申し訳ありません。謝っても済む問題じゃないのは分かってます。せっかく、私の記事を楽しみに信じてくださっていたのに・・・」

頭を下げ続ける律子。

 光 「でも、あなたは書いてないんでしょう?」
律子「え・・・?」
光 「だって今回の記事、書き方があまりに男性的な表現なんだもの。律子さんはあんな言葉を使わない、そうでしょ?」
律子「光さん・・・」
光 「あなたの芽を潰したのは、男性の上司たち?」
律子「・・・(ちょっと頷いて)」
光 「でた」
真琴「ここでも、男性政治」
律子「男性政治?」
光 「男性が自分の利益のために権力を振るう政治のことよ」
真琴「これは国会だけじゃなくて、企業や学校にも当てはまるんです」
光 「ねぇ、律子さんが書いた元の文章は残ってないの?」
律子「あ・・・あります!」

 律子、パソコンを取り出して、二人に見せる。
少しして、光と真琴顔を見合わせて。 

律子「あ、あの・・・どうでしょうか」
光 「律子さん・・・あなた、最っ高ね!」
真琴「律子さん節がよく表れてる」
光 「まずは、私のスピーチライターにならない?そこから少しずつ政治の勉強しましょうよ、ね?」
律子「え?」
真琴「あー、お蔵入りしたのが本当に悔しい」
光 「この文章、どうにか公開出来ないかしら?」
律子「それは・・・難しいと思います。ごめんなさい」

律子、諦めたように笑ってパソコンをしまう。

光 「律子さん・・・ありがとう」
律子「・・・え?」
光 「あなたには、勇気がある。そして、言葉で人を救う才能があるわ」
律子「・・・」
光 「でもね、あなたには、あなたの守るべきものがあるわ。だから、私の事は気にしないで。あなたのやり方で、あなたが出来る事を少しずつやって行ってね」
律子「・・・私のやり方で、私の出来ること」

M6・着信音。
照明・サス。
律子、電話に出る。

律子「もしもし・・・部長。清川光さんの記事なんですが、共同執筆から私の名前を消していただけませんか・・・はい。いえ、記事のインセンティブも辞退させてください。はい・・・失礼します」

律子、覚悟を決めた顔で下手に歩いて行く。

○  シーン7・光の事務所(夕方)


M7・CI。梅雨明けのニュース。
照明・FI。
光と真琴、デスクで作業している。譲が息を切らし、慌てて帰ってくる。

譲 「光さん! 真琴さん!」
真琴「あ、おかえり・・・」
譲 「X、X見ましたか?!」

M7・FO。

光 「ん? Xってなんだっけ?」
譲 「Twitterですよ、今大変な事になってます!」 

譲、光と真琴にスマホを見せる。

真琴「律子さんの、ページ?」
譲 「律子さん、Xで会社が記事の捏造をしたって告発したんですよ。それが今バズってトレンド入りしてて」
真琴「ええ!?」

 光、スマホを手に取る。
M8・FI。

光 「・・・Not ヒロイン、I’m ヒーロー」 

光、タイトルを読んだ後、笑い出す。
律子が下手から走って、事務所に入ってくる。

光 「おかえりなさい、ヒーローさん」

光、律子に手を差し出す。
律子、その手を取って笑う。

M8・盛り上がる。
暗転。

〈完〉



【シバイバについて】

この作品が上演された演劇祭は、シバイバという社会問題を専門家から学んで、書いて、創り出す場所で生み出されました。

https://shibaiba.com/


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