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【超シュール系絵本】おさる日記

今回紹介する「おさる日記」はイラストレーターの和田誠さんが絵ではなく文を書かれている絵本です。和田さんが絵も文も書かれている絵本は多いですが、文のみというのは珍しいと思います。
内容も子どもが読む絵本としてはちょっと異色です。小学生の日記形式で書かれているので、小さい子でも読める文体ですし、村上康成さんの絵もかわいらしいのですが、なにぶん内容がシュールなので幼児や小学生低学年向けという感じではありません。でも小さい子の反応も見てみたい絵本です。(あ、つまり子どもから大人まで読んでみてほしい絵本です(;'∀'))

×月×日
 おとうさんがかえってきたので横浜までむかえにいった。おかあさんといきました。
≪中略≫
おとうさんはおみやげをぼくにくれた。おさるをくれた。まだちいさいおさるです。

「おさる日記」文:和田誠

全編、しんちゃんという男の子の日記になっています。最初の日は、海外から帰ってきたおとうさんがちいさな”おさる”をお土産にくれたということが書かれています。

×月×日
 きょううちでしくだいをやっていると、もんきちがぼくのかたにつかまっているので、ノートをのぞいているようにみえたので、おさるがしくだいをやってくれるといいな、とおもった。
≪後略≫

「おさる日記」文:和田誠

毎日、しんちゃんはおさるのことを書いています。小学生の日記なので、ひらがなが多かったり「しゅくだい」が「しくだい」になっていたり、最初はちょっと読みにくい感じもあります。でも、途中からその文体に慣れていき、だんだん自分がしんちゃんになって、おさるの成長を見守る気持ちになっていきます。
ちなみに、数えてみたら日記は全部で20日間ありました。最初の10日間ほどは、おさるがどんどん成長していく、ほのぼのとした内容に感じます。でも大人の読者であれば、後半になっていくにつれ少しずつ違和感などを感じるのではないかなと思います。小さいお子さんならきっと何も考えずに読み進めていくと思うのですが、大きいお子さんならばやはり最後の方で不思議だなぁとかこの先どうなるんだろう?と思い始めるのでないでしょうか。

問題は最後のページです。最後の最後、さらっと書いてある2行に驚かされます。一瞬考えたあと、えッどういうこと?という気持ちになるのですが、このオチが、小さいお子さんだとパッとわかりづらいと思うんです。
お子さんに読んであげて、もしくは自分で読んでもらって、最初は全く説明せずにどんな反応をするか見てほしいなと思います。そのあと、必要に応じて説明してみてください。

このレビューを読んでも、一体どういうこと?とモヤモヤするだけだと思うので、ぜひ、読んでみてください!


おまけ。↓

この作品は一九六六年「話の特集」に掲載、一九七四年『日本ほら話』(講談社)の中の一遍として単行本化されました。

「おさる日記」の奥付より

巻末の奥付を見ると「おさる日記」は元々は絵本ではなく、「にほんほら話」という和田さんの短編集にも収録されている短編小説だったようです。きっと絵本にすることは想定していなかったんじゃないかな、と思います。

だって、作品が最初に発表されたのは1966年…!そう、半世紀以上も前のこと(絵本は1994年発行)。この時代に発行された日本の絵本は「いないないばあ」、「ぐりとぐら」、「だるまちゃんとてんぐちゃん」といった乳幼児向けの絵本が多かったことを考えると、この「おさる日記」は絵本向きじゃないですよね。

今回、【超シュール系絵本】と書きましたが、シュールな絵本って一言で言っても、ダジャレが入っているもの、落語絵本のようなオチがあるもの、子どもから見た大人などちょっと皮肉っぽい目線が入っているもの(ヨシタケシンスケさんの絵本とか)、ファンタジーの要素が入ったもの(「パンダ銭湯」など)など…色々ありますよね。
でも、基本的にシュールな絵本ってクスッと笑える感じにまとまっている気がします。そう考えると、この「おさる日記」はクスっと笑えるというより、ゾワっとくる不思議体験。。シュールではなくて、超シュールだな、と。なんて表現していいかわからないので超をつけてみました。

絵本って、共感する、感動する、ためになる、笑える、冒険の世界に出かけられる…だけじゃないんですよね。これにハマったお子さんは、なかなかツウだと思うので、絵本から一歩踏み出して星新一さんのショートショートなどを読み始めるのもいいかもしれません。

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