親友の名前はヒトラー!? ―Trevor Noahの"Born a Crime"より
今年もTrevor Noah(トレヴァー・ノア)の自伝"Born a Crime"を授業で読んでいます。南アフリカ共和国出身のコメディアンであるTrevorは、世界的に有名といえる存在ですが、日本ではまだそこまで知名度が高くないのが残念です。
それでも、"Born a Crime"は学生のウケがよく、学期末には「この本に出会えてよかった」という声をよく耳にします。教員志望の学生の中には「教員になったら絶対に自分の生徒にも紹介します!」と言う人もいます。どうしてこれほどのインパクトがあるのか――それは未知の世界を教えてくれるから、それもユーモアを交えて伝えてくれるからこそ、心に響くのだと思います。
心に残るエピソードは数多くありますが、なかでも大きな衝撃を受けたのは、親が子どもにヒトラーやムッソリーニといった名前をつけたという話です。実際、Trevorにはヒトラーという抜群にダンスの上手い親友がいました。アパルトヘイト下の南アでは、白人が発音できる名前(つまり英語名かヨーロッパ的な名前)をつけるよう求められたそうです。南アの人々は聖書から、またはハリウッドの有名人やニュースで耳にする政治家から名前を選びました。Trevorの祖父は、断片的な情報から<ヒトラー>を高性能の戦車かなにかだと勘違いしていたようです。Trevor自身も、親友の名前になんの疑問も持っていませんでした。
ヒトラーやムッソリーニという名前に、西洋人はショックを受けるけれど、それは自分たちが蒔いた種だとTrevorは主張します。教育を怠り、社会から隔絶し、情報を遮断した結果なのです。アパルトヘイト後のハイスクールでも充分な歴史教育は行われていなかった、とTrevorは振り返ります。試験のために名前やキーワードを覚えるだけでなく、自分で考え、過去の出来事が、今、自分たちが生きている世界にどのようにつながっているのかを理解することが大切なのだと。
あるとき、ユダヤ人学校で開催された多文化フェスティバルのようなイベントに、親友ヒトラーを含むダンスチームのDJとしてTrevorも参加しました。どんな騒動が引き起こされたかは、ここではあえて触れません。日本語版『生まれたことが犯罪!?』も出版されています。ぜひ、手に取ってみてください。苛酷な環境の中でも常に前向きに生きる母とTrevorの姿から、きっと勇気と希望をもらい、励まされることでしょう。
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