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【ROOM COURSE ー 多元的な環境のためのデザイン】第4回「循環する環境と経済」
ミラツクでは2020年より、異分野との交わりから時代性を掴むコミュニティの場として、メンバーシッププログラム「ROOM」をスタートしました。
ROOM COURSEは、連続セッションの形を取って一つのテーマを深掘りしていくアクティビティです。2023年は複数のテーマ(環境、デザイン、教育、を予定)について深めていきます。
2023年5月に開始する「ROOM COURSE ー 多元的な環境のためのデザイン」は、「環境」をテーマにした全5回の連続セッションです。第4回はCircular Economy Hub編集長の那須清和さんをお招きして「循環する環境と経済」 をテーマにお話いただきました。
|本編|
|ゲスト|
那須 清和さん
Circular Economy Hub 編集長
大学(紛争学専攻)卒業後、教育関連企業・経営支援団体を経て、Circular Economy Hubに参画。また、2020年にサークルデザイン株式会社を設立する。サーキュラーエコノミーに特化して、共創・調査・研修などを行う。2004年に実施したエクアドルでの鉱山開発を巡る紛争のフィールドワークをきっかけに、環境再⽣と⼈間のウェルビーイング向上の同時追求に関⼼を抱き、後にサーキュラーエコノミーを追求・推進するようになる。
|ご登壇内容|
那須さんには「循環する環境と経済」のテーマについて、主に4つのトピックスについてお話いただきました。
1. サーキュラーエコノミーとは?(背景・概要・原則・CE思考等)
2. 国と都市で広がるサーキュラーエコノミー
3. サーキュラーエコノミービジネスモデルと事例
4. サーキュラーエコノミーと社会・自然環境との接続点
1. サーキュラーエコノミーとは?
(背景・概要・原則・CE思考等)
まず那須さんにサーキュラーエコノミーの概念について、オランダ政府が発表している概念図に沿って説明していただきました。
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廃棄物を出すことが前提の「Linear Econony(直線型経済)」、リサイクルを中心とする「Reuse Economy(リユース経済)」とは異なり、設計の段階から廃棄物が出ないようにするのがサーキュラーエコノミー。
今までは経済が成長するにつれて環境負荷も高くなっていましたが、経済繁栄も含めた人間のWell-beingが豊かになるほど、環境もよくしていく必要があり、サーキュラーエコノミーは一つのツールだというお話がありました。
また、サーキュラーエコノミーを実践する上で知っておくべき知識としてお「エレンマッカーサー財団のCE3原則」や「バタフライダイヤグラム」※2についても丁寧に解説していただきました。
【エレンマッカーサー財団のサーキュラーエコノミー3原則】
1.廃棄と汚染をなくす
2.製品と原材料を最も高い価値のまま循環させる
3.自然を再生する
那須さん翻訳
※2「バタフライダイヤグラム」について、詳しくはCircular Economiy HubのWebサイトに解説がありますので、そちらをご覧ください。
那須さんはサーキュラーエコノミーをあえて「循環経済」と言わないようにしているとのことです。
「循環経済」という言葉になった途端、何かをこう循環させないといけない、次の人に回さなきゃいけないというイメージになってしまうのです。
サーキュラーエコノミーを実現するにはモノの循環だけでは駄目なんです。投資家や消費者の意識を変えていかなければなりません。また、設計段階から廃棄物を出さないビジネスモデルの変化も必要です。
「サーキュラーエコノミー」の定義については、学術の世界では100以上もあり、定まっていない、というお話もありました。那須さんがお考えになっている定義案についてご紹介いただきました。
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2. 国と都市で広がるサーキュラーエコノミー
次はサーキュラーエコノミーの概念がモノからどんどん広がってきて、都市については「サーキュラーシティ」と言われるようになったというお話。
事例としてEUのツイン・トランジション※3やEU政策の変遷についてご紹介いただきました。
※よりグリーンでデジタルな経済への移行に力を入れる政策のこと
先月(2023年6月)、ヨーロッパの3都市にヒヤリングをさせていただきました。社会的にサーキュラーエコノミーを進めていくことはもちろん、立場の弱い方々にも配慮するということを1つの政策のフィルターにしてる、ということをどの都市の担当者も共通しておっしゃっていました。
EUではサーキュラーシティとして宣言する都市があり、具体例として、オランダ・アムステルダムの政策についてお話いただきました。
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3. サーキュラーエコノミービジネスモデルと事例
企業の取り組みとして、アクセンチュアが発表している5つの循環型ビジネスモデルについてご紹介がありました。
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例えば、ロールスロイスの航空機エンジンの事例ですと、航空機のエンジンという非常に重要な部分を航空会社が保有せずロールスロイス側が保有し、飛行時間ごとに、課金するサービスモデルになっています。
〇航空会社のメリット
●メンテナンスの負担がない
〇ロールスロイスのメリット
●飛行データの蓄積ができる。それにより最適なルート提案ができる。
●寿命後のリサイクルがしやすい
●サービス間隔が改善
ロールスロイスのほか、「洗濯」というサービス売る「Homie」や食べられるパッケージを提供する「Notpla Ooho」というスタートアップの取り組みをご紹介いただきました。
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4. サーキュラーエコノミーと社会・自然環境との接続点
「循環型社会」と「循環型経済」という言葉の整理についてご説明いただきました。日本において「循環型社会」というと、那須さんにお話いただいたようにまだまだリサイクルによって資源を循環させていこうというイメージが強いと思います。ただ、海外でいう「循環型社会」は、物質やエネルギーのほかに、富や権力、知識や技術といった目に見えないものも循環させていくという意味があるそうです。
自然とサーキュラーエコノミーの接点について、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブを三位一体で進めていかなければならないというお話もありました。
ある企業がパッケージラインの全てをバイオ由来にする戦略を描いたそうです。しかし、データに基づいて調査をすると生物多様性のフットプリント(土地利用の変化や劣化など)が過度に大きくなり、結果として意図せずCO2排出量を増やすことが分かりました。
そこで戦略を転換して、プラスチック量を減らしたり、リサイクル材含有率の向上に貢献するような戦略に変えたのです。
恐らく、カーボンニュートラルという観点だけでは、バイオ由来のパッケージを使い続けることになったでしょう。このようにCO2削減だけではなく、サーキュラーエコノミーやネイチャーポジティブの三位一体で考えていくことが必要です。
最後に、改めてサーキュラーエコノミーとは何かをまとめていただき、レクチャーセッションはクローズしました。
|参加者ディスカッション|
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参加者:
単純に見た目がエコそうなプロダクトを作っていても何も問題が解決しないことがどんどん明らかになっていったと感じます。
やはり、ガバナンスが重要な点として上がってくると感じました。
那須さん:
ガバナンスの部分は、本当に難しいところだと思います。いかに行政が企業や市民の方を巻き込むかが重要で、国内だけでなく、海外でも同じように課題になっています。
参加者:
サーキュラーエコノミーの中にメンタルという概念は含まれていないという話をグループディスカッションでしていました。
捨てる対象物に対して「イオマンテ」という概念がアイヌにはあり、供養意識を通じてモノと繋がり直すことで自分がケアされ、モノの手放しが進むという例があります。自分もそれを実際体験して、自分がケアできるものだけに囲まれる生活をするとサーキュラーエコノミーの概念に沿った生活感に変わりました。
このように心のケアの回路を開くことによって、難しいとされている文化や価値観の変容もできるようになると思います。
サーキュラーエコノミーについて基礎からビジネス事例、社会や自然との接続といった幅広い知識を短時間で学び、考えることができるセッションでした。
一番怖いのはやっているつもりでも実は意図せず生物多様性やCO2のフットプリントを増やしていることです。故意ではないグリーンウォッシュにならないよう、さまざまな角度から仮説や検証を繰り返していくことが大事だと思いました。
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文責:ミラツク 非常勤研究員 鈴木諒子