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さんらいふ(掌編小説)


葬儀屋に電話でもしようかな。いまから死体できます、はい、速達ってつかえますか?天国直通サービスはこちらではない。はい、そうですか、なら掛け間違いです……あ、地獄コース。へえ、最近そっちがお安いと。なるほど。どっちがいいと言われてもね、こちらはまあ、うーん……前金?あ、前金は生前の行い、と。ならそのコースでしょうね。それでも死ぬ価値はあるか?価値ですか。価値ねぇ。まあ、生きるにも死ぬにも値しませんよ、ほんとゴミみたいな人生だったから……あ、そういう話は食傷気味と。失礼しました。とにかく手短にね、魂にこう、戻りたいんですよ。肉が邪魔で。なら魂コースもある?本当ですか?ならそちらで。……はい、はい。あ、魂コースは現世をね。さまようだけですか。困ったなあ。死にたいっていうか帰りたいんですね、うん。お母さんっているじゃないですか。そう、お母さん。産まれた元の、例の。多分宇宙が本当のお母さんなので。呼ばれるんですよ、ほら、たかしーごはんできたわよーみたいな。今日はカレーだからはやく降りてきなーみたいな。あ、やっぱりそうなんですね。だから胎内にね、ああこういうの胎内回帰願望っていうんですね。それが強くて。なら生きていればカレーは食べられる?……聞いてます、話。もっと従順になれ、と、言いますと。ああ、輪廻にね。輪廻に従順に。なんか、標語みたいですね。赤信号みんなで渡れば怖くない、みたいな。あ、それは標語じゃないか、すみません。生きて死ぬ、生きて死ぬ。それをこう、あれでしょう、でんぐり返しみたいにね。セミって地中と地上どっちを夢だと思ってるんですかね。今この生きてるのを生きてるだと思ってるのって、変ですよね。生きてるだと思ってるから死にたいが成立する。ただの夢かもしれないのに。あ、だから痛いと死ぬのか。夢から覚めるじゃないですか、夢のなかであんまり痛いと。ああ、もう大丈夫です。一旦切りますね。では、またいつか。

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