作品撮影してたら闇バイト実行犯だと思われて警察に追われた話
久々に忘れにくい体験ができたので、忘れる前に書いておこうと思いました。というか、結論から言うと、僕のある行動がかなり無実の証明に一役かってくれました。皆様にも簡単に起きかねないこのような機会、どうしたら回避できるのか、何に気をつけるべきか、そして通報された時どうするのが良いのか、という話を備忘録的に緩く書いておこうと思います。沢山脱線しますが、日記だと思って見てください。
状況
その日は夜行運転で千葉の小湊という所に友達と三人で撮影に行こう、という予定。自分は年間課題に出すための作品写真、友達は小湊鉄道の始発を撮るために深夜1:30に東京発。最近車を貰ったのですが、これがまた楽しい。譲渡後1週間でイグニッションコイルが壊れたりしましたが、これくらい手のかかる方が可愛いってもんです。
友達との夜ドライブ、楽しいですよね。我ながら大学生すぎるな、と思いつつ、道中は今Canonギャラリーで展示をやってる友達の話だったり、授業や制作、これからどうやって生きてくかの話をしてました。正直学校にいても電車に乗ってても同じような会話をしているのに、どうしてこうもドライブになると今まで踏み込まなかった他人の領域にまで踏み込めるのでしょうか。ということで、千葉に入って休憩をしに大通り沿いのコンビニへ。これが事件のきっかけになるとは…
今回作る作品は風船を使う写真だったのですが、相変わらずドジが発動して、風船を固定する紐を買い忘れてました。深夜だしホームセンターは開いてないから終わった〜、と思っていたのですが、段ボールとかをまとめて出す用途のビニール紐ならコンビニで買えると聞いたので、休憩ついでにビニール紐と切るためのハサミを購入。百均でも買えるものをコンビニで買うときだけ感じるあの屈辱と安堵の混ざった感情、嫌いじゃないです。隣のスタンドで給油ついでにちょっと写真を撮るなり、買ってくれたホット清涼飲料水を飲むなどして休憩したら、始発電車に余裕を持って着くため再出発。この時何故かコンビニの店員さんが店の外に出てて、寒そうなのに大変だなと思いました。
大通りを抜けたら、30分くらい千葉の田舎道を走ってました。暗がりの中景色が変わって、窓を開けると寒さの雰囲気が都市と違っていると、どんなに距離が近くたって旅情を感じますね。「田舎道と星、良いな〜」と口角を上げていると、後ろから爆音のサイレン。絶対皆寝てる住宅街でもその音量なんだ、と思って道を譲ろうとしたら
「前の〇〇ナンバーの車、止まってください」
「〇〇じゃないし、俺じゃないか」
道には3台くらい他の車がいたので、まぁナンバーの地名違うし自分じゃないだろと思って普通に進んでましたが、どうにも自分の前に行かないし、まだ当該車両は止まってないらしい。なんだこれ、俺か?賢い友達が警察がナンバーを見間違えてるだけだから止まろうと言ってくれました。ありがとう、地名違うし自分じゃないだろと思ってましたが、まぁ普通に夜じゃ見間違えますよね。“サリーとアンのテスト”みたいだなと振り返って思いました。前にも夜中友達を迎えに行ったら職質されたこともあったので、今回もそういうのだろうと思って、普通に車を止めて職質を受ける気持ちで警察官と対面。なんだか雰囲気が前と全然違う、明らかにこちらを"敵"として見ているような、威圧感、緊迫感が自分にも流れ込んできて伏し目がちに。
「買ったもん出して」
「…?」
最初全くわからなかったのですが、どうやらコンビニで買い物をした事を知っているようで、それを出す展開に。紐とハサミ、深夜のコンビニで馬鹿そうな目つきの悪い若者が仲間と一緒に購入。この展開を経たことで自分の中でも答えがわかってきました。そうです、コンビニの店員さんが、深夜に仲間と一緒に紐とハサミだけ購入していった、馬鹿そうで人相の悪いガキを、闇バイト実行犯だと思って通報したようです。最初は"紐"の印象と、普段鬱すぎるせいで、自殺として通報されたのかと本気で思ってました。無理もない、というかまぁこの店員さんは勇気のある正常な判断をしたのだと思います、ドキドキさせてごめんなさい、闇バイトじゃなくて病みがち美大生(広義)です。
ここからが重要。完全に誤解されて敵意を向けられているので、それを解こうと模索することに。とりあえず聞かれた「この時間にここで三人で何すんの」「この紐とハサミ何に使うの」という質問に対して、始発電車を撮るためです、とか、写真アートの作品を撮るためです、とか正直に答えたのですが、なんだか微妙な反応。確かに"写真アート"で紐とハサミって言われてもピンと来ないし、いくらでもつける嘘だからきついかと。どうにかこの供述に説得力を持たせるため、自分はトランクにある"作品の絵コンテ"と学生証を見せることにしました。この時、勝手にトランク開けようとしたら普通に怒られて怖かった、そりゃそうだよね俺闇バイト容疑者なんだから。許可を経て絵コンテを取り出して警察官に見せる、
「こういうコンセプトでこういうビジュアルの写真作品を撮りたくて、その過程で紐が必要だったんですけど、買い忘れてたのでコンビニで買ったんです」
「大学の芸術学部でアートの勉強・制作をしていて、この作品はその一環で作るものなんです…」
喋りながら、ネオダダのハプニングアートで事情聴取を受けた美術家の話を思い出していました。
芸術とは体制との戦い、マイノリティがマジョリティへ向ける問い。
他ページまでびっしり書かれたネタ帳、沢山のゴツいカメラ機材や準備品、作品を作る必然性が説明しやすい美大生(広義)という身分。これらの状況を確認した辺りで、やっと敵意が薄くなった感触がありました。本当によかった、絵コンテを書いておいて、芸術学部に入学しておいてよかったと久々に思いました。警察官曰く、どうやら近辺でも少し前に闇バイト強盗があったらしく、そのこともあってかなり地域的にも警戒の感度が高いんだそう。
その後は購入品や絵コンテ、身分証などの写真を撮られ、闇バイトの専門家?みたいな警察官などが何度かに分かれて来て、その度同じ説明をする時間。トランクやダッシュボードの中、それと携帯の中をチェック。その間、アクションカムの話をしたり、大学のことについて普通に話したりして、この時やっと解放へ向かっている気がしました。悪い癖というか、人間皆一度は考えると思いますが、この取り調べ中にこの小さい車に乗り込んで爆走したら、ルパン三世みたいでめちゃくちゃ面白いだろうな、と妄想しながら時を過ごし、最終的にはパトカー3台に囲まれてました。大ごとになりすぎてないか、ごめんなさい紛らわしいことして。取り調べ中、俺の忘れ物のせいで色々面倒に巻き込んでしまった友達にずっと謝ってました。正直面白いと思ってたので、あまり反省はしてませんが。
結果的には、なんやかんや警察官八人くらいで協議した結果、1時間弱で解放してもらえました。本当は現地について1時間くらい寝させてもらおうと思ってたのに、この一件で完全にちゃんと寝る機会を失い、未だに残るドデカい疲労を被ることになったのでした。
教訓・リスク回避についての考察
よく、男性はそこにいるだけで女性に比べて加害性がある、という話があります。正直これは中年になってからが本懐だろうと思っていましたが、社会に絶望した上に馬鹿な同級生が闇バイトで世間を震わせている今、条件が揃えば自分自身も十分に居るだけで強い加害性があるのだなと、体感しました。深夜、友達と、田舎に、コンビニで、紐とハサミだけ。まぁ確かに馬鹿で準備不足な闇バイトが、拘束用の紐を買い忘れて買ったようにも見えますね。そもそも、友達とコンビニ深夜に車できて、ビニール紐とハサミだけ買って帰る客って意味わからないですしね。自分も作品撮りの忘れ物でなければ買うことはないと思うので。
結局は、"変な事しない"というのが一番のリスク回避になりそうです。赤の他人にも自分の行動の意図がわかるように行動することは、社会性なのかもしれません。コンビニで紐を買うとき、僕がもっとよくあるアーティストのイメージに合致した様相をしていれば、闇バイトとして疑われることもなかったのかもしれません。というか、忘れ物はしないに限りますね、本当に。同年代で夜中複数で車移動する時、つまり居るだけである程度加害性がある時は、振る舞いを考える必要がありますね、善良なおじさんがグイグイ若者に近づかないようにするのと一緒です。
にしても今回、"絵コンテ"と"身分"にかなり救われたなーと思います。ほぼ奇跡です。僕は普段セットアップの撮影をするときは絵コンテを必ず書いてから撮影に臨むのですが、これには沢山のメリットがありますし、多くの著名な写真家も同じようにやっています。思い付きで適当な事を言わない方がいいのと同じ理由です。しかしこのご時世、絵コンテを書いて撮影に臨むことは、身を守ることにも繋がるようです。変なものを持ち歩いてても、沢山書き込んであるネタ帳を見せれば、説得力もあります。もちろん、全ての撮影でやる必要はないし、人の写真への向き合い方は多岐にわたるので、一概に必須とは思いません。しかし、今回のように"人に危害を加えることが想像しやすい物"を使う撮影(刃物とか、モデルガンとか)をするなら、もしもの時に備え、身を守るために絵コンテを書いておくことをお勧めします。
身分については、再現性もないですが、やはり多少世の中の"普通"からズレた事をやらないといけない人は、芸術学部や美大に行くことをお勧めします。職質だけでなく、色んな所で自分のやってることを説明しやすいです。そして、多くの人は勝手にそれっぽいイメージを想像して納得してくれます。今まではあまりそういった恩恵を強く感じませんでしたが、今回のような"作品を作る必然性"を極めて簡単に、且つ説得力のある説明ができるのは、圧倒的に美大生(広義)という身分があったからだと感じました。これを見てる高校生、受験相談なら乗るから是非こちらの世界へ来てください、思ったより居る人は皆普通です。
ということで、今回は童顔フェイスの俺が闇バイト実行犯だと思われて取り調べを受けた話でした。これ、今回は時間に余裕あったから睡眠時間ロスとだけで済んだけど、ネイチャー系で朝焼けとか狙うために地方まで来て時間ギリギリのシチュエーションとか考えると、かなり怖いです。皆さんも気をつけて、誤解を生まない、解きやすい状態で撮影をしましょう。この前もTwitterで、街でスナップしてたら強盗の下見だと思われた、みたいなツイートも見たので、かなり状況は厳しいのだと思います。ポートフォリオや絵コンテを持ち歩いたり、美大に入学したりして自衛していきましょう。以上です。