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未来社会における時間認識の姿4/5―未来のための考え得る解決策3つの検証・乗り越えるべきは他我問題(藤平泰徳)

【カテゴリ】評論
【文字数】約10000文字
【あらすじ】
科学技術の進歩により、私たちは様々なことを「時間をかけずに」できるようになった。だが、新しい技術やサービスの恩恵を、全人類が一様に受け取れるわけではない。地域の差、知識の差、情報の差、貧富の差によって、ある物事を行うのにかかる「時間」は異なるだろう。その事実はやがて個々人の「時間認識」のズレとなり、社会に亀裂を生む原因となるかもしれない。
本連載では、現代社会の時間認識の構造と問題点をあぶり出し、その分断を乗り越える「新たな時間認識」の未来図を素描する。(全五回)
【著者プロフィール】
藤平泰徳。フリーライター。ビジネスメディアにノウハウ記事、アニメ声優サイトにイベントレポートなど、ジャンルレスでさまざまな文章を寄稿。元書店員として、本屋に関するコラムも執筆。【時間】の観点から、人間関係、生き方について、ひっそりと研究中。https://nanadori.net/

1/5: 科学技術の発展に伴う問題と新たな時間認識の必要性
2/5: 「今」と「はやさ」を全面的に肯定する日本人
3/5: 両立し得ない意識から見る未来社会のストレス

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AIの暴走によってパニックに陥る大都市。人工知能に頼り切っていた交通機関、医療機関などのインフラはあっという間に機能不全となり、人々は何が起きたのかわからないまま道端に立ち尽くす。

やがてAIに職を奪われたり、復旧の目処が立たない現状に苛立ちを覚えたりした一部の人たちが暴徒化し、大規模なデモ活動に発展。東京や大阪、福岡などは混乱を極めていた――。

そんな様子が次々にテレビニュースに映し出されたあと、AI導入率の低い沖縄にいた老人(道場の師範らしき人)にインタビューする様子が映し出される。

「人工知能が今暴走してしまっているんですけど、それについてはどう思われますか?」

インタビュアーにそう質問された老人は、やや困ったように笑いながらこう答えた。

「人工知能ねえ……あんまりわからんけど」

これは、映画『AI崩壊』(※1)のとあるワンシーンである。もちろん、この描写は沖縄の人たちに危機意識がないことを表現したいわけではない。指し示しているのは科学技術の発展、それによって生じた社会の分断、そして溝の深さである。

人工知能が浸透していない社会では、当事者意識が持つことができない。彼は文字通りならぬ言葉どおり、本当に「わからない」のだ。慌ただしく動く首都の人たちと、普段と変わらず道場で稽古に励む人たち。そこには、当人たちが感じている以上に大きな時間認識のズレが生じている。

ここまでの議論を改めて整理しよう。私たちは、今を大切にする意識〈N意識〉と、はやさを大切にする意識〈S意識〉を強く持っている。ふたつの意識は社会のさまざまな場所に影響をもたらし、それが科学技術発展の原動力となっていた。

しかし、〈N意識〉と〈S意識〉は、実は両立し得ない性質を潜在的に有している。ふたつの意識は相互補完的ながら、前者がなければ後者が生じ得ないという主従関係にあった。

そして、今やふたつの意識は事あるごとにぶつかり合い、私たちを疲弊させる要因となっている。科学技術の発展によって〈S意識〉が〈N意識〉の領域で求められ始めたからだ。この両意識のいがみ合いからの解放が、私たちが求めるべきものであり、本連載はそのために新たな時間認識を見つけたいとして議論を進めてきた。

では、解決策を探ってみよう。結論から言えば候補は3つある。

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