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BIMの真価を発揮させる「共通データ環境(CDE)」とは


官民一体の取り組みにより、「BIM(Building Information Model)」という言葉が建設業界に定着したといえるのではないでしょうか。しかし、言葉は定着したものの、本当の意味でBIMを活用できているかという疑念を抱いている方も多いはずです。

今回紹介するのは、建築物のデジタルツインを実現する上で核となる「共通データ環境(CDE:Common Data Environment)」です。共通データ環境を構築することで、BIMの真価を発揮できる環境を整備できるといえるでしょう。

BIMの力で設計・施工・維持管理を改善してよりよい建築を目指したいと考えている方は、ぜひご覧になってみてください。

共通データ環境(CDE:Common Data Environment)とは

それではさっそく共通データ環境についてみていきましょう。イギリスが発祥であるCDEの考え方、運用する際のポイントなどを紹介します。

共通データ環境はBS1192やISO19650で提唱されているデータ管理方法

共通データ環境は、BS1192:2007で提唱されているデータの管理方法です。設計・施工・運営などの多くの関係者が携わる建築・土木プロジェクトにおいて、データ管理(命名、分類、階層化、受け渡し)の標準的な方法を示しています。

BS1192とは、1190年に初版が発行された建設情報の扱い方を規定している英国標準です。CADなどの新技術の登場に合わせて改訂が繰り返されてきました。BIMという建設業の在り方を変える新技術を活用するため、共通データ環境をはじめとした新しい考え方を世界に発信している標準であるといえるでしょう。

また、共通データ環境はBIMの国際標準であるISO19650にも取り入れられています。ISOは日本でも取り入れられることの多い国際基準なので、日本で共通データ環境の考え方が普及する日も近いかもしれません。

日本では国土交通省が共通データ環境を検証している

共通データ環境は世界で注目を集めていることを述べましたが、翻って日本では、国土交通省が導入を検証しているところです。

国土交通省の令和2年度「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化連携事業」では、大和ハウス工業とフジタにより、「プロセス横断型試行PJにおける【共通データ環境】の構築と検証」という題の報告資料が公開されています。大和ハウス工業は、この試行PJにおいて設計段階のISO19650認証を取得しています。

報告書によれば、下に示す共通データ環境の全体概要図が示すとおり、設計・施工の業務で中心的な役割を果たしたとのことです。大和ハウス工業やフジタだけでなく、発注者やサブコン、維持管理者などもアクセスできる環境であることが共通データ環境の特徴です。

CDEの構成図
CDE(共通データ環境)の全体概要図
引用:国土交通省「プロセス横断型試行PJにおける【共通データ環境】の構築と検証」

共通データ環境で用いられるステータス

ここでは、共通データ環境の具体的なイメージを紹介します。共通データ環境には、「仕掛り作業(Work-in-progress)」「共有(Shared)」「確定情報(Published)」「アーカイブ(Archive)」の4つのステータスがあります。

CDEのプロセスを示す図
BS1192における情報共有のイメージ「CDEのプロセス」
引用:国土交通省「国内データ交換標準の検討」

●仕掛り作業(Work-in-progress)
社内設計チームが作業している状態。

●共有(Shared)
クライアントを含むプロジェクト関係者に共有されている状態。

●確定情報(Published)
プロジェクト関係者の承認が終わり、施工・竣工・引渡しに向けた確定情報。資産運用などのために、プロジェクトチーム外にも公開されるケースもあります。

●アーカイブ(Archive)
データの作業履歴を保管している状態。データが更新されたときの変更内容の確認や、問題が生じたときの原因解明に使用されます。

共通データ環境を運用するときのポイント

共通データ環境を運用するときに重要なポイントがあります。

それは、データのステータスを移行するときに、必ず責任者が審査・承認を行い、その履歴を残すことです。この過程により共有・公開されたデータの信頼性が担保されます。

共通データ環境を導入する場合は、この過程の仕組みをプロジェクト関係者全員に周知し、ルールを徹底するようにしましょう。

共通データ環境はデジタルツインの核となる

BIMによる効果として、デジタルツインによる建物の資産価値の向上が期待されています。共通データ環境を構築することができれば、建築主・設計者・施工者・維持管理者が自由に必要な情報を取り出せるようになり、一体となってよりよい建物を目指せるでしょう。

また、施工においては、ひとつのモデルに全ての情報が集約されるため、モデル上でさまざまな議論が可能です。設計者・施工者・専門工事業者それぞれの目線から見た問題点の早期発見に繋がり、事前の解決に繋げられます。

共通データ環境は、デジタルツインの核となる情報のプラットフォーム。共通データ環境を適切に整備することで、BIMの真価を発揮し、デジタルツインを実現できるのです。

共通データ環境を扱えるシステムの特徴

共通データ環境を扱えるシステムとしては、「BIMcloud(GRAPHISOFT)」や「BIM360(Autodesk)」などが挙げられます。ここでは、これらのシステムを選定する際に注目すべき特徴を紹介します。

インターフェースのわかりやすさ

共通データ環境に限ったことではありませんが、インターフェースのわかりやすさは重要な要素です。

前述のとおり、共通データ環境は、設計者や施工管理者だけでなく、建築に不慣れな建築主やBIMに慣れていない協力会社、メーカーを含めた関係者全員で取り組むことで意味のあるものとなります。

そのためには、直感的でわかりやすいインターフェースを採用し、誰でも触りやすいモデルとすることが大切です。特に、建築に不慣れな人でも理解しやすいというのが重要なポイント。誰でも触りやすいインターフェースであれば、情報にアクセスしやすくなり、建築主の意思決定もスムーズに進むことでしょう。

データ管理のわかりやすさ

共通データ環境において、データの信頼性は前述のステータスによって示されています。そのため、データがどのステータスにあるのかがわかりやすいことが重要なポイントです。

また、データのステータスは責任者の審査・承認によって決定されているので、この過程の履歴を手軽に確認できることも大切です。これらの作業履歴は「アーカイブ」のステータスに保管されます。アーカイブ機能が充実していると、データの管理をしやすいでしょう。

チームワーク機能

チームワーク機能とは、BIMモデルを複数の人が同時に閲覧・編集できる機能です。大規模プロジェクトで特に活躍する機能ですが、現在は使用できるシステムは限られています。

共通データ環境を扱えるシステムはベンチャー企業などにより開発が進められており、今後はチームワーク機能を使えるシステムが増えると予想されます。

チームワーク機能は作業効率を大きく左右する機能なので、チェックしてみてください。

課題の共有機能

共通データ環境では、課題が残っている部分をリストで管理することができます。

システムによってはキャプチャと合わせて設計者や施工管理者などの関係者に共有し、解決を促すことが可能です。

例えば、ある部分で干渉が生じている際に、「図面を印刷して要点を記し、PDFを取ってメールで送る」というような従来の手順をスキップできるため、一つひとつの問題をスピーディに解決できるでしょう。

干渉チェックに限らず、納まっていない部分なども同じようにキャプチャで周知できるため、多くの問題の早期解決に繋げることができます。

国内での活用事例

最後に、国内での活用事例を紹介します。共通データ環境が普及する日が近いかもしれませんので、ぜひ参考にしてみてください。

鹿島建設「BIMを活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェアエコシステムによる支援の検証」

鹿島建設は国土交通省の「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」において、「BIMを活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェアエコシステムによる支援の検証」を行っています。そのなかで、共通データ環境を使った施工の進捗管理が紹介されています。

鹿島建設におけるBimsyncの活用事例
引用:鹿島建設株式会社「BIMを活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェアエコシステムによる支援の検証」

このプロジェクトでは、鹿島建設が開発した進捗管理システム「BIMLOGI」と共通データ環境「Bimsync(Catenda社)」を連携しています。

BIMLOGIは、「出荷」「施工」などの進捗に応じて部材を色分け表示できる機能を有したシステムです。Bimsyncと連携させることで共通データ環境においても進捗を確認できるようになり、データの一元化を図っています。

竹中工務店「竹中新生産システム」

竹中工務店は建設現場における生産性向上を目指す「竹中新生産システム」の中で、「StreamBIM(Rendra社)」を中心とした共通データ環境の構築を進めています。


竹中工務店が目指すStreamBIMを中心として共通データ環境
引用:株式会社竹中工務店「Rendra社とBIMを活用したDXに向けた技術開発で連携」

パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットで共通データ環境を扱うことができ、設計・施工・維持管理の関係者のコミュニケーションの円滑化に役立てているとのことです。

すでに50以上の建設現場で活用しており、StreamBIMの開発元であるRendra社と連携して更なる共通データ環境の開発に取り組むとしています。

おわりに

共通データ環境は、BIMによるデジタルツインの核となる考え方です。世界では既に国際標準化機構に取り入れられており、国土交通省が参考にしていることからも、日本で普及する日が近いかもしれません。BIMの真価を発揮し、建物の価値を向上させることができる手法なので、ぜひ取り入れてみてください。

参考
国土交通省「国内データ交換標準の検討」
国土交通省「プロセス横断型試行PJにおける【共通データ環境】の構築と検証」
鹿島建設株式会社「BIMを活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェアエコシステムによる支援の検証」
株式会社竹中工務店「Rendra社とBIMを活用したDXに向けた技術開発で連携」


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