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建設分野で躍進する3Dプリンター。新技術で実現する未来の建築

さまざまな3次元形状を「印刷」できる技術が、3Dプリンターです。既に多くの分野で活用されていますが、建設分野においても実用段階に入ったといえるのではないでしょうか。技術的な課題だけでなく法的な課題もありましたが、いくつかのプロジェクトではそれも乗り越えて実現に至っています。

そこで、今回は建設分野における3Dプリンターの扱いについて解説し、さまざまな事例を紹介します。最後には、「印刷」という新たな技術により可能になる設計法についても触れますので、設計者も施工者もぜひご覧になってみてください。


3Dプリンターとは

まずは3Dプリンターとはどのようなものかをみていきましょう。

さまざまな分野で活躍している3次元印刷技術

3Dプリンターは、自動車・航空宇宙・医療・玩具などのさまざまな分野で活躍している3次元印刷技術です。ロボットのアームから材料をたらし、幾重にも積層していくことで3次元形状をつくっていきます。断面図を積み上げて3次元にするようなイメージです。

3Dプリンティングの大きなメリットのひとつは、型がいらないことです。通常は型にプラスチックなどを流しこんで製作するため、材料だけでなく型の費用が発生します。

また、場合によっては型の製作が難しいことを理由にディテールの表現に限界がありました。3Dプリンティングは型の製作コストを削減するだけでなく、細かい自由形状の表現を可能とします。

3Dプリンターで使える材料

3Dプリンターで使われている一般的な材料は、樹脂(プラスチックなど)です。建築に携わっている方であれば、3Dプリンターでつくった樹脂製の建築模型に触れたことがある方も多いでしょう。

その他には、石膏などが挙げられます。さらに、近年注目を集めているのは、金属3Dプリンターです。鉄・銅・ステンレス・アルミニウムなどを使えるようになり、自動車・航空宇宙・医療などの分野で活躍しています。

建設分野では、コンクリート(モルタル)を使った3Dプリンターの開発が積極的に行われています。この記事で紹介するのも、コンクリートを使った3Dプリンターです。

法律上の建設用3Dプリンターの扱い

ここでは、法律上の建設用3Dプリンターの扱いについて解説します。3Dプリンターを採用するときは避けて通れない内容なので、留意しておきましょう。

3Dプリンターで使う材料は指定建築材料ではない

建築で使われている一般的な3Dプリンターの材料は、3Dプリンター専用に開発された特殊モルタルです。これらの特殊モルタルは、基本的に建築基準法第37条で定められている「指定建築材料」には該当しません。

そのため、特殊モルタルを使った3Dプリンターによる建物は、建築基準法第20条の大臣認定取得が必要です。ここで、国土交通省が掲載している「建設用3Dプリンタにおいて用いられるモルタルの取扱い」を紹介します。

3Dプリンターで用いるモルタルの法律上の扱いを示した図
建設用3Dプリンターにおいて用いられるモルタルの取扱い
引用:国土交通省「建設用3Dプリンタにおいて用いられるモルタルの取扱い

上図のポイントを簡単にまとめると以下のとおりです。

  • 3Dプリンターを非構造部材に使うのであれば、通常と同様に扱える

  • 3Dプリンターで型枠を製作した場合、特殊モルタルを構造耐力に考慮しないのであれば、通常と同様に扱える

  • 3Dプリンターで型枠を製作した場合、モルタルを構造耐力に考慮するのであれば、大臣認定の取得が必要

つまり、「構造耐力としてモルタルを考慮するのであれば、特別に審査を受ける必要がある」ということです。この点に留意して計画を進めましょう。大臣認定取得は通常の確認申請と比べて時間がかかるため、スケジュールについても確認しておくことが大切です。

大臣認定を取得した建物事例「3dpodTM(大林組)」

国内で初めて国土交通大臣認定を取得した3Dプリンターによる建物が、「3dpodTM(大林組)」です。

国内初の3Dプリンターによる大臣認定取得建物「3dpodTM(大林組)」の写真
国内初の3Dプリンターによる大臣認定取得建物「3dpodTM(大林組)」
引用:大林組「3Dプリンター実証棟「3dpodTM」が完成

この建物では、3Dプリンターですべての地上部分の部材を製作しています。なかでも、壁は現地で直接プリントしたとのことです。

3Dプリンターが得意とする有機的な自由形状を取り入れており、「pod」が意味する「まゆ」のような柔らかい表情が印象的です。材料には3Dプリンター用特殊モルタルなどが用いられています。これらの材料の強度や品質は大臣認定で審査を受けています。

NETISに登録された「建設用3Dプリンティング(Polyuse)

「建設用3Dプリンティング(Polyuse)」が3Dプリンティング技術として国内で初めてNETISに登録されたことが注目を集めました。NETIS(新技術情報提供システム)とは、国土交通省が扱う新技術のデータベースシステムです。

既に公共工事35件を含む53件の実績を持ち、NETISに登録されたことで利用拡大が進むだろうとしています。

3Dプリンターは生産性向上に繋がる技術であり、国土交通省が推進する「i-Construction」の方針にぴったりです。Polyoseのようなベンチャー企業による開発も活発な技術なので、最新の情報をチェックしながら採用を検討してみてください。

続々と登場している建設分野の3Dプリンターやモルタル

3Dプリンターや特殊モルタルは続々と登場しています。ここでは、それらの例を紹介したいと思います。

アームロボット式のコンクリート3Dプリンター「c3pd(會澤高圧コンクリート)」

會澤高圧コンクリートは、アームロボット式のコンクリート3Dプリンター「c3pd」を開発しました。以下に示すのは、c3pdによる施工第一弾となるグランピング施設です。

「c3pd」で印刷されたグランピング施設の全体画像
「c3pd」で印刷されたグランピング施設
引用:會澤高圧コンクリート株式会社「コンクリート3Dプリンタで宿泊施設を国内初“印刷”

型枠を用いずに複雑な形状を実現し、「施主の想いを唯一無二のカタチにかえて建築の価値を最大限に引き出す」(引用:會澤高圧コンクリート株式会社「コンクリート3Dプリンタで宿泊施設を国内初“印刷”」)と述べています。

會澤高圧コンクリートは、バクテリアを使った自己治癒コンクリート「Basilisk」を開発したイノベーションを重視するコンクリートメーカーです。

c3pdは、施主の想いを実現するために進化し続けるコンクリートメーカーだからこそできた技術かもしれません。

指定建築材料として大臣認定を取得した「構造用ラクツム(清水建設)」

清水建設は、3Dプリンターで使えるコンクリート「構造用ラクツム」を開発し、建築基準法の指定建築材料として大臣認定を取得しました。構造用ラクツムとは、繊維補強セメント複合材料「ラクツム」に粗骨材を混ぜたものです。指定建築材料に認められたことで、通常の確認申請で建物の審査を受けられます。

同社は構造用ラクツムを使い、駐車場屋根を施工しています。3Dプリンター特有の滑らかな曲線の屋根先や有機的な斜め柱が未来を感じさせるデザインです。

「構造用ラクツム」で作れられた駐車場屋根の写真
「構造用ラクツム」で作れられた駐車場屋根
引用:清水建設株式会社「3Dプリンタでコンクリート構造体を印刷

3Dプリンターで変わる設計法

ここまでは施工の観点から3Dプリンターを紹介してきましたが、変わるのはそれだけではありません。ここでは3Dプリンターで可能になる設計について触れていきます。

自由形状をつくりやすくなる

前述の「3dpodTM(大林組)」や「c3pd(會澤高圧コンクリート)」によるグランピング施設は、3Dプリンターで印刷したコンクリート外壁がファサードを兼ねています。

3Dプリンターは自由形状を得意とするため、外壁に造詣を施すことでそのままファサードにすることが可能です。その他にも、樹木のような分岐を有する柱や、波打つ屋根など、さまざまな形状を実現できるでしょう。

製作難易度の高さからデザインを妥協しなければいけない経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。3Dプリンターであれば、思いどおりの形状を自由に設計・施工できるかもしれません。

3Dプリンターはジェネレーティブデザインやトポロジー最適化との相性が良い

コンピューター技術を使った新たな設計法として登場しているのが、「ジェネレーティブデザイン」や「トポロジー最適」です。これらは設計条件からコンピューターに最適化設計させることができる技術で、設計者の工数削減や新たなデザインの創出、コスト削減の観点から注目を集めています。

一方、コンピューターによる最適化設計の結果は、無駄な材料を削減するために複雑な形状であることも多く、従来の施工法では実現が難しいケースもあります。

そこで活躍するのが3Dプリンターです。

3Dプリンターは、型を要さずに自由形状を実現できるため、最適化設計とは相性がよいといえるでしょう。コンピューター技術の発展とともに、3Dプリンターの活躍の場はますます広がっていくことが予想されます。

おわりに

数年前は小さな建築模型に使われる程度だった3Dプリンターが、いよいよ実用段階を迎えています。国土交通省が推進する「i-Construction」の実現にも貢献する技術なので、建設業界全体で利用が広がることでしょう。最新技術の動向を注視し、積極的に活用してみてください。

参考
・国土交通省「建設用3Dプリンタにおいて用いられるモルタルの取扱い
・大林組「3Dプリンター実証棟「3dpodTM」が完成
・PR TIMES「【国内初】Polyuse「建設用3Dプリンティング」が国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS」に登録
・會澤高圧コンクリート株式会社「コンクリート3Dプリンタで宿泊施設を国内初“印刷”
・清水建設株式会社「3Dプリンタでコンクリート構造体を印刷

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