見出し画像

画像生成AIを使って建築パースをつくる。設計プロセスの大変革

ジェネレーティブデザイン・トポロジー最適化などの新たな設計プロセスや、3Dプリンターを活用した新たな施工方法の登場により、建設業界はかつてない転換期を迎えています。建設業界への時間外労働の上限規制適用や多様な働き方の実現など、労働環境の観点からも身の回りでさまざまな変化を感じているのではないでしょうか。

今回紹介するのは、設計プロセスや働き方を大きく変える可能性を秘めている「画像生成AI」です。イメージに近い建築パースを手軽に生成できるため、建築主との打ち合わせ前にパース作成に追われる生活が変わるかもしれません。

その他にも、プレゼンテーション資料の作成などで活用できるので、積極的に画像生成AIを使ってみてください。


画像生成AIとは

まずは画像生成AIの概要について解説します。

キーワードやプロンプトをもとに画像を自動生成

画像生成AIとは、キーワードやプロンプトをもとに画像を自動生成するAIを指します。プロンプトとは、生成AIにイメージの方向性を指示するテキストです。画像生成AIはプロンプトを解析し、機械学習したデータを組み合わせて画像を生成します。

そのため、画像のクオリティはプロンプト次第です。

プロンプトは文章で作成することもできますが、一般的に画像生成AIが理解しやすいのは、単語の羅列です。例えば、ホテルのメインエントランスの雑誌風画像を生成したい場合、「hotel, main entrance, eye-level, warm tones, editorial」のようなプロンプトになります。生成AIは英語を得意とするサービスが多いため、英語のプロンプトにするのもポイントです。

このようなテキストのみでハイクオリティなオリジナル画像を生成できます。自分で画像をつくったり探したりするのと比べると、非常に手軽なのがメリットです。

それぞれの画像生成AIサービスの特徴

画像生成AIには多くのサービスがあります。なかでも現在注目を集めているサービスが「Midjourney」「Stable Diffusion」「Dall-E 3」です。ここでは、3つのサービスの特徴を紹介します。

Midjourney(David Holz)

「Stable Diffusion」と双璧をなす画像生成AIサービスです。Midjourneyの特徴は、初心者でも使いやすいことです。「Discord」というチャットサービスからMidjourneyに登録し、チャット欄にキーワードを入力すれば簡単に画像を生成できます。

利用環境構築のハードルが低く、気軽に使い始められるのがメリットです。また、フォトリアルな画像の生成を得意としています。建築パースとの相性がよく、実務でも使いやすいでしょう。

Stable Diffusion(Stability AI)

無料から利用できる人気の画像生成AIです。「Fine-tuning」や「ControlNet」といった高度な学習技術により、画像のハイクオリティなカスタマイズができます。

ブラウザもしくはインストールしたソフトウェア上で動作するため、使いやすいインターフェースで作業できるのもメリットです。

デメリットは利用環境の構築が難しいことです。特に、ソフトウェアをインストールして使う場合はパソコンのスペックが求められるので事前にチェックしておきましょう。

DALL-E 3(OpenAI)

DALL-E 3は、「ChatGPT」で有名なOpenAI社が開発した画像生成AIです。前身のDALL-E 2から大幅な進化を遂げ注目を集めています。

DALL-E 3のメリットは、デザイナーと会話をするような感覚で画像生成の指示ができることです。ユーザーが入力した文章をAIが解析し、ニュアンスに近い画像を生成します。また、さらに指示を追加することで画像を改善していくことが可能です。

ChatGPTの有料プランに登録していればDALL-E 3も使えます。また、サービスを提携しているBing(Microsoft)であれば無料で使えるのでチェックしてみてください。

生成AIの生成物の著作権について

生成AIは非常に便利なツールですが、注意しなければいけないのは、生成物の著作権です。まず、法的な観点からの解釈については、政府の知的財産戦略本部が以下のように述べています。

「AIを利用して生成した画像等を利用する場合には、著作権侵害の判断は通常の著作権侵害と同様。」
「生成された画像等に既存の画像等(著作物)との類似性と依拠性が認められれば、著作権侵害となる。」

知的財産戦略本部「生成AIと著作権

通常と同様に、著作物との「類似性」「依拠性」がポイントになることを頭に入れておきましょう。

次に注意しなければいけないのは、生成AIサービスが主張する著作権です。生成AIサービスによって、生成物の著作権を「生成AIサービスが保有する場合」と「ユーザーが保有する場合」があります。生成AIを利用する場合はチェックしておきましょう。

また、個人の非商用目的以外での利用を考えている場合は、商用利用の可否もあわせて確認するのが重要です。生成AIの生成物の著作権については、まだ完全に整理されているわけではありません。利用する場合は最新情報を確認するようにしましょう。

画像生成AIの建築実務における活用方法

ここでは、海外の事例や筆者の経験から考えられる画像生成AIの実務における活用方法を紹介します。普段の業務の中でどのように画像生成AIを活用できるかイメージしてみてください。

画像生成AIのパースで建築主とイメージ共有

建築主との打ち合わせで頻繁に求められるのが、建築パースです。しかし、建築パースの作成には多大な時間と労力が必要であり、時間外労働を強いられてしまうケースが少なくありません。

そこで考えられるのが、画像生成AIを使った建築パースの作成です。特にプロジェクトの企画段階では、建築主が目指している方向性を掴むのに役立つことでしょう。建築主との打ち合わせの場で画像生成AIによるパース作成を行えば、建築主のイメージを即座に反映しながら方向性を共有することができます。

海外では、建築主が画像生成AIを使ってイメージパースを持ってくる事例も増えているようです。画像生成AIによる建築パースの作成は、設計者の工数削減に大きく貢献してくれるかもしれません。

画像生成AIによる設計スタート時のアイディア出し

設計をスタートしたとき、建物の設計条件をもとにいくつかのアイディア出しを行います。このプロセスは設計者としておもしろい部分でもありますが、設計チームのメンバーや建築主にイメージを伝えるためのスケッチなどを用意するのは手間のかかる作業です。

画像生成AIを使いながらアイディア出しを行えば画像生成が同時にできるので、効率的に進められます。ときには生成された画像から新しいアイディアを得られることもあるかもしれません。

ジェネレーティブデザインの手法では、設計条件から数百~数千個に及ぶデザイン提案をさせます。画像生成AIやジェネレーティブデザインなどのコンピューターによるデザイン提案から今までにない発想を得るのは、設計プロセスの大変革に繋がる手法といえるでしょう。

隈研吾氏「否定の材料として活用」

建築家の隈研吾氏は、生成AIを「「否定の材料」として活用」(引用:日経BP「敵か味方か生成AI,日経アーキテクチュア,No.1242,36-37」)していると述べています。

生成AIに「隈研吾」の建築を生成させ、それとは異なる建築を目指すことで今までにない設計ができるとのことです。自分の建築を学習させるというのは、有名建築の多い建築家だからこそできることです。

しかし、世にありふれているデザインから脱却するという意味では、一般の設計者でも画像生成AIを「否定の材料」として使えるかもしれません。

DALL-E 3を使った建築パース作成の実演

ここでは、筆者が実際にDALL-E 3を使って建築パース作成を実演したいと思います。筆者は画像生成AIに触れるのは今回が初めてです。画像生成AIの初心者でも建築パースを簡単につくれることを感じていただければと思います。

ホテルのエントランスホール

まずは、ホテルのエントランスホールの建築パースを作成していきます。ラグジュアリー感のある豪華なホテルをイメージしてみましょう。

最初に指示したプロンプトは「豪華なホテルのエントランスホール」です。生成された画像は以下に2枚です。

プロンプト「豪華なホテルのエントランスホール」でDALL-E 3により生成された画像 その1
プロンプト「豪華なホテルのエントランスホール」でDALL-E 3により生成された画像 その1
DALL-E 3を使って筆者が生成
プロンプト「豪華なホテルのエントランスホール」でDALL-E 3により生成された画像 その1
プロンプト「豪華なホテルのエントランスホール」でDALL-E 3により生成された画像 その2
DALL-E 3を使って筆者が生成

次に、「中央に吹き抜けを作って」と指示を加えてみました。

追加プロンプト「中央に吹き抜けを作って」でDALL-E 3により生成された画像 その1
追加プロンプト「中央に吹き抜けを作って」でDALL-E 3により生成された画像 その1
DALL-E 3を使って筆者が生成
追加プロンプト「中央に吹き抜けを作って」でDALL-E 3により生成された画像 その2
追加プロンプト「中央に吹き抜けを作って」でDALL-E 3により生成された画像 その2
DALL-E 3を使って筆者が生成

立派な吹き抜けを持つ大規模なエントランスホールができました。

生成された画像ファイルは、「DALL·E (日付)- A luxurious hotel entrance hall with a central atrium, creating an airy and open feel. The hall features a high ceiling and a large skylight allowing .png」という名称になっています。

「豪華なホテルのエントランスホール」「中央に吹き抜けを作って」という入力が、ChatGPTにより画像生成AI用のプロンプトに変換されていることがわかります。

このように、デザイナーと会話をするような感覚で建築パースを生成できるのがDALL-E 3のメリットです。

戸建て住宅のリビングルーム

次に、戸建て住宅のリビングルームの画像を生成しました。

最初のプロンプトは、「木造戸建て住宅のリビングルーム」です。

プロンプト「木造戸建て住宅のリビングルーム」でDALL-E 3により生成された画像 その1
プロンプト「木造戸建て住宅のリビングルーム」でDALL-E 3により生成された画像 その1
DALL-E 3を使って筆者が生成
プロンプト「木造戸建て住宅のリビングルーム」でDALL-E 3により生成された画像 その2
プロンプト「木造戸建て住宅のリビングルーム」でDALL-E 3により生成された画像 その2
DALL-E 3を使って筆者が生成

北欧風の立派なリビングルームが生成されました。

日本の一般的な戸建て住宅をイメージしているため、「日本の4人暮らし程度をイメージ、雑貨を減らす」という追加プロンプトを入力します。

追加プロンプト「日本の4人暮らし程度をイメージ、雑貨を減らす」でDALL-E 3により生成された画像 その1
追加プロンプト「日本の4人暮らし程度をイメージ、雑貨を減らす」でDALL-E 3により生成された画像 その1
DALL-E 3を使って筆者が生成
追加プロンプト「日本の4人暮らし程度をイメージ、雑貨を減らす」でDALL-E 3により生成された画像 その2
追加プロンプト「日本の4人暮らし程度をイメージ、雑貨を減らす」でDALL-E 3により生成された画像 その2
DALL-E 3を使って筆者が生成

日本というキーワードにより、和室の画像が生成されました。

さらに「フローリング、テレビを設置」というプロンプトを追加します。

追加プロンプト「フローリング、テレビを設置」でDALL-E 3により生成された画像 その1
DALL-E 3を使って筆者が生成
追加プロンプト「フローリング、テレビを設置」でDALL-E 3により生成された画像 その2
追加プロンプト「フローリング、テレビを設置」でDALL-E 3により生成された画像 その2
DALL-E 3を使って筆者が生成

日本の現代風な戸建て住宅に近い画像が生成されました。ホテルのメインエントランスと比べると小規模な分、天井やふすまの表現に違和感が残ります。現在の画像生成AIは、ディテールよりも大きなイメージを共有する使い方が適していそうです。

おわりに

画像生成AIは設計プロセスの大変革を実現させるツールのひとつです。無料で使えるサービスもあり、誰でも気軽に触れることができます。これからは、生成AIを使いこなし、数多くの優れたデザイン提案ができる設計者が好まれる時代かもしれません。今のうちに画像生成AIを取り入れ、他の設計者から一歩リードした存在を目指してみてはいかがでしょうか。

参考
・David Holz「Midjourney
・Stability AI「Stable Diffusion
・OpenAI「DALL-E 3
・知的財産戦略本部「生成AIと著作権
・日経BP「敵か味方か生成AI,日経アーキテクチュア,No.1242,36-37」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?